今年一番の話題のマシンといっても過言ではない、注目モデル「C8 コルベット」。エンジン搭載位置を伝統のフロントミッドからリヤミッドへと変更してきた、その気になる走りを、レーシングドライバー木下隆之が試す。
最初に感じたのは落胆だった
【画像ギャラリー】ミッドシップスポーツカーへと変貌した、シボレー 新型コルベット(全27点)
僕が新型コルベットの姿を目にしたのは確か、2019年の冬。河の流れさえも凍るような厳寒の1月、米国で開催されたデトロイト自動車ショーの会場だった。
ゼネラルモーターズ(GM)本社とコンべンションホールとは、すぐそばに寄り添うように近い。経営的に政府の救済を受けたGMは復活の兆しを見せており、会場は熱狂に包まれていた。寒さを忘れるような熱い視線のなかアンベールされた新型コルベットは、大歓声に包まれたのである。
それも道理だ。コルベットはGMが誇る最強のスポーツカーであり、メーカーという枠を超えて愛されるアメリカの至宝でもある。シュリンクした企業業績を活気つかせるカンフル剤でもある。大歓声とスタンディングオベーションは、期待の高さの裏返しであろう。
ただし、舞台裏では落胆の声が聞かれたのも事実。というのも新型コルベットは、これまでC1型からC7型まで脈々と受け継がれた「コルベットの形」ではなく、ガラリと意匠を変えて登場したからである。
歴史の流れをくむことは、コルベットの「C」に続く数字がひとつ増えた「C8型」と呼ばれていることでも理解できる。だが、伝統を断ち切るように、搭載するエンジンはフロントにはなく、ミッドシップにマウントされていた。大歓声は新しい扉を開こうとしている新生コルベットへの期待であり、落胆のため息は伝統に対する裏切りの嘆きである。
前後に伸びやかなロングノーズ、極端にコンパクトなショートデッキ、意外にコンパクトなキャビン、太いタイヤ……。そんなコルベットのアイデンティティを潔く捨て去り、フェラーリやランボルギーニといったイタリアンバイオレンスと同じベクトルに舵を切った。新型コルベットは歴史に区切りをつけた。じつはかつてコルベットを所有していた僕も、同様に落胆したひとりである。
らしさを捨てることなく
ただし・・・。
2年遅れて日本導入になったミッドシップのコルベットをドライブして、嘆きは薄くなり笑顔が浮かんだ。コルベットはけして魂を捨てたのではなかったのである。
例えば搭載するエンジンは、V型8気筒6.2LのOHV。名機とされているスモールブロック「LT2」を積んでいる。排気量を下げたのではなくターボチャージャーにすがったわけでもなかった。低回転から怒涛のトルクを絞り出す大排気量NAエンジンであり、DOHCでもない。高回転まで驚くほど軽々と回し切るOHVである。ライバル勢がこぞって、環境性能という大義名分にダウンサイジングするなかで個性を貫き通した。
ドライブした印象も、かつてのコルベットのDNAを色濃く残すものである。スタータースイッチを押せば、ヴァオンとひと吠えしてから500回転前後の超低回転域でドロドロと不気味なアイドリングを響かせる。獰猛なコルベットの世界に引きずり込まれるのだ。
LT2はOHVであるのにも関わらず高回転までパチンと弾ける。最高出力は502馬力/6450回転、であり、最大トルクは637Nm/5150回転。ツインターボが常態化しているハイパワーウォーズのなかではもはや腰を抜かすほどの数値ではないが、ひとたびアクセルペダルを床まで踏み込めば、猛々しく突進するのは想像以上だ。
そもそもアイドリングからして殺気立っている。オートマチックから2ペダル8速ツインクラッチに換装されたミッションをDレンジにエンゲージした瞬間に、先を急いで駆け出そうとするのだ。
ブレーキペダルに足を乗せていても、ジリジリと前に進み始める。ローターとパッドが擦れ、不気味な異音を発する。いまにも手綱を引き千切って突進しそうな気配である。
OHVは操縦性能のため?
ただし、ドライビングマナーは乱暴ではない。この手のバイオレンス系としては……という注釈付きだが、乗り心地は悪くなく、日常でも苦にならないほど優しい。着座点は低く、それはまるで攻撃型戦闘ヘリのコックピットを連想させるようなタイトな空間だ。だが、どこかに紳士的な落ち着きがある。
マグネチックコントロールのダンパーは、ドライビングモード次第で日常からサーキットまで対応する変化幅があるが、けして脳天を突き刺すような荒々しさではない。再び、この手のバイオレンス系としては……という注釈を加えねばならないが、内に秘めた過激なパフォーマンスを思えば乱暴ではないのだ。
エンジンが前から後ろに移ったことで、これまで伝統的にこだわってきた50:50の前後重量配分が40:60に改められた。これにより、コーナリング特性は鋭くシャープになった。だが、これまでのように太いタイヤと硬い足で強引に切れ味を求めたスタイルとは決別。前後左右に身を翻し、整ったウエイトバランスによってにじみ出るような操縦性になったのである。
OHV型エンジンは、エンジンベッドまわりが軽量でありコンパクトだから、けっして広くないエンジンルームの低い位置に搭載が可能だ。過給機がないことも利点であり、動力性能だけではなく操縦性能のためのOHVなのかもしれないと思わされる。車両重量は1670kg。軽量素材を多用せずに、スポーツモデルとしてギリギリのウエイトに抑えている。
こんなに破格でいいの?
ちなみに、日本には右ハンドル仕様が導入されたこともトピックである。駐車場などの取りまわしを考慮して、フロントの車高が瞬時に上がる。3秒で40mmも迫り上がる。フロントにもそれなりに大きな荷室があり、さらにリヤの荷室にはゴルフバッグも収納できるサイズである。日常性も高いのである。
さらに驚きなのは、「1400万円」という破格のプライスであることだ。カーボンやチタンといった高価なマテリアルを多用しているわけではなく、常識的な素材で開発されていることがその理由だろうが、その存在感と迫力と、そして500馬力オーバーのNAエンジンとしては腰を抜かしかけるほどリーズナブルといえるだろう。
デトロイトショーの会場の片隅で、一度は目をそらせてしまった自分を恥じた。
<文=木下隆之 写真=山本佳吾>
■クーぺ 3LT(MR・8速DCT)
主要諸元
【寸法・重量】
全長:4630mm
全幅:1940mm
全高:1220mm
ホイールベース:2725mm
トレッド:前1630mm/後1570mm
車両重量:1670kg
乗車定員:2人
【エンジン・性能】
型式:LT2
種類:V8OHV
ボア×ストローク:103.2mm×82.0mm
総排気量:6153cc
最高出力:369kW(502ps)/6450rpm
最大トルク:637Nm(65.0kgm)/5150rpm
使用燃料・タンク容量:プレミアム・70L
WLTCモード燃費:ー
【諸装置】
サスペンション:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後Vディスク
タイヤ:前245/35ZR19/後305/30ZR20
【価格】
1400万円(消費税率10%込み)
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みんなのコメント
破格のプライス
腰を抜かしかけるほどリーズナブル
なぞと言ってみたいのう
高いやろ?コレ、アメリカでは650万円相当やぞ。