久しく見なくなったオーバードライブボタン。AT車のほぼすべてに付いていたが、今や絶滅したといってもいいほど。でもあのボタンは一体どんな意味があったんだっけ!?
文:永田恵一/写真:ベストカーWeb編集部
今やジムニーに軽トラくらいよ!! 日本初はクラウンだった!?ほとんどのATにあったオーバードライブボタンってそもそも何だったの!?
■燃費に静粛性もアップ!? 昔は大活躍だたのよ
かつては3速AT車なんてよく聞いたモノだが、いまや10速ATも存在。多段化が進んでいる!!
トランスミッションのオーバードライブとは、数字が大きいほど加速する力がある代わりにスピードが出ない。
逆に小さいほど加速する力は薄れるがスピードが出る、同じスピードなら小さいほどエンジン回転が低いギア比において1.0以下のモノを意味する。
その観点で現代の多段化したAT車を見ると、レクサスLC500などの10速ATでは7速から10速、フェアレディZの9速ATだと7速から9速がオーバードライブに該当する。
つまり簡単に言えば「オーバードライブは高速道路などでの巡行中の燃費と静粛性の向上を両立できる上位のギアかトップギア」と思えば、おおよそ間違いない。
1970年代中盤までAT車は3速か2速だったので、トップギアとなる3速か2速がギア比という意味ではオーバードライブとなることが多かったようだ。
■日本初はやっぱクラウン!! セドグロなどライバル勢も続々採用
1974年にデビューした5代目クラウン。改良時にオーバードライブ付きATが追加
オーバードライブボタンが登場したのは1977年、5代目クラウンに世界初のオーバードライブ付4速ATが追加されたときだった(この時は正確にはオーバードライブスイッチだったが)。
当時は前述の通りATは最大3速であった。
そのためトップギアとなる4速までを使う操作をどう行うかという問題に対し、ATのセレクトレバーやシフトポジションを変えるのは手間だったのだろう。
5代目クラウンの4速AT車では4速まで使う機能はオーバードライブスイッチで賄われており、オーバードライブスイッチはインパネに丸型のものが配置されていた。
クラウンのオーバードライブスイッチは次の6代目モデル(1979年登場)ではインパネ上という場所は同じだが、形状は四角いシーソー型に変更された。
ちなみにクラウンのライバルだったセドリック&グロリアは6代目クラウンと同時期の430型のモデルサイクル後半にATが3速から4速に変更。
オーバードライブはクラウンのものに近いスイッチタイプを採用していた。
80年代中盤になるとカローラあたりの車格でも上級グレードは4速ATに。
その影響でこの頃から本題となるオーバードライブボタンがセレクトレバーに着くようになった。
なお、オーバードライブボタンは当初セレクトレバー正面に着くものが多かった。
1980年代末からS13シルビア、Z32フェアレディZ、P10プリメーラ、R32スカイラインといった日産車はオーバードライブボタンをPレンジからのロック解除ボタン下のレバー側面に配置しており、トヨタ車でもこのタイプが増えていった。
■5速AT登場が消えた要因!? 今やジムニーや軽トラ程度に
あれだけ当たり前のボタンだったのに、今やジムニーや軽トラ程度に
オーバードライブボタンが消え始めたのは5速ATが登場してからで、操作系を使いやすいものにするため試行錯誤が始まった。
まず1989年のY31セドリック&グロリアのマイナーチェンジモデルで世界初の5速ATを搭載した日産は1速をシフトポジション上の別ボタン。
2、3、4速まで使うDをセレクトポジション上、トップギアとなる5速まで使うオーバードライブボタンをセレクトレバー正面に置くという配置をしばらく採用。
トヨタは1994年登場の2代目セルシオでメルセデスが元祖となるATのゲート式シフトを採用。
5速ATがあった1995年登場の10代目クラウン、1996年登場の100系マークII三兄弟、1997年登場の2代目セルシオのマイナーチェンジモデルではゲート式シフトで対応。
確かに5速ATまでならゲート式シフトで操作性に問題はなかった。
また、5速ATの操作系の対応としてはポルシェ911の964型のティプトロニックが世界初のMTモード付ATや、ステアリングスイッチタイプを含めたパドルシフトで賄うというモデルもあった。
これが2000年代に入り6速ATが登場するとさすがにオーバードライブボタンでは対応できず、6速以上のAT車にはMTモードかパドルシフトが付くようになった。
さらに2000年代になると小型車用というイメージが強かったCVTが2リッター以上の排気量のモデルにも搭載されるなど、CVTを使うモデルが激増した。
そのため今度はAT車に必要なセレクトポジションが減ったのもあり、オーバードライブボタンが付くモデルは一気に減少。
現在オーバードライブボタンがあるモデルは未だ4速ATを使う軽トラックのキャリイ、軽1BOXのエブリイ、ジムニー&ジムニーシエラといったスズキ車。
日産車ではNV200バネットとライトバンのADの4WDくらいとなった。
大事なことを書き忘れたが、オーバードライブボタンはオフにすることでトップギアを使わない≒エンジンブレーキを利かせるためのものでもある。
もしオーバードライブボタン付のクルマに乗ることがあったら、特にアップダウンのある山道などで有効に使ってほしい。
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