トヨタの新型「クラウンスポーツ」に追加されたプラグイン・ハイブリッドの「RS」はかなりスポーティだった! 小川フミオがリポートする。
PHEV用に最適化
トヨタの新型クラウンスポーツに追加されたプラグイン・ハイブリッド版、クラウンスポーツRSが2023年12月に発売され、2024年2月中旬、ドライブするチャンスがあった。「期待していてください」と、開発陣がかつて言っていたとおり、痛快ともいえる走りを味わわせてくれるモデルだ。
クラウン4シリーズのうち、もっとも軽快なスタイルがセリングポイントのクラウンスポーツ。さきに登場したHEV(ハイブリッド)版も軽快な足まわりが印象的だったが、パワフルなパワートレインとボディ各所に補強を入れ走りのよさを追求したPHEVの走りは、それを上まわる好印象だ。
2.5リッター4気筒エンジンをフロントに搭載し、前後に1基ずつモーターを搭載したシリーズパラレル式ハイブリッドに、後輪をモーターで駆動する「E-Four」システム採用。
システム最高出力は225kW(306ps)を実現するいっぽう、リチウムイオンの駆動用バッテリーはモーターだけで約90kmの距離をカバー。エンジンも使えば、航続距離は1200kmに達するというから驚きだ。
「クラウンという名前をもっていても、スポーツのサブネームのとおり、このクルマがめざしたのは操る楽しさです。(ごく低速から)たっぷりしたトルクを出すモーターを使ったプラグイン・ハイブリッドは、シームレスに力強い加速を味わっていただけます」
開発を指揮したトヨタ自動車ミッドサイズビークルカンパニーの清水龍太郎チーフエンジニアは語る。
HEVのZグレードをベースに、フロアトンネル部に補強を入れてボディの最適な剛性バランスを追求したというのが、今回のPHEVモデルだ。
足まわりもパワーアップに合わせて相応の手が入っている。前後ダンパーの摩擦特性と減衰力特性を最適化。減衰力については、路面状況や運転操作に応じて前後左右を独立して制御するAVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンション)というぐあい。
さきに触れたダンパーの摩擦軽減は、伸び側でも縮み側でも、つねに計算どおりのしなやかな動きをつねに実現するもので、AVSをより効果的に働かせる効果をもたらす、と、トヨタの開発エンジニアは説明する。
さらに、前輪には20インチ通気式ディスクブレーキを採用。20インチ対向6ピストンアルミキャリパー(しかも赤色)が標準装備される。21インチ径のロードホイールに組み合わされたタイヤと、マットブラック塗装のロードホイールが、けっこうアグレッシブな雰囲気を醸し出す。
内装も同様で、デュアルコクピットコンセプトは、HEVモデルと同様だが、ブラックとセンシュアルレッドなるビビッドな赤色とを、左右席個別に仕様。ドライブに集中する運転席には黒、リラックスしていられる助手席まわりには赤と、機能で分けている。この色の組合せの場合、後席は黒となる。
輸入車よりもお買い得!走りの印象は、ごくごく低速域から「力強い!」と、わかる。バッテリー残量が十分にあったので、試乗はほぼバッテリーだけ。モーターによるスムーズなトルクの出方が、クルマのイメージによく合致している。
HEVもそれなりに気持ちよい加速感を持っていたが、アクセルペダルを踏み込んでいくときに、エンジン音と加速感とがややちぐはぐな印象を与えていた。PHEVモデルはそれがない。
上質な静粛性を持ちながら、アクセルペダルの踏み込み量に合わせてぐいぐいと加速していく。質感の高い走りだという印象だ。最近のトヨタ車には共通してよく出来ている操舵感覚は重めの設定で、カーブを曲がる際の車体のロールはゆるやか。
アクセルペダルを踏み込む力をゆるめたときの減速感は、ドライブしている私の感覚によく合っていて、クルマとの一体感がある気持ちよいドライブが味わえた。
ブレーキについても同様で、性能アップに合わせてよく効く。さらに効きがいいだけでなく、フィールがよい。「高速やワインディングロードだけでなく、市街地の交差点などでも、いわゆるカックンブレーキになって同乗者を不快にしないよう調整しています」という開発者の狙いどおりの仕上がりであると感じられた。
価格は765万円とけっして安くはないが、「輸入車のPHEVモデルと比較すれば、性能など全体の出来とともに、かなりお買い得だと自負しています」と、製品企画を担当したMSプラットフォーム設計部の西田直隆グループ長は言う。
西田グループ長によると、なんでも、「ポルシェ『マカン』からの乗り換えでも気に入ってもらえる自信がある」とのことだ。ポルシェはトヨタの永遠のライバルともいえるメーカーなので、開発者のプライドを感じさせる言葉だった。
トヨタ自動車ではいま、クルマの排ガス中の温暖化ガスをかぎりなくゼロにする、いわゆるカーボンニュートラルに向けて“マルチパスウェイ”なるコンセプトを強調。
自社製品(クルマ)の平均CO2排出量を、2030年に33%、35年に50%を超えるレベル(2019年比)での削減をめざしているとするトヨタでは、地域ごとの現実に寄り添っての製品展開が重要としている。
PHEVは、1台に必要なリチウムの量がピュアEVの6分の1に抑えられ、1台のクルマをピュアEVに置き換えた場合、全体のCO2削減効果は大きいという。HEV(リチウムはBEVの90分の1!)か、よりパワフルで化石燃料の消費量は少ないPHEVか、はたまたピュアEVか。そこは各人の事情で決めるのがいいだろう。
クラウンスポーツPHEVはRSのモノグレード(1グレード)設定で、価格は765万円。クラウンスポーツHEVの590万円からそれなりに高くなるため、いまのところ販売店ではHEVのほうが注文数は多いという。比較試乗したら、価格差はあるが、大いに悩みそうだ。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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