熱狂をもって迎えられた2019年のデビューから2年。最近では話題も鎮静化しつつある現行トヨタ スープラ。
トヨタ単独では採算が取れないであろう『スープラ復活』というプロジェクトを、BMWとの協力関係で実現にこぎつけたトヨタの企業努力には本当に頭の下がる思いだが、はたしてスープラはトヨタが描いた通りの方向に向かって進んでいるのだろうか。
なぜ“今”なのか?? トヨタ電動車の新目標に透けて見える深謀遠慮【クルマの達人になる Vol.576】
あれから2年。スープラの今を鈴木直也氏が追った。
文/鈴木直也、写真/TOYOTA
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■ドイツBMWの血で蘇ったスープラ
2019年、熱狂に迎えられてデビューを飾ったトヨタ スープラ。実に17年ぶりの復活となった
現行90スープラがデビューしてはや2年。デビュー時の熱狂ぶりは沈静化し、最近はメディアの記事露出も少なくなった。
まぁ、とりわけスポーツカーの新車が出ると大はしゃぎするが、そのテンションが長続きしないのがわれわれ自動車メディアの悪い癖。この種の少量生産車は街であんまり見かけないから、すぐ「スープラもいまいち売れてないねー」といったオチをつけたがる。
しかし、クルマを造る側としては、そんなことは先刻ご承知のうえだ。
バブル期なら過大な需要予測をもとにイケイケでスポーツカーを開発することもできたが、いまはきちんとした需要予測をベースに、予定生産台数に最適な生産システムの構築が必須。
90スープラはその典型的な例で、トヨタ自身が単独ではとても採算が取れないプロジェクトと認識しているから、BMW Z4とのコラボレーションという方途を選択したわけだ。
その結果、開発はBMWをメインとして、トヨタはスープラ独自のデザインと走りの味付けを担当。少量生産車種の受託で定評のあるオーストリアのマグナ・シュタイアの工場で造られることとなった。
■90スープラは「細く長く」順調に
スープラのようなマニア向けともいえるスポーツカーは「細く長く」生産を続けることでビジネスとして成り立つという側面がある
結果を評価するにはまず売れ行きだが、グローバルでみた販売台数はデビューから1年でざっくり1万台弱。
デビュー直後から大量のバックオーダーを抱えたうえ、コロナの影響が深刻化する前の1年間でこの販売実績ということは、たぶんマグナへの委託生産契約がこのくらいの規模ということ。最初からこれ以上造る気もないし、この台数でモデルライフ全体の収益計算が行われているのではないかと思う。
そういえば、以前ホンダS660の生産現場である八千代工業を取材したとき、担当者が「少量生産車に最適化したラインでコストダウンを徹底し、どんなにバックオーダーが増えても絶対に生産能力増強は行わない」と明言していたのを思い出す。
スープラやS660みたいなマニア向けのスポーツカーは、とにかく細く長く造り続けることが重要で、それが採算性を確保するためのカギ。そういう意味では、90スープラは予定どおり順調にプロジェクトが進行していると評価すべきだと思う。
そのひとつの証拠として、北米市場、日本市場、ともに販売台数が比較的安定していることがあげられる。
日本市場はデビュー最初の一年で約2900台の登録だったが、2年目はコロナ禍にも関わらず約1200台ほどを販売。北米市場は暦年データで2019年が約3200台、2020年には約6300台という実績。さらに、北米は2021年第一四半期には約2600台と、年間1万台に届くペースまで販売が加速している。
90スープラの価格は、日本では約500万円~730万円。北米では4.3万ドル~5.5万ドル。いずれにしてもかなりの高価格車といっていい、。利幅の大きいプレミアムゾーンの車を、毎年毎年1万台づつ売り上げたら商品としては優等生。
前述のとおり、スポーツカーは細く長く造り続けることが重要。スープラはサステイナブルなビジネスという意味で、きちんとその役割を果たしているといっていい。
■スープラの存在意義は売れ行き以上に大きい
2002年に生産を終了した先代の80スープラ
いっぽう、そういったソロバン勘定を抜きに考えても、トヨタにとってスープラの存在意義は大きい。
2002年に80スープラの生産が終了して以降、トヨタ車のラインナップからスポーツカーといえる車種が一時消滅する。それを嘆いた豊田章男社長のキモ煎りで、86/BRZプロジェクトがスタートしたのはよく知られている。
いくら生産規模が大きくなっても、クルマ好きのハートを揺さぶるような魅力のあるクルマを造れなければ、自動車メーカーとしてリスペクトされない。86/BRZ、90スープラ、GRヤリスと続くトヨタのスポーツカーラインナップは、数は少なくとも重要なブランドアイデンティティを担っている。
これは、トヨタだけの問題ではなく、たとえば日産にとってGT-R、マツダにとってロードスター、ホンダにとってNSXが、もし存在しなかったと仮定したらどうだろう?
ブランドの認知度・高感度を高め、クルマ好きの選択肢を豊かに彩るという意味で、スポーツカーの存在は他では得難い魅力があるのだ。
細かいことを言えば、エンジンからシャシーまでトヨタの技術で完結して欲しかったとか、さらにモータースポーツでも実績を残して欲しいとか、そりゃ注文をつけたい点は少なからずある。
■トヨタブランドに与える絶大なグッドイメージ
国内スーパーGTで活躍するトヨタ スープラ
90スープラRZの現行モデルは、3L直6エンジンの出力が387psまで高められ、ほぼ素のポルシェ911に匹敵するハイパフォーマンスカー。
特徴的な2470mmというショートホイールベースも911なみに攻めたディメンションで、たとえばGT3仕様なんかを仕立ててニュル24時間あたりで総合優勝を狙ってもおかしくないくらいのポテンシャルを持っている。
本来なら、そのくらいのことをやってくれたら嬉しいのだが、トヨタの中のモータースポーツプログラムはWECやWRC優先。国内ではスーパーGTでそのシルエットが活躍しているものの、もうちょっとスポーツイメージを牽引するような華やかな活動があったらなぁ、と望まれる。
まぁ、そんな贅沢な望みが持てるのも、ベースとなるスープラというクルマの存在があってこそ。
何度も言うとおり、スポーツカーは存在そのものに意義があり、とにかく「細く長く造り続けること」で、ブランドイメージの向上に貢献することが重要。
年間売上27兆円というトヨタにとって、スープラの売上はざっと見積もって0.2%程度に過ぎないが、その存在がトヨタというブランドに与える影響度は、たぶん100倍では効かないんじゃないかと思うなぁ。
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