アウトモビリ・ランボルギーニは2020年7月21日、スーパーSUV「ウルス」の生産台数が発表から約2年で1万台を達成したと発表した。
ランボルギーニではウルスをSSUV(スーパー・スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)と位置付けており、並外れたパフォーマンスや多目的性とラグジュアリー感、そして「ランボルギーニのDNAを感じさせるダイナミックなスーパースポーツカーのデザインを備えている、としている。
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それにしても、650psの4L、V8ツインターボエンジンを積んだ超弩級のスーパーSUVとはいえ、価格は3000万円超。超高額車が発表から約2年で1万台が売れたというのは驚異的だ。
なぜここまでウルスが売れたのか? 先駆車ともいえるポルシェカイエンをはじめとする高級SUVとは何が違うのか? モータージャーナリストの清水草一氏が解説する。
文/清水草一
写真/アウトモビリ・ランボルギーニ
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ランボルギーニ全体の6割を占めるウルス
ウルスのエクステリアは「カウンタック」で初採用された斜めのフードラインがボンネットに描かれるほか、Y字形のフロントエアインテーク、Y字形のLEDヘッドライト&テールランプなどを装備
第3の現行モデルとなるウルスの立ち上げに備え、2017年にイタリア北部のサンタアガタ・ ボロニェーゼ(ボローニャ県)にある本社工場を大幅に拡張している
ランボルギーニのスーパーSUV、ウルスの生産台数が、わずか2年で1万台を突破した。これはものすごい数字である。
ランボルギーニの販売台数は、ウルスが発表される前年の2017年は、3815台に過ぎなかった。そういう規模のメーカーに、突如として年平均5000台も売れるモデルが登場したのだ。
結果、ランボルギーニの販売台数は、2019年には8205台にまで伸びた。ちょうどウルスのプラスぶん、4962台がそのまま乗っかったような格好だ。
しかしこれは、ランボルギーニ社にとっては想定内だったはず。なにせランボルギーニは、ウルスの生産のために、本社工場を2倍に拡大していたのだから。だからこそこんな急激な増産が可能だったわけです。
カイエンターボSEハイブリッドクーペ(左)とカイエンターボSEハイブリッド(右)
なぜウルスのヒットが想定内だったかと言えば、ポルシェにおけるカイエンの大成功という先例があったからだ。
カイエンの登場当時、世のポルシェファンは「ポルシェともあろうものが、こんなクルマを出すなんて!」と大ブーイングだったが、そのカイエンが、これまでポルシェに無関心だった層を大いに引き寄せた。
現在はポルシェの販売台数のうち、約7割をカイエンとマカンのSUV勢が占めている。
ポルシェというブランドをまといつつ、スポーツカーのポルシェより断然気軽に乗れて、背が高いぶん押しも強いカイエンやマカンは、潜在的なポルシェファンを大量に発掘することに成功した。ちなみにカイエンのグローバルの販売台数は9万2055台とこれまた驚異的だ。
しかし、ウルスの場合は、カイエンよりもさらに成功の度合いが大きい。なにしろ、発売2年目にして、ランボルギーニ販売の6割を占めてしまったのだから!
ボディサイズは全長5112×全幅2016×全高1638mm、ホイールベースは3003mm。価格は2816万1795円。車両重量は2360kg(前軸重1340kg、後軸重1020kg)
搭載されるエンジンは4L、V8ツインターボで最高出力650ps/850Nmを発生。0~100km/h加速は3.6秒、最高速度は305km/h
ウルスはなぜここまで大成功できたのか?
スーパースポーツのSUVという存在は貴重
随所にヘキサゴンのモチーフが使われているウルスのコクピット
個人的な分析だが、ウルスは最初からメチャメチャ楽しくて、乗ると笑いが止まらなくなるようなスーパーなクルマだったから……ではないだろうか?
ポルシェカイエンが登場した当初は、ずいぶん未熟な部分があった。カイエンターボで東京と福島を往復した時は、あまりにもエンジンブレーキの効きが弱く、前へ前へと進むばかりで、ヘトヘトになりました。「こんなのがポルシェなのか!」と思いましたよ。
その後、熟成は進んだけれど、やっぱりポルシェのSUVは、911などのスポーツカーに比べると、どこかシロートさん向けに作っている感覚はある。
が、ウルスは違った。そりゃまぁベースはカイエンと同じフォルクスワーゲンの系のプラットフォームで、VWトゥアレグやアウディQ7と兄弟車の関係にはある。
「こんなのはランボルギーニじゃない!」というランボファンがいるのも当然でしょうけど、クルマの完成度は最初から非常に高かった。
ウルスは、まずスタイリングが素晴らしい。ランボルギーニ風の直線基調を維持しつつ、フロントグリル内の血走った眼、あるいは大蛇の舌みたいなおどろおどろしい装飾で、見事にランボルギーニを表現している。
ランボルギーニといえば猛牛。猛牛は狂ったように暴れるものだが、ウルスの顔にはその狂気がある!
インテリアも、アヴェンタドールなどに準じた、ちょっと子供っぽい夢にあふれている。
六角形のヘキサゴンモチーフが各所にちりばめられ、スターターボタンもアヴェンダ同様のミサイル発射ボタン風。バカになってランボルギーニを楽しむぜという気分にさせてくれる。
そして走り。とにかくもう、ウルスに乗ればなんでもできてしまう。加速も減速もコーナリングも、スーパーSUVの名に恥じない、すさまじいパフォーマンスなのである。
ランボルギーニの親会社であるアウディが、アウディのメカニズムを基本に、ランボルギーニ風なやりたい放題のパフォーマンスと、スーパーな演出をブチ込んだクルマとでも申しましょうか。
どんな乱暴な運転をしても大丈夫そうな安心感は、やっぱりアウディクワトロの血筋。
でもルックスやサウンドなどの演出は完全にランボルギーニ。だからつい羽目を外したくなる。安心の土台の上に治外法権的なパフォーマンスがあれば、ドライバーは特権的な快楽に浸ることができる。
もちろん、アヴェンタドールやウラカンも治外法権的なパフォーマンスを持つクルマですけど、それらに乗るには、乗降性や積載性や最低地上高の低さなど、いろいろな不便に耐えなければならない。
しかしSUVのウルスにはそれがない。潜在的にランボルギーニに憧れを抱いていたけれど、実際乗るのはノーサンキューだった富裕層にとっては、まさに「こんなランボが欲しかった!」となる。
しかも、価格は日本の場合、3068万1070円と、それほど高くない(もちろん大多数の庶民にとってはかなり高いが)。
アヴェンタドールは約4500万円、ウラカンも4WDモデルは3000万円を超える。富裕層にすれば、ウルスの値段は「意外と安いじゃないか」となるのではないか? 安くて便利なんて言うことないネ! って感じですか?
カイエンで経営を立て直したポルシェを見ればわかるように、スポーツカー専業メーカーは、ブランドイメージに特別感がある。スポーツカー専業メーカーのSUVだからこそ、ここまでのヒットになるのだ。
フェラーリも負けじとSUVを開発中
今後はランボルギーニ最大のライバル、フェラーリからSUVが登場しそうだ。写真はランボルギーニウルス2020年モデル
こうなると、焦点はフェラーリだ。現在「プロサングエ」なるSUVを開発中で、2022年に登場するといわれるが、フェラーリはフィアットグループともマセラティとも資本関係が切れていて、ベースになるSUVを借りて来ることができなかった。そのため、未経験のSUV開発に時間を要した。
2019年の総販売台数を見ると、フェラーリは1万131台と史上初めて1万台を超えたが、ランボルギーニは8205台でそれを猛追している。このままではウルス効果によってランボルギーニに逆転されてしまう! そんな焦りもあるでしょうね。
思えばスーパープレミアムブランドのSUVは、ポルシェカイエンとランボルギーニウルスとベントレーベンテイガが同じVW系のプラットフォームを使っており、それで儲けまくっている。フェラーリにすれば歯ぎしりものだ。
というわけで、絶好調のランボルギーニウルスだが、ランボルギーニの主要販売国で唯一、それほどの人気になっていないのが、ほかならぬ日本だ。
日本のランボルギーニファンは非常にピュアで、カウンタック以来の伝統であるシザースドアを持つV12ミドシップスーパーカーではないと、本物のランボルギーニとは認めない。
彼らは、高い金を出してわざわざ「アウディ」を買おうとは思わない。逆に、ランボルギーニに特別な思い入れのない人にとっては、ランボルギーニというブランドは派手すぎるゲテモノで、気軽に乗ろうとは思わない。
日本では、モデルごとの販売台数は公開されないが、とにかく日本は世界で一番アヴェンタドールの販売比率が高く、ランボルギーニ本社からも「特別な国」扱いされている。逆にウルスの販売比率は、主要国の中で一番低いようだ。
日本における現在の中古車流通台数を見ると、アヴェンタドール系/121台、ウラカン系/109台、ウルス/17台となっている。
ウルスはまだ発売から2年しかたっていないにせよ、流通台数が非常に少ない。つまり、それほど売れていない。こんな国は世界中で日本だけ! 日本人として、ちょっと誇らしい事実(?)ではある。
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みんなのコメント
スゴいけどカッコよくはない不思議な車。
実用的であれば3000万くらい出せる奴が田舎にもいるのか〜と感心した。金の引き出しにランボは成功したんだよね。
スーパースポーツユーティリティービークルですわ