ホンダの現行N-BOXが登場したのは2017年。ダイハツのタントがフルモデルチェンジしたのは2019年なので、クルマとしては2年ほどタントのほうが新しい。そのぶんタントのほうが新鮮味があるから販売面で有利なはず。
ところが売れゆきは、2020年新車販売ランキングでは1位がN-BOXで、タントは3位。N-BOXの牙城を崩せないうえに、スズキのスペーシアにも負けてしまっている。
クルマ界の巌流島決戦!! 永遠のライバル スズキ対ダイハツ 軽7番勝負 いざ尋常に勝負!!
しかも現行型タントは登場年が新しいだけじゃなく、パワートレーンからプラットフォームまですべてを一新する気合の入ったフルモデルチェンジで登場している。それなのに、なぜタントはN-BOXに勝てないのか? その理由を渡辺陽一郎氏が徹底的に考察した。
文/渡辺陽一郎 写真/ダイハツ工業、ベストカー編集部
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■競合するN-BOXとスペーシアよりも登場年が新しいタント
2019年にフルモデルチェンジしたダイハツ タント。元祖スーパーハイトワゴンであるタントがN-BOXの牙城を崩せずにいる
2020年の軽自動車販売台数は、ダイハツが53万6292台、スズキは52万3604台であった。例年と同じくダイハツが1位だが、スズキとの差は1万2688台に縮まっている。
その理由のひとつがダイハツタントの販売不振だ。今の軽自動車では、各メーカーともに、タントのように全高が1700mmを超えるスーパーハイトワゴンが売れ筋だ。軽乗用車の販売総数の約半数が、スーパーハイトワゴンになる。
天井が高いから、前後席ともに居住空間も広く、4名で快適に乗車できる。後席を畳むと広い荷室になって、自転車なども積みやすい。後席にはスライドドアが装着されて乗降性も良好だ。
そして現行タントの発売は2019年だから、2017年に登場したライバル車のN-BOXやスペーシアよりも設計が新しい。それなのに売れゆきはライバル2車を下まわる。
2020年の届け出台数は、1位:N-BOX(19万5984台)、2位:スペーシア(13万9851台)、3位:タント(12万9680台)で、特にN-BOXとの開きが大きい。
■先代タントは2014年にN-BOXの倍近く売れていた
2014年時点で、先代タントはN-BOXの倍近くの売れゆきを見せていた
2014年には、2013年に発売された先代タントが、軽自動車と小型/普通車を含めた国内販売の総合1位になった。この時には先代N-BOXが売られていたが、2014年の軽自動車届け出台数は、1位:タント(23万4456台)、2位:N-BOX(17万9930台)、3位:ワゴンR(17万5369台)であった。
このように2014年には、先代タントが2020年の現行型に比べて2倍近く売れていた。逆にN-BOXは、2014年は2020年に比べて約1万6000台少ない。2020年にコロナ禍の影響があったことを差し引いても、N-BOXは売れゆきを伸ばしてタントは急落した。
スペーシアは、2014年の時点では大幅に少なく12万1086台だ。現在のほうが多く売られている。スーパーハイトワゴンの新旧モデルの売れゆきを比較すると、タントだけが現行型になって大きく落ち込んだ。
■初代タントは元祖スーパーハイトワゴンで大注目!
2003年に登場した初代タント。1700mmを超える高い全高でゆとりある室内空間が注目された
過去を振り返ると、初代タントはスーパーハイトワゴンの先駆けだった。2003年に発売され、全高が1700mmを超えるボディにより、広い室内が注目された。
2代目タントは2007年に発売され、左側にミラクルオープンドアを採用した。左側のピラー(柱)をスライドドアに内蔵させ、前後両方ともに開くと開口幅がワイドに広がった。右側は前後に横開き式ドアを装着しており、左右非対称のボディであった。
3代目は2013年に登場して、左側は2代目と同じくピラー内蔵型のミラクルオープンドアだが、右側は通常のピラーを備えるスライドドアに発展した。
このようにタントは、初代モデルが1700mmを超える全高で注目され、2代目はミラクルオープンドア、3代目は右側をスライドドアに変更して使い勝手を向上させた。各世代がユーザーにとってメリットのわかりやすい進化を遂げてきた。
■現行モデルはセールポイントがわかりにくい!?
現行タントのミラクルオープンドア。ベビーカーごと車内に入り、子供をチャイルドシートに座らせることができる。さらにそのまま車外へ出ずに運転席へ移動することも可能だ
ところが2019年に発売された4代目の現行タントは、従来型のようなわかりやすい進化が見られない。4代目は右側もピラー内蔵型のミラクルオープンドアに進化するのか!? と期待したが、さすがにボディ剛性や衝突安全性を確保する上で無理だった。
そこで現行タントは、主力グレードの運転席に、540mmの長いスライド機能を採用した。子育て世代のユーザーが、助手席を予め前側にスライドさせて足元空間を広げておくと、ワイドなミラクルオープンドアを使ってベビーカーを抱えたまま車内に入れる。
その後、広いスペースで子供を後席のチャイルドシートに座らせる。さらに運転席を後方にスライドさせておけば、降車せずに運転席まで移動できるわけだ。このように現行型では、左側のミラクルオープンドアから乗車して、運転席に移る導線を確立させた。
ただしこれはわかりにくい地味な機能で、すべてのユーザーにとって必要ともいえない。そこでタントは売れゆきが伸び悩んだ。
■ライバル車の2モデルは売れるだけの理由がある
ホンダ N-BOXとN-BOXカスタム。内装の質の向上にも力を入れ、好調な売れゆきを見せている
一方、ライバル車には売れる理由が多い。N-BOXは先代型で好調に売れる手応えを得たから、2017年に登場した現行型では、インパネなど内装の質を高めた。シートの座り心地も柔軟になり、乗り心地にもいい効果を与えている。
好調な販売を前提に多額の開発コストを費やして、車両全体の雰囲気も華やかになった。
さらに先進運転支援装備のホンダセンシングを採用して、車間距離を自動制御できるクルーズコントロールなども使えるようになった。このように内外装、乗り心地、静粛性、先進装備と幅広く充実させたから、2017年以降は、N-BOXが小型/普通車を含めた国内販売の総合1位になっている。
N-BOXが好調に売れた背景には、豊富な乗り替え需要もあった。ホンダでは、オデッセイからステップワゴン、さらにフリード、N-BOXという小さな車種に乗り替える流れが築かれ、N-BOXが好調に売れた。
その代わりミドルサイズ以上の小型/普通車は売れゆきを下げている。2020年には国内で売られたホンダ車の32%をN-BOXが占めて、軽自動車全体になると53%に達した。フィットとフリードまで加えると約70%だ。
要はホンダのなかでダウンサイジングが進んだ結果、最後に行き着いた車種がN-BOXであった。そのためにN-BOXが好調に売れても、価格の高いステップワゴンやオデッセイが低調だから、ホンダとしては嬉しくない。
販売店からは「N-BOXにはあまり力を入れていない」という話が聞かれ、N-BOXを3月決算期におけるキャンペーンの対象外にしている販売会社も多い。購入する時には相応の条件を提示するが、敢えて多く売ろうとはしていない。それでも大量に販売されて、タントに圧勝しているわけだ。
スズキ スペーシアはSUV風の外装を持つスペーシア ギアを用意し、SUV人気に乗ることで売れゆきを伸ばしている
スズキのスペーシアは標準ボディとカスタムに加えて、SUV風の「スペーシア ギア」を用意したことが利いている。2020年の軽自動車届け出台数は、N-BOXに続く2位だが、タントとの台数差は1年を通じて1万台少々だ。
仮にスペーシアにギアがなかったら、タントが2位に入ったかも知れない。スズキはSUV人気を巧みに利用して、スペーシアの売れゆきを伸ばした。
■身内のダイハツ車と食い合いになっている面もある
タントはモデルチェンジで各所を改善し、背の高いボディながら走行安定性にも優れている
このように現行タントは機能が地味で、ライバル車の強化もあって売れゆきが伸び悩んだ。このほか身内のダイハツ車も影響を与えている。
ダイハツの販売店では「ムーヴキャンバスの人気が高い。タントほど背の高いボディは不要だが、スライドドアが欲しいお客様は、積極的に選ばれている」という。ムーヴキャンバスの全高は1655mmだからムーヴに近いが、外観は柔和なデザインで、後席側にはスライドドアを装着した。
ムーヴキャンバスの届け出台数は、2020年には6万台近くに達したから、タントと合計すれば約19万台だ。それでもN-BOXを追い抜くことはないが、タントの需要がムーヴキャンバスに奪われていることは確かだ。
このほかにもダイハツには、全高が1800mmを超えるウェイク、SUV風のタフト、都会的なキャストスタイル、ベーシックなムーヴという具合に、全高が1600mmを超える軽自動車が豊富だ。
ウェイクやキャストスタイルの販売は低迷しているが、スズキやホンダに比べて車種が多く、タントの需要を奪われやすい面がある。
以上のようにさまざまな理由でタントの売れゆきは伸び悩むが、先代型の欠点潰しを行ったこともあって商品力は高い。背の高いボディながら走行安定性が優れ、後席の座り心地も改善された。
スーパーハイトワゴンを買う時は、タント/N-BOX/スペーシア/ルークスあるいはeKクロススペースを比較していただきたい。
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みんなのコメント
ウソ
三菱トッポが先だろ。