この記事をまとめると
■ヒョンデIONIQ 5やBYD ATTO3など、アジアンメーカーのEVが日本上陸を果たしている
新車が消えゆくのは仕方ないが……すでに所有している「ガソリン車」にすら乗れなくなる可能性!
■対する日本メーカーは、トヨタbZ4Xがリコールを解決できずに注文を停止中
■一度失った市場や信用はトヨタであっても簡単には回復できないかもしれない
続々と日本上陸を果たすアジアンメーカーのEV
今年2月の韓国・ヒョンデの日本市場再参入で電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)を発表したのに続き、7月には中国・BYDが乗用車での日本市場参入を発表した。導入車種は、EVだ。そして年明け1月に、最初の商品であるATTO3が発売予定となっている。
一方、トヨタのbZ4XとSUBARUのソルテラは、5月に発売をして間もなく6月にリコールの届出があり、それから3カ月近く経過する現在もなお、原因究明のため注文を停止したままとなっている。
トヨタは、1997年の初代プリウス発売以降ハイブリッド車(HV)の販売を続ける一方、1990年代初頭にはじめたEV開発が一時停滞しているようにも感じられた。他社は、2009年に三菱自動車工業がi-MiEVを発売し、翌2010年には日産自動車がリーフを発売した。
その後、2015年のドイツ・フォルクスワーゲン(VW)による米国でのディーゼル排ガス偽装問題を受け、欧州各国がEV導入を進めるのに際し、トヨタは電動車とはEVのみを指すのではないとして、海外へのEV導入は進めながら、日本へは2030年までの間にと、なかなか明確にしてこなかった。
しかし昨年12月のEV戦略の記者会見を経て、国内へのbZ4X導入を明らかにし、当初の想定より早めの発売に踏み切ったとみられた。国内の新車販売で約50%の占有率を誇るトヨタのEV導入は期待された。ところが、早々のリコール届出となったのである。理由は、タイヤを取り付けているハブボルトが、急旋回や急制動の繰り返して緩む可能性があるためだという。その対応に、3カ月に及ぶ時間を要し、まだ解決に至っていないようだ。
急旋回はもちろん、急制動といっても、急ブレーキを掛けることはめったにない。しかし、EVは回生を頻繁に利用するのが走行上の特徴であり、利点でもある。速度調整をアクセルペダルだけでかなりの部分対処できることに加え、回生を有効活用することによって車載のリチウムイオンバッテリーに充電し、走行距離を伸ばすことに役立つ。
商品の作り込みにはこれまでのクルマとは異なる考え方が必要
ある意味で、EV走行は回生を前提とした回転力が、タイヤ・ホイール・ハブ(車軸)・サスペンションに頻繁に掛るのである。その点において、回生を利用するといっても、HVの頻度とは異なる。ことに、シリーズ・パラレル式ハイブリッドシステムを使うトヨタの場合、エンジンとモーターによる総合効率を追求する方式のため、回生は必ずしも強くかかるわけではない。
それに比べ、日産からシリーズ式ハイブリッドのe-Powerが発売されたことにより、日産はEV同様のワンペダルによる回生の利用を積極的にHVでも活用した。トヨタも、バイポーラ型ニッケル水素バッテリー車載のアクアから、シリーズ式の特徴を活かす走行特性としたが、まだEVやe-Powerほど強い回生を頻繁に利用するまでに至っていない。
つまり、トヨタやSUBARUは、トヨタのハイブリッドシステムを前提とした回生の効果とその負荷しか考慮できないままbZ4Xとソルテラを市場導入したのではないかと推測される。それが、ひとつの可能性としてリコールにつながったのではないか。
BYDのATTO3(アットスリー)は、日本仕様を年明け1月まで待たなければならないが、すでに同じ右ハンドルのオーストラリア仕様を使い、神奈川県横浜の赤レンガ倉庫で消費者向け試乗会を催している。試乗してみると、完成度の高いEVであることが実感できた。
仕上がりでは、ヒョンデのIONIQ 5も高い水準にある。この両車は、クルマとしての総合的な完成度も高い。対するbZ4Xとソルテラは、後席の乗り心地や騒音対策などで改良の余地を残す。つまり、現時点ですでに中国や韓国のEVは、トヨタやSUBARUを超えているのである。
これに、人気の高まる米国テスラを加えると、新興勢力とみられている自動車メーカーのEVが、世界一の自動車メーカーであるトヨタを上まわることが起きている。もちろん、トヨタの財力と技術力をもってすればたちまち挽回してくるのだろう。だが、一度失った市場や信頼は、一朝一夕には回復しきれないかもしれない。
EVは、これまでのエンジン車やHVとは違った特性や商品性を持つものであり、クルマといっても別の視点や価値観が不可欠だ。そこを見落とすと、市場勢力の転換が起こる可能性がある。
今年3月には、ホンダとSONYが新会社を設立し、EV開発に共同で取り組むと発表した。日本勢のなかにも、EVに向けた新たな挑戦をはじめるメーカーがある。
EVは、単にモーターとバッテリーを組み合わせた金太郎飴のような商品ではなく、技術開発を含め商品性の作り込みに別の発想が欠かせない。そこを見落とすとしくじる。これまでにない創造と革新的面白さを備えたクルマなのである。
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