アジアのラリーで活躍したグループNのギャランVR-4 RS
国産ヤングタイマー・クラシックカーたちは、今や国際クラシックカーマーケットにおいても主役級の一角を占めているかに見えます。そして海外のオークションにおいて、日本国内でも希少なヒストリーつきコンペティション車両が出品される事例も、とくにグループA時代のラリーカーなどでは頻発するようになっているようです。今回はその1例として、英国のアイコニック・オークショネアーズ社が、2024年8月下旬に英国シルバーストーン・サーキットにて開催されたイベント「Silverstone Festival」のオフィシャルオークションに出品した三菱「ギャランVR-4 RS」のFIA「グループN」車両を俎上に乗せ、注目のオークション結果についてお伝えします。
20年前に購入した三菱「ギャランGTO MR」を8年前に路上復帰! フェンダーアーチに沿った黒いビスは「GS-R」仕様の名残でした
東南アジアのラリーにおける覇権を目指して製作された3台のうちの1台
2024年夏、アイコニック・オークショネアーズ「Silverstone Festival」オークションに出品されたFIA 「グループN」仕様の三菱「ギャランVR-4 RS」は、現在に至るまで初代オーナー兼ドライバーによって所有され、魅力的なコンペティションストーリーを持つ興味深い1台。
もともとはインドネシアを拠点としてトップレベルのラリーに参戦するグループNマシンを求めていた三菱自動車と、三菱のスポーツ部門に相当する「ラリーアート(RalliArt)」のサポートにより、インドネシア国内選手権に参戦する「グダン・ガラム・ラリーチーム」へと、1991年シーズンに向けて供給された個体とのことである。
1991年シーズンおよび1992年シーズンの選手権期間中は、グダン・ガラムおよび三菱の資金援助を受け、ジャカルタを本拠とするプロのラリー/レースワークショップが予算の制限なくマシンをメンテナンスしていた。そしてラリー参戦にあたっては、地元のメカニックとラリーアートのファクトリーメカニックのコンビがサービスを担当。パーツはラリーアートから優先的に供給され、ラリーアートのディーラーチームが費用を負担する。グループN仕様ギャランVR-4 RSのサポートにくわえ、ラリーアート本部から供給された2台のグループA仕様ギャランを走らせた。
アイコニック・オークショネアーズ社が調べたところによると、この車両は「ラリーアート・アジア」によってグループN仕様に仕上げられた3台のうちの1台であり、当時のFIAレギュレーションの許す限りの改造が施されていた。燃料タンクのみがグループN仕様とされ、インテリアは工場出荷時のグループA仕様に準拠し、必要に応じてトリムされた状態で設えられていた。
今回のオークション出品者でもある初代オーナーは、1991年~1992年のアジア・パシフィック・ラリー選手権でこのマシンをドライブし、多くのグループAマシンを破りつつクラス優勝を果たし、アジアではもっとも成功したグループNギャランとなった。
しかし「ランサーエボリューション」の登場により、この車両は現役を引退。そののちは長らく手付かずのままであった。当時ラリー仕様のギャランVR-4の多くがメカニカルパートを取り外し、ランサーエボリューションにコンバートするためのドナーカーとされてしまっていたことから、結果としてとても希少な1台となったのだ。
当時のスペックを完全コンプリートした1台
アイコニック・オークショネアーズ社は、2011年に「シルバーストーン・オークション」として創業。2023年8月に現在の屋号に改組して再スタートを図ったという、自動車オークションビジネス界では比較的新興勢力ともいうべきオークション会社である。
とくに「シルバーストーン」時代からレーシングカー/ラリーカーなどの競技車両のビジネスを積極的に展開してきたようだが、今回のオークションに出品されたグループN仕様ギャランVR-4 RSもそのひとつといえよう。
アジア・ラリー選手権1993年シーズンの閉幕をもってラリーカーとしての現役を引退したのち、グダン・ガラム・ラリーチームのチームマネージャーの妻がドライブするようになり、インドネシアの国内イベントではレディースクラスでたびたび優勝したとの記録が残っている。さらにそののち、現オーナーがラリーカーのコレクションに加えるために買い戻し、「プロテック」社によってメンテナンスサービスを受けつつ、現在に至っているとのことである。
現状では、当時物のオリジナルボディシェル、シーム溶接、オリジナルパネルを装着。ラリーアート製ロールケージも装着する。また、ラリーアートによって組まれたオリジナルRSエンジンに、同じくラリーアート製エキゾーストと競技用「AP」社製クラッチ、オリジナルのRS用ギアボックス、オリジナルの「グループN」仕様RSブレーキとブレーキパッド、ラリーアート仕様のビルシュタイン製ストラット/ショック、ラリーアート製サスペンションアームなどが残されている。
さらに、グループA規約では使用不可だったラリーアート製4WS機構を装備するかたわら、ワークス用ラリーアート「グループA」ホイールにミシュランタイヤを装着。オリジナルのラリーアート製シートとステアリングホイールに、グループN仕様のダッシュパネルも保持されているとのことだった。
ファーストオーナーやドライバーが当時乗ったコンペティションカーがダイレクトに売りに出る機会は非常に稀であり、その特別な出所について安心感を与えるものである。この個体は、主に1人のドライバーによってラリー競技で実際に活躍を見せたメーカーチューン車両で、オリジナルのボディシェル、エンジン、ギアボックスなどを備えた完全なオリジナル仕様。つまり、ラリーアートと三菱のラリーにおけるヘリテージという点から見ても、とても重要な1台と思われる。
それらの点を加味して、アイコニック・オークショネアーズ社はこの往年のラリーマシンについて、4万5000ポンド~5万ポンド(邦貨換算約890万円~約990万円)という、ギャランVR-4としてはかなり高めのエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが実際の競売では、売り手側が設定した「リザーヴ(最低落札価格)」には届かなかったようで、残念ながらNo Sale(流札)に終わってしまったのである。
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