アウトランダーPHEVは世界累計販売16万台を突破。PHEVとしては世界でもっとも売れているクルマとなった。あのプリウスですら最初は思うように売れず、10万台突破に5年かかっていることを考えると、これは並大抵のことではない。
PHEVのような新しいハイテク製品は技術革新のスピードが早いのが特徴だが、同時にクルマはきわめて高い信頼性が要求される商品でもある。
信頼性を保ちながら機能を高めていくには、ユーザーからのフィードバックが不可欠。数多くのユーザーが実際にクルマを走らせることで、無数の使用事例やトラブル対応といった貴重なデータが手に入る。こうしたリアルなデータこそがアウトランダーPHEVを進化させる原動力となっているわけだ。
その中から見えてきた今回のマイナーチェンジの方向性は「よりEVライクな走行性を実現させる」というテーマだが、これはそうした経験知の集大成といっていい。
既納ユーザーを調査すると、よく聞くのが「EVモードの走りが素晴らしいので、エンジンがかかるとちょっとガッカリする」という声。EV航続距離はもちろん重要なのだが、坂道などで負荷が大きくなった時にもEVのまま粘る走りが求められている。
このニーズに応えるべく、駆動用バッテリーの容量を15%、最高出力を10%アップ。それに対応して、ジェネレーターの発電能力は10%、リヤモーターの出力も10kW増強している。
結果として、EV走行距離は5kmほど伸びてJC08モードで65kmとなったが、重要なのはカタログスペックではなく、実際のドライバビリティ。試乗した多くのテスターが指摘するとおり、新型アウトランダーPHEVは日常的なドライビングモードでエンジンが始動するケースが目に見えて減少している。
注目すべきは、こうしたEV駆動系の性能向上が、ハードウェアをいじることなく達成されていることだ。12kWhから13.8kWhに容量を拡大したリチウムエナジージャパン製のリチウムイオン電池は、セル数/パッケージとも従来どおり。3.75Vの角型セル8個をワンパックとしたモジュールを10セット搭載。出力電圧300Vを得ている。それにもかかわらず容量が15%も拡大しているのは、いわゆる「電池をよりディープに使う」からだ。
電動車両にとってバッテリーは最重要パーツだから、量産車では信頼性が最優先。電池の充電水準をSOC(ステート・オブ・チャージ)と呼ぶが、SOCのどのレベルまで充放電を許すかは、バッテリーマネジメント次第。容量マックスまで充電したりフルに使い切るようなことはタブーで、かなりの安全マージンを持って使用されている。
今回アウトランダーPHEVがここを攻められたのは、6年/16万台の使用データがもたらした成果。先行して多くのユーザーを獲得したメーカーの大きなメリットといえる。
発電を担当するエンジンは今回2.0Lから2.4Lに排気量を拡大。アトキンソンサイクル化によって、さらに熱効率の向上を図っている。
2.4L化は馬力を上げるためではなく、実用域の燃費を向上させるのが目的だ。アトキンソンサイクルで低下するトルクを排気量アップで補い、低負荷で走らせている時に熱効率のいいゾーンを広く使えるようにするというのが狙いだが、エンジンが始動して発電している時の常用回転域が下がり、結果として静粛性が向上するというメリットも達成している。
ユーザーの多くが指摘する「エンジンがかかるとガッカリ」という意見は、EVモードに比べるとノイズのレベルがぐんと上がってしまうから。新型の2.4Lでは回転数が抑制されてノイズレベルが押さえ込まれ、また、バッテリーでは充電容量だけではなく、瞬間的に出せる最大出力についても10%上げてきている。このポテンシャルを利用した粘るEVモードと相まってトータルな満足度はかなり向上しているといっていい。
唯一、排気量拡大のデメリットとして、JC08モード燃費が18.6km/Lと従来の2.0Lより若干低下しているが、実燃費では新型の方が有利という判断。ちなみに、新しいWLTCモード平均値は16.4km/Lで、普通の使い方ならこれに近い数字が達成可能なはずだ。
衰えない人気で販売累計ナンバーワンを更新しているアウトランダーPHEV。今回の改良でその商品力はさらに高まったといえるだろう。<レポート:鈴木直也/Naoya Suzuki>
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