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管理職サルーンの象徴 フォード・ゾディアック オースチンA110 ヴォグゾール・クレスタ 後編

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管理職サルーンの象徴 フォード・ゾディアック オースチンA110 ヴォグゾール・クレスタ 後編

成功を象徴するサルーンとして一目置かれた

ルート66が似合いそうなアメリカンな見た目こそ、フォード・ゾディアック MkIIIの売りの1つ。当時のAUTOCARは、先代より多くの関心を集めるだろうとまとめている。モータースポーツ誌は、高速道路を160km/hで現実的に巡航できる性能に唸った。

【画像】管理職サルーン ゾディアック/A110/クレスタ エルフとホーネット 同時期の北米車も 全126枚

手頃な価格で威信を漂わせるサルーンを選べることに、意味があった。最終的には8万台近い数が英国紳士のもとへ渡っている。

今回、ブルーの1963年式ゾディアック MkIIIを持ち込んでくれたのは、2021年に購入したばかりだというデビッド・キーピング氏。「オーナーズクラブの仲間が、15年ほど前から乗っていたクルマです」

「以前から関心があると彼に伝えていたので、売却すると決めた時、1番に声をかけてもらったんですよ」。と経緯を説明するデビッド。トランスミッションは4速コラムで、オーバードライブは付いていない。

「とても滑らかに運転できます。ドラッグレースで勝つのは難しいですが。当時の競合モデルと同様に、パワーステアリングの装備も可能でした。オリジナルのダイナモは発電が弱いので、オルタネーターへ交換してあります。夜道は暗くて不安ですから」

ゾディアックは、1966年にMkIVへ交代。時代遅れになったテールフィンは削られ、スクエアな見た目になった。それでも、クロームメッキのフロントグリルが強い輝きを放つMkIIIは、成功を象徴するサルーンとして最後まで一目置かれた存在だった。

バランスに優れたプロポーション

対して、同じくテールフィンを備えたオースチンは、今回の3台では最もデザインが古い。オリジナルは、ピニンファリーナによって描かれたA99 ウェストミンスターで、1959年に発表されている。ウーズレーとプリンセスの兄弟モデルと同時に。

A110を名乗り、新しいフロントグリルを得たのは1961年。他の2台と同様に、英国社会では一定の地位にある人へ向けられたサルーンだった。

当時のパンフレットを振り返ると、「威厳のある配色で強く輝く」「際立った人へ向けた際立ったモデル」といった言葉で訴求している。時間を節約したいビジネスマンへ、理想的なモデルだとも。

当時のAUTOCARは、冷静に仕上がりを伝えた。「落ち着いた見た目で、広々とした車内・・・エグゼクティブの移動手段として非常に適しています」

1964年にフェイスリフトを受け、A110 MkIIへ進化。1968年まで生産が続けられたが、その頃にはライバルのゾディアックはMkIVへ、クレスタはPCシリーズへモデルチェンジしていた。

とはいえ、A110 ウェストミンスターが古びて見えるわけではない。バランスに優れたプロポーションのお陰だろう。イタリアで創造されたアメリカンな雰囲気が、好ましい印象を与える。荘厳な雰囲気を漂わせ、弁護士が乗っていても不自然ではない。

今回のグレーのクルマは、マーク・シェプリー氏がオーナー。2011年に1967年式を購入している。グレードはスーパー・デラックスで、A110 ウェストミンスターMkIIの典型的な内容を今に残す。

思わず帽子をかぶって運転したくなる

オースチンのフラッグシップ・サルーンらしく、リアシートにはピクニックテーブルが据えられ、ダッシュボードやドアパネルはウォールナットの美しい木目パネルで彩られる。英国紳士なら、思わず帽子をかぶって運転したくなるだろう。

A110 ウェストミンスターを選びたいと思わせる理由の1つが、Cシリーズと呼ばれる洗練された3.0L直列6気筒OHVエンジン。当時のAUTOCARでは、上質さを乱すことなく他車を置き去りにできると、力強さへ感心している。

オーナーのマークも、その評価には賛同する。「素晴らしく滑らかで、背筋を伸ばした運転姿勢のおかげで、長時間運転しても腰が痛くならないんです。現代のモデルと比べれば全幅が狭く、狭い道での運転も簡単です」

「フロントの三角窓は、走行中に心地良い空気を吹き入れてくれます」。と話す彼は、燃費の悪さくらいしか目立った欠点はないと考えている。

「トランスミッションは、ライバルと比べれば洗練度で劣りますね。オーバードライブは滑らかに入りますが、加速時のシフトダウンが少々苦手。坂道では、計画的にギアを選ぶ必要があります。そのかわり、1960年代としては驚くほどブレーキは優秀です」

ダイナモの発電量は少々心もとないという。ワイパーを動かすのもやっと、といったところらしい。「雨の日の夜間ドライブは大変でしょう。そんな機会はまずないですが」

管理職向けサルーンが不可欠だった英国市場

今回ご協力願ったサルーンは、いずれも経年劣化が最小限に留められている。殆どサビのない3台が、近年揃うことはまずない。スクラップ置き場に積み重なっている姿は、目にするかもしれないけれど。

管理職向けの上級サルーンが不可欠だった半世紀前の英国市場を、ゾディアック MkIII、A110 ウェストミンスター、ヴォグゾール・クレスタ PBは思い返させてくれる。ローバーP6やトライアンフ2000といった新しいモデルとも、渡り合ってきた。

より若い世代は、欧州大陸のブランドへ関心を抱いていた。一方で年齢を重ねたドライバーは、自国のモデルを選んだ。適度な主張もありつつ、控えめで価格価値に優れたモデルを。

筆者が1台を選ぶなら、クレスタ PBに落ち着くだろう。アメリカへなびいたスタイリングを好んだ英国人の嗜好を、見事に体現している。長く伸びる高速道路を爽快に走ることへ、漠然と惹かれていた時代だった。

1960年代、郊外のレストランまで短時間で乗りつけるのに、ツートーン・ボディのクレスタ PBは最適といえた。少し特別な時間を過ごすための、典型といえるモデルだった。そして何より、心地よく運転できるという喜びを得ることができた。

協力:メーカーズ・カフェ、ケンブリッジ・オックスフォード・オーナーズクラブ、MkIIIゼファー&ゾディアック・オーナーズクラブ、ヴォグゾール・クレスタ・クラブ

ゾディアック MkIII、A110 ウェストミンスター、クレスタ PB 3台のスペック

オースチンA110 ウェストミンスター(1961~1968年/英国仕様)

英国価格:1114ポンド(新車時)/1万3000ポンド(約209万円)以下(現在)
販売台数:2万6105台
全長:4769mm
全幅:1740mm
全高:1537mm
最高速度:164km/h
0-97km/h加速:16.2秒
燃費:6.4km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1445kg
パワートレイン:直列6気筒2912cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:121ps/4750rpm
最大トルク:22.4kg-m/2750rpm
ギアボックス:4速マニュアル

フォード・ゾディアック MkIII(1962~1966年/英国仕様)

英国価格:1070ポンド(新車時)/1万6000ポンド(約257万円)以下(現在)
販売台数:2万6105台
全長:4642mm
全幅:1753mm
全高:1441mm
最高速度:165km/h
0-97km/h加速:13.5秒
燃費:6.4km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1429kg
パワートレイン:直列6気筒2553cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:110ps/4800rpm
最大トルク:18.9kg-m/2400rpm
ギアボックス:4速マニュアル

ヴォグゾール・クレスタ PB(1962~1965年/英国仕様)

英国価格:918ポンド(新車時)/1万ポンド(約161万円)以下(現在)
販売台数:8万7047台
全長:4623mm
全幅:1784mm
全高:1473mm
最高速度:151km/h
0-97km/h加速:13.8秒
燃費:6.4km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1232kg
パワートレイン:直列6気筒2651cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:96ps/4600rpm
最大トルク:20.4kg-m/2400rpm
ギアボックス:3速マニュアル+オーバードライブ

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