■大出力のエンジンながら2WDにこだわったクルマを振り返る
日本でマイカーの普及が始まったのは1960年代の中ごろからですが、当時は大衆車でもFR車が主流でした。しかし、1970年代初頭にはFF車が次々と誕生し、比較的小型のモデルは広い室内が実現できるメリットからFF車が主流となります。
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そして、1980年代に国産車の高性能化が進むと、ラリーをはじめとするモータースポーツの世界からフィードバックされたハイパワーな4WD車が登場。
4WD車は大出力を4輪で路面に伝えることで、駆動力の損失が少ないというメリットがあり、まさに高性能車に相応しい駆動方式といえます。
しかし、ハイパワー車でありながら、あえて2WDにこだわったモデルも存在。そこで、往年のモデルから最新モデルまで、高性能な2WD車を5車種ピックアップして紹介します。
●フェラーリ「F40」
フェラーリが創業40周年を迎えた1987年に発売された「F40」は、公道を走ることができるレーシングカーというコンセプトで開発されました。
フェラーリの「スペチアーレ(特別な限定車)」のなかでも、伝説的なモデルとなっています。
シャシはカーボンやケブラーといった最新の複合素材や接着剤などが使われ、軽量・高剛性のセミモノコック構造を採用。地を這うように低いフォルムに大型のリアウイングを装備し、まさにレーシングカーそのものです。
リアミッドシップに搭載されたエンジンは、最高出力478馬力を誇る3リッターV型8気筒ツインターボで、1984年に販売されたスペチアーレの前作「288GTO」用に開発されたものをベースにチューニングが施され、公称の最高速度は324km/hと、発売当時の市販車では世界最速を記録しました。
F40には、パワーステアリングはおろかブレーキサーボすらも装備されず、快適装備も一切無く、しかも478馬力というだけでなく急激にパワーが立ち上がる特性で、とても一般人が運転できるものではありませんでした。
しかし、発表されると世界中の熱狂的なフェラーリファン、コレクターから注文が殺到。ちょうどバブル景気に湧いていた日本でもプレミアが付いて、新車価格4650万円だったものが最高で2億円以上にハネ上がったといわれています。
現在、F40の相場は1億円から2億円で、コンペティションモデルの「F40LM」ならば、5億円以上で取引されています。
●ポルシェ「911 GT2」
1964年に誕生したポルシェ「911」は、現在までの57年もの長い歴史を刻んでいますが、一貫して水平対向エンジンをリアに搭載してリアタイヤを駆動するRRを継承しています。
この911は初代から第4世代まで空冷エンジンを搭載していましたが、1994年に発売された最後の空冷モデルである「993型」は進化の最終形態といえる性能を誇りました。
この993型の頂点に立つモデルがル・マン24時間レースなどに参戦するために開発された「911 GT2」です。
911 GT2はレーシングカーとしての性能を追い求めたモデルでしたが、わずかな台数だけ公道走行可能な「911 GT2ストリート」が存在しました。
搭載されたエンジンは3.6リッター空冷水平対向6気筒SOHCツインターボで、最高出力450馬力を発揮。スタンダードな「911ターボ」が4WDであったの対し、レーシングカーに由来する911 GT2はRRの2WDを採用しています。
外観はレースに対応できるような大型のフロントスポイラー、リベット止めの前後オーバーフェンダー、サイドステップ、そしてエアインテークを備えた巨大なリアウイングを装備。
前出のF40と同様で快適装備はもちろん、安全装備も最小限で、まさにドライバーの腕次第のモデルといえます。
現在、空冷モデルの911は全般的に異様なほど価格高騰していますが、生産台数が数十台といわれる911 GT2ストリートは、オークションでも滅多に出品されることもなく、出品されれば落札価格1億円以上は覚悟しなければなりません。
●BMW「M5」
BMWの高性能モデルは、同社のモータースポーツ部門でもあるBMW M社によって開発され、車名に「M」が付きます。
そのなかでも「M4」や「M6」など、Mに続く数字が一桁のモデルは、「Mハイパフォーマンスモデル」と呼ばれる特別な高性能モデルとして君臨しています。
このMハイパフォーマンスモデルが日本で広まったきっかけは1985年に発売された初代「M3」で、ツーリングカーレースで勝つことを目的に開発されました。
そして、ミドルクラス「5シリーズ」のMハイパフォーマンスモデルとして2代目のE28型から「M5」が登場。なかでもシリーズで唯一となる超高性能な自然吸気エンジンを搭載したのが、2004年に発売されたE60型の4代目M5です。
搭載されたエンジンは5リッターV型10気筒で、最高出力は507馬力を発揮。当時、F1にエンジンを供給していたBMWの技術が余すこと無く投入され、大排気量ながらレッドゾーンは8500rpmに設定される高回転ユニットとなっていました。
本国と日本仕様では、組み合わされるトランスミッションは7速SMG(AMT)のみで後輪を駆動し、最高速度は250km/hでリミッターが作動。
ボディタイプは4ドアセダンと5ドアステーションワゴンを設定し、外観は前後ともワイドフェンダーとされ、フロントフェンダーにはスリット付きのエアアウトレットが開き、専用デザインの前後バンパー、そして高音質なエキゾーストノートを奏でる左右4本出しのマフラーによって、迫力ある外観を演出しています。
また、足まわりでは電子制御式ダンパーが採用されており、高い旋回性能とコンフォートな乗り心地を両立。
シリーズでも唯一となるV10エンジンを搭載したE60型 M5は、いまでは貴重な存在です。
■日本車でも2WDにこだわった高性能モデルがある?
●レクサス「IS F」
1989年からアメリカで展開されたトヨタの高級車ブランド、レクサスは、2005年から日本でも展開され、当初ラインナップされたクルマのなかでエントリーモデルだったのが4ドアセダンの「IS」です。
初代は国内の「アルテッツァ」と同一車でしたが、2代目からはレクサス専用車として開発されました。
そして2007年にはISをベースとして、エンジンからシャシまで手が入れられたハイパフォーマンスモデルである「IS F」が登場。
IS Fはサーキット走行も視野に入れたFRセダンで、搭載されたエンジンはフラッグシップの「LS600h」用5リッターV型8気筒自然吸気をベースにチューニング。最高出力は423馬力を発揮します。
トランスミッションは「LS460」用の8速ATをベースとし、1速以外のギアをほぼ全域でロックアップするプログラムを採用したことから、DCTにせまるダイレクト感と変速速度を実現しつつスムーズな発進加速を両立しました。
外装ではワイドフェンダーとし、巨大なエンジンを収めるためにボンネットが専用の造型とされ、フロントフェイスもIS F独自のデザインとするなど差別化が図られています。
現行モデルは2013年に発売された3代目ですが、2021年2月に同じく5リッターV8エンジンを搭載し、IS Fの再来ともいえる「IS 500 Fスポーツ」の北米仕様が発表されました。
●ホンダ「シビック タイプR リミテッドエディション」
2020年2月にホンダは、2021年モデルの5代目「シビックタイプR」をベースに、軽さと速さをさらに研ぎ澄ました限定車「Limited Edition(リミテッドエディション)」を発表しました。
日本をはじめ、欧州、北米、オーストラリアなど全世界で約1000台が限定販売され、日本では200台限定で発売されましたが、すでに完売しています。
リミテッドエディションは、エンジンの冷却性能向上やブレーキの改良、内装の質感が改善された2021年モデルのシビック タイプRに加え、1990年代のタイプRを彷彿とさせるサンライトイエローの復刻カラー『サンライトイエローII』を採用。
エンジンは2リッター直列4気筒VTECターボで、最高出力は320馬力を誇ります。このパワーを前輪のみで路面に伝えるのですが、おそらくFFでこれ以上のパワーアップは容易ではないでしょう。
さらにBBS製20インチ鍛造アルミホイールとミシュラン製パイロットスポーツ Cup2を装着し、リアワイパー、トノカバーなどの装備類を廃止することで、軽量化を図っています。
また、リミテッドエディションは2020年7月に、三重県の鈴鹿サーキットにおいてFF車最速となる2分23秒993というラップタイムを記録し、進化した実力を披露しました。
5代目シビックタイプRはスタンダードモデルも含め国内分は完売しており、次期型については未定となっています。
※ ※ ※
最後に紹介したシビック タイプRはFFで320馬力という大出力を発揮しますが、ひと昔前までは考えられないことでした。
それだけタイヤの性能が向上し、駆動力制御やハンドリングの制御技術が進化したことにほかなりません。
シビック タイプRは、FFにこだわったホンダの技術力の集大成といえるのではないでしょうか。
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