この記事をまとめると
■少しくらい不便でもほかのクルマでは満足できないほどの世界観を持ったクルマがある
笑っちゃうほど使えない……けどそれがいい! クルマの概念をぶち破る「実用性」度外視のモデル3台
■痩せ我慢して乗るからこそ最高の世界が見られるクルマをご紹介
■ちょっとくらいダメなところがあるからこそひとつの魅力がより際立つという意見もある
快適ではない、でもおもしろい!
ふた昔くらいまでは、開発者が「こうあるべし」という理想を追い求めていくクルマもまだまだ多かったものでした。それゆえ、カッコいいんだけど使い勝手はいまひとつ、速いんだけど乗り心地はとんでもない、というようなクルマがたびたび登場。本当に乗りたいなら、ちょっとくらいの不便さには目をつむってもいい、その代わり、ほかのクルマでは満足できないくらいの世界が見られたのです。
いつの間にか、クルマづくりはマーケットインが主流となり、多くの人が求める便利さ、快適性を優先して進化。いまではなかなか、そうした「いまひとつなところ」が見当たらないクルマがほとんどになりましたね。今回は、いまからでも手に入れたい、痩せ我慢して乗るからこそ最高の世界が見られるクルマをご紹介したいと思います。
1台目は、不便極まりないけど究極のライトウェイトスポーツの世界に浸れるクルマといえば、ケーターハム・スーパーセブンです。フォーミュラマシンのような細長いキャビンに、4つのタイヤが剥き出しでついている、ふたり乗りのオープンカー。
でも、丸いヘッドライトがぴょこんと飛び出したフロントマスクはどこか愛らしさもあり、かっこいいけど憎めない、手作り感あふれるスポーツカーです。最大の特徴はその軽さ。ボディにはドアさえなく、大袈裟ではなく本当にハンドルとシートとペダルがあるくらいの室内で、車両重量は500kgを切る440kg(SEVEN170)というから驚きです。ふたり乗りだけど、全幅1470mmなのでふたり乗ったらかなりギュウギュウ。荷物を置く場所もありません。
晴れてる日はいいのですが、厄介なのは雨の日なんです。一応、キャビンをまるっと覆うことができる幌があるのですが、装着はすべてボタンで留める手動で、これをつけてしまうと乗り込むのがまた一苦労。足から入ると間違いなく頭が入らないので、お尻から落とし込んでいくのが正解なのですが、体が硬い人はちょっとキツイかもしれないですね。
また、幌を積んで出かけるのはスペース的に難しいので、出発の時には晴れていて、途中で雨が降ってしまったときには濡れる覚悟も必要。ちょっとバイクに近いスポーツカーといえるでしょう。
それでも、路面スレスレを走る感覚や、500kg以下の軽さがもたらすロケットのような加速感、手足のように操れる楽しさは、一度乗ると病みつきになるかも。
2台目は、スーパーセブンとはまた違った意味で厄介というか、奇想天外な操作が多くて一見さんはドアを開けることさえできないTVRタスカン。イギリスのバックヤードビルダーであるTVRが2000年代に日本でも販売したスーパーカーなのですが、まずデザインからしてとっても変わっています。
波打つようなFRP製のボディに、6つ目のヘッドライトが深海魚を思わせるフロントマスク。前後に分割されたボンネットは、隙間がエンジンの熱を逃すエアアウトレットとなっているという、「これ、ぶつけたら直すの大変だろうな」と思わせるデザインです。
そして、乗り込もうとドアを開けようとして愕然。ドアノブもボタンも見当たらないではないですか。3人がかりで30分くらい探してようやく、サイドミラーの下にあるボタンを押すと開いたという苦い経験もありますが、降りるときにドアを開けるのもまったくわからず。正解はオーディオの脇にある小さなボタンを押すと開いたのでした。
インテリアも奇想天外なのですが、SF映画が好きな人にはもしかするとたまらない空間かもしれません。4リッターの直6エンジンで350馬力のタスカン・スピード・シックスと、390馬力のタスカンSがあり、その走りも最初はジャジャ馬。だんだんならしていくのが楽しい人には、これまた垂涎のクルマかもしれないですね。
まるでスーパーカーのようなディテールを持った軽自動車
3台目は、軽自動車なのにミドシップでガルウイングのドアという、スーパーカーがそのままぎゅぎゅっと小さくなったような、マツダ・オートザムAZ-1。1989年の東京モーターショーで参考出品されたマイクロクーペで、ほぼそのまま市販化されたモデルです。
2シーターで、シートそのものはゆったりとしたスペースとなっていますが、後ろにはエンジンが収まっているため、荷室がありません。シートの後ろに荷物が置けるくらいのスペースはありますが、実用性という面ではやはり昨今のスーパーハイトワゴンのようにはいかないようです。
ただ、660ccのターボエンジンとはいえ車重が770kgほどと軽いので、体感加速やコーナリングはレーシングカート感覚。この楽しさはなかなか他では味わえないものです。また、駐車場で乗り降りする際に、良くも悪くもすっごく目立つというのも、AZ-1ならではですね。
4台目は、そのAZ-1と同じような時期に登場したホンダ・ビートの後継モデルとして蘇った、S660。残念ながら2021年で生産終了となってしまいましたが、若き開発者が企画したこともあり、多くの若者にも人気を博したモデルです。
2シーター、ミッドシップ、ロールトップとなったS660は、乗り心地や剛性感、風の巻き込みなどもビートに比べると格段に進化していました。ただ、やはり宿命として軽自動車サイズで出す以上、収納スペースはほとんど確保できず。ボンネット下にある収納ボックスには、取り外したロールトップすら入らず、大根1本くらいが関の山という状態です。
「助手席がついたバイク」だと思って乗れば快適です、なんてオーナーの声もあるほどで、ミニマリストかひとり乗りがほとんどの人なら不便は感じないかもしれません。それでも、ホンダならではのパワフルなターボをミッドシップに置いた走りは、頭のすぐ後ろから聴こえてくるサウンドと相まって、とても楽しいもの。ハマる人がいるのも納得です。
5台目は、4人乗りだと思って購入したら、後ろの席がほとんど使えない! というクルマはたまにあるものですが、その中でもほんとにオマケ程度の後席となっているのが、トヨタiQ GRMNスーパーチャージャー。全長3mを切るマイクロシティコミューターとして2008年に登場したiQに、1.3リッタースーパーチャージャー付きエンジンを搭載し、6速MTとなっている希少なモデルです。
iQは当時欧州で爆発的に普及し始めていた、smartに対抗するモデルとして注目を集めました。チョロQみたいなボディは大きなドアがふたつ。後席は、助手席側ならまだなんとか大人も座れるのですが、運転席側は足の置き場所が困るくらいタイトで、子どもならなんとかなるかも? というくらい。
でも、後席に座ってしまうと荷物のスペースはほとんどなくなります。後席のヘッドレストを取り外し、5:5分割で前に倒すとフラットな荷物スペースになるので、1~2人乗りとして工夫して使えば、実用性もクリアするかもしれません。それでも、走り出せば他では味わえない楽しさにノックアウトさせられるという、魅力的な1台です。
ということで、ちょっとくらいダメなところがあるからこそ、ひとつの魅力がより際立つという意見もある、面白いクルマたち。これからも、こうしたクルマがまた出てくることを願います。
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承知して買ったんだから、不便もクソもあるまい。