毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
【絶好調? それとも瀬戸際?】欧州では瀕死も日本では絶好調 ディーゼルの現状と今後
しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はトヨタ ブレイド(2006-2012)をご紹介します。
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文:伊達軍曹/写真:TOYOTA
■オーリスの兄弟車として新たな魅力を目指した「洒落た大人の高級ハッチバック」
「大人しくない大人に、ショート・プレミアム」とのうたい文句を伴って2006年に登場した、いわゆる「小さな高級車」。
しかしながら、さまざま部分が「同クラスの欧州車にはまるで及ばない」と酷評され、2012年に1代限りで販売終了となってしまった5ドアハッチバック。それがトヨタ ブレイドです。
奥行きのあるバンパー開口部、横バーの厚みと奥行きに変化を持たせたグリル、L字型ヘッドランプによる「格の高さ」を感じさせるフロントビューをはじめ、先進感あふれるデザインを目指した
2006年の暮れに2.4Lエンジンを搭載してデビューしたブレイドは、トヨタ オーリスの兄弟車にあたります。しかしオーリスには欧州仕様や豪州仕様もあったのに対し、こちらブレイドは国内専用車でした。
オーリスの搭載エンジンは1.5~1.8Lでしたが、こちらブレイドは前述のとおり2.4Lの直列4気筒DOHC。
リアサスペンションには路面追従性に優れるダブルウィッシュボーン式が採用され、ボディの一部とブレーキも車格に見合った強化がされました。
そして装備やインテリアにも、「小さな高級車」にふさわしい(と、当時のトヨタが考えた)ものがブレイドには投入されました。
具体的には、ダッシュボードの表皮はスエード調となり、上級グレードには運転席8ウェイパワーアシスト付きのアルカンターラ張りシートが採用されています。
座り心地の良さと車両との一体感をもたらすホールド性を両立させたシート。世界トップブランドのスエード調人工皮革「アルカンターラ*」と本革とのコンビネーションタイプを採用した(Gグレード)
デビュー翌年の2007年8月には最高出力280psをマークする3.5L V6を積んだ「ブレイドマスター」を追加し、2009年12月にはマイナーチェンジを実施。
このマイナーチェンジでは内外装のデザインが小変更されたほか、パーキングブレーキを足踏み式に変更。
そして3.5Lエンジンの6速ATには、レクサス IS Fにも採用された「SPDS」がトヨタ車としては初めて採用されました。
ちなみにこのSPDS (Sport Direct Shift)というのは、トルクコンバータのオイルを介さずロックアップクラッチが直結することで、エンジンの回転力をメカニカルに伝達する機構です。
このように「小さな高級車」として新たなポジションを獲得すべく意気揚々と発売され、そして商品力を向上させるためのマイナーチェンジや小変更も受けたブレイドでしたが、その人気は一向に高まることがありませんでした。
そのためトヨタは2012年3月にブレイドの生産を打ち切り、同年4月には販売のほうも終了と相成りました。
■ゴルフ 1シリーズ…輸入ベンチマークモデルとの比較で見えてくる当時のトヨタの姿
トヨタ ブレイドが1代限りで販売終了となってしまった理由。
それは、酷な言い方にはなりますが「走りがイマイチだったから」ということに尽きるでしょう。
とはいえブレイドは決して欠陥車ではありませんので、ごく普通に走ることは(当たり前ですが)可能でしたし、極端に悪い部分があったわけでもありません。
ですが「小さな高級車」を標榜すると、どうしてもライバルは国内の大衆ハッチバック各車ではなく、ドイツのフォルクスワーゲン ゴルフやBMW 1シリーズあたりになりますので、ユーザーはそれら欧州車とブレイドを直接比較して考えることになります。
また途中から登場した280psの3.5L V6エンジンを搭載する「ブレイドマスター」に至っては、3.2LのV6エンジンを搭載したイタリアのアルファロメオ147GTAという本格ホットハッチなどとも比べられました。
そういった欧州製ハッチバックと比べてしまうと、トヨタ ブレイドの足回りというか、走りの全体的な感触は、決してホメられたものではありませんでした。
エンジンはオーリスが直列4気筒の1.5Lと1.8Lを用意するのに対して、ブレイドは2.4LとV型6気筒の3.5Lを搭載。全高は1500mmを超え4名乗車にも適した。車名のブレイド(BLADE)は刃(やいば)を意味し、「人を魅了する鋭さを持ったクルマ」の意味を込めて付けられた
エンジンパワーはそこそこあるのですが、それを操るステアリングやサスペンションに今ひとつ締まりがないため、速度を上げる気になれない……というのが正直なところだったのです。
またエンジンパワーといえば、2007年8月に追加されたブレイドマスターの3.5L V6エンジンは「最高出力280ps!」という触れ込みでしたが、実際に乗ってみると「……これ、本当に280psも出てるの?」というニュアンスの“カタログ番長”でした。
このあたりも、ブレイドという車のイメージが悪化した遠因だったかもしれません。
いずれにせよトヨタ ブレイドは、当然の道理として不人気車となり、そして当然の道理として「廃番」になった車だと言えます。
この時期のトヨタは、ソツのない車を作らせたら上手だったのかもしれませんが、「走りの良さを標榜する何か」を作るのは不得手なメーカーだった――ということなのでしょう。
しかしその後、時代もトヨタも変わりました。豊田章男社長の号令が効いたのか、新型ヤリスなどの「走りの面でもグッとくる車」が数多く登場しています。
ということで、ブレイドの記憶は忘却の川へと完全に流し去り、「新しいトヨタ車」たちに期待していくというのが、自動車愛好家としての生産的な姿勢であるはずです。
■トヨタ ブレイド 主要諸元
・全長×全幅×全高:4260mm×1760mm×1515mm
・ホイールベース:2600mm
・車重:1490kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、2362cc
・最高出力:167ps/6000rpm
・最大トルク:22.8kgm/4000rpm
・燃費:13.4km/L(10・15モード)
・価格:277万2000円(2008年式G バージョンL )
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みんなのコメント
室内は当時のトヨタ流の高級車然としていて、なかなか快適だったが、乗り心地、いわくつきのエンジン、CVTの変速感など走りに関する不評を拭い去ることが出来ませんでしたね。