アクセルペダルを踏み込んで、高回転までエンジンを回す気持ちよさは、運転好きであれば誰もが憧れるもの。80年代から90年代の国産スポーツモデルのNA(自然吸気)エンジンは、非常に良い味を出していた。
だが昨今、そうした高回転型のエンジンは影を潜めており、スポーツタイプのクルマであっても、ターボ付きでトルク重視のエンジンが主流となっている。なぜ、高回転型NAエンジンは消えていったのか、復活することはあるのだろうか。
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文/吉川賢一、写真/HONDA
[gallink]
■90年代のホンダVTECがけん引した、高回転型NAエンジンブーム
ホンダといえばVTECエンジンが思い浮かぶ。2021年8月登場の新型シビックにも採用されている
「高回転型のNAエンジン」といって真っ先に思い浮かぶのが、ホンダスポーツカーのエンジンだ。
なかでも、「VTEC」は、90年代のシビックやインテグラ、NSXをはじめとして、ほとんどのホンダ車に搭載されてきた、ホンダのエンジン技術の「アイコン」でもある。もちろん、2021年8月に登場した11代目となる新型シビックにも採用されている。
ちなみに「VTEC」とは、パワーと環境性能を両立させるテクノロジーのこと。正式名称は「バリアブル・バルブ(V)タイミング(T)アンド リフト・エレクトロニック(E)コントロール(C)システム」。最初に搭載されたのは、1989年登場のインテグラであった。
1989年登場の2代目インテグラ。VTECエンジンが初めて搭載された
エンジンに吸い込む空気量が高回転域で増加するよう、バルブの開き方を可変させるシステムによって、一定の回転数以上になると、1クラス上の高出力が出せるようになる。
また、軽量かつコンパクトなエンジンに排気量を下げながらも、ハイパフォーマンスが得られるとして、主にスポーツグレードやTYPE Rに搭載されてきた。エンジンサウンドの変化で、バルブが開いた瞬間が分かるなど、スポーツ走行での雰囲気を高めることにも成功していた。
「低回転では扱いやすく、中回転からドカンとパワーが出るのがホンダらしい」として、90年代のVTECには、神話的な人気があった。歴代のタイプRやS2000など、リッター100ps超えのNAエンジンは、このVTEC技術があったからこそ実現できた。素晴らしいスポーツエンジン技術だといえる。
■ターボ技術の進化により衰退
1999年登場のS2000。市販車にはあまり類を見ないほどの高回転型エンジンから250psを叩き出した
2000年初期までは、国産スポーツカーのエンジン出力は、最高280psであった(ノーマルでもそれ以上が出ていたスポーツカーもあったが)。
メーカーの自主規制という影響もあるが、FF車の場合だと高くても200ps程度、FRでも250ps程度が、シャシー性能(主にタイヤ性能が影響大)のバランスと、丁度良い塩梅で釣り合っていたように思う。
だがその後、技術の進化によって、シャシー性能が飛躍的に向上する。特にスポーツモデルでは、幅広のハイグリップタイヤを標準装着するようになってから、コーナリングスピードが上がり、エンジンに対して、更なるパワーアップが求められるようになった。
だが、エンジンパワーを上げるには、エンジンに取り込む空気の量を増やすほかにない。そのためには、エンジンの排気量を上げるか、過給機などを付けるか、の2択となるが、大排気量エンジンは、本体重量やレイアウト、環境面で時代にそぐわない。
さらに、かつては「環境に悪い」とされていたターボ技術が、「ダウンサイジング過給」というコンセプトで2000年代中盤より見直され、環境(燃費)対応のキーテクノロジーとして復活することに。
センシング技術の進化もあり、緻密なエンジン制御ができるようになったことで、低中回転でのパワーアップと、環境性能共に、大きく改善した。
シビックタイプRは2リッターターボエンジンを採用し、300psを超えるパワーを絞り出す
その結果、排気量はそのままで、ハイパワー化はターボで実現する方向へと、多くの自動車メーカーが向きを変えたのだ。そして今や、シビックタイプR(FK8)のVTECターボのように、今や2リッタークラスのターボエンジンでも、300psを余裕で超えるエンジンもある。
高回転型NAエンジンは現代求められる環境性能にそぐわず、パワーアップはターボ化で解決できてしまったため、不要なのだ。
現存する大排気量スポーツエンジンは、フェアレディZ(Z34)用の3.7L エンジン(VQ37VHR、最高出力336ps/最大トルク365Nm、レッドゾーン7500rpm。なおNISMO仕様は355ps/374Nm)。
レクサスRC350の3.5L(2GR-FKS、318ps/380Nm、レッドゾーン6750rpm)。
RC F/LC500の5.0L V8(2UR-GSE、477ps/540Nm、7200rpm)などだ。
いずれも高額車に搭載されていることからも分かる通り、大排気量NAエンジンは、非常に贅沢なエンジンである。
■かつてのVTECのようなNAエンジンはもう見られない
高回転型NAエンジンで発揮していたパワーは、現在ではダウンサイジングターボによって実現できるようになり、高回転型NAエンジンの復権は期待できなくなった
スポーツカーを売るうえで、もっとも大切なのが、分かりやすいパフォーマンスだ。購入者が実際に試すことがないにしても、0-400m加速や、サーキットのタイムアタックなどは、ポテンシャルの高いスポーツカーを所有する、大きな動機となる。
GT-RやシビックタイプRが、ニュルブルクリンクでタイムアタックに挑むのは、スポーツカーにとって絶好のアピールチャンスであるからだ。
かつては、新車開発でニュルブルクリンクのサーキットを利用する目的は、ラップタイムの速さよりも、車体やパーツの耐久性を確認する場であったはずだが、いつの間にか、タイムを競う場所になってしまった。
そうなると、今後もモアパワーは避けられず、クルマの軽量化、環境性能、なども加味すれば、ダウンサイジングターボエンジンは、必須のアイテムとなり続けるだろう。かつてのVTECのような強烈なNAエンジンの復権は、残念ながら期待できない。
可能性があるとすれば、NA高回転型の水素燃焼エンジンだ。実現できたならば、どんなに楽しいだろうか。できることなら、生きているうちにそのようなクルマが登場してくれることを期待している。
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デジカメが席巻してもフィルムカメラは残ってるし性能だけなら全くかなわないのに最高級時計は全て機械式であるように人間の感性に寄り添う分野は不滅という感じ。