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ゼロから? いいえマイナスからの復活劇 津波で水没したランチア・デルタは、どうよみがえったのか

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ゼロから? いいえマイナスからの復活劇 津波で水没したランチア・デルタは、どうよみがえったのか

大津波に飲み込まれたのは「名車」ランチア・デルタ

突然の大地震、津波警報の発令、押し寄せる濁流。ここに、大災害の猛威にさらされ、水没の憂き目に遭った1台のランチア・デルタがある。東北地方をおそった悲劇から丸13年を目前にした昨年12月、ついにエンジンに火が入れられた。そして、イタリア車整備の名門・クイックトレーディングの手により、近日中には再び車検を取得し、路上復帰を果たすというのだ。まさに「奇跡の復活」をとげたデルタの軌跡を追いかけたい。

【画像】【画像大量】えっ、こんな状態から? 津波で水没したデルタ 復活への道のりをみる 全162枚

AUTOCARの読者には、ランチア・デルタというクルマについて今さら説明は不要だろう。世界ラリー選手権の参戦ホモロゲーション獲得のために登場した「HF 4WD」に端を発する一連のモデルがよく知られているところだ。今回取り上げるクルマは「HFインテグラーレ16VエボルツィオーネIIコレツィオーネ」という、日本でのみデリバリーされた長い名前の最終限定車。

冒頭で述べたようにこのデルタは、2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震による大津波に巻き込まれた。東北の太平洋側の広い範囲に被害がおよぶ中、このデルタは宮城県石巻市で被災したのだった。

甚大なダメージゆえ一度は断念も、レストア開始のワケ

津波により車体は天井まで泥水混じりの海水につかり、クルマへのダメージは計り知れない。当時のオーナーは仙台のショップに修理を依頼したがとても手に負えず、最終的にクイックトレーディングの寺島社長のもとにやってきたが、当時は解体前提だったという。

というのも、2011年当時はデルタそのものがまだ現在ほど高騰しておらず、中古車の流通価格は200~300万円台にすぎなかった。なにより、クルマへのダメージが深刻だったことが大きい。

「毛細管現象により、クルマの配線の隅々まで海水が浸透してダメにしてしまう。旧いクルマの水没ではそれが痛い」と寺島社長は語る。修理には、ざっと見積もってもデルタ3台分ものコストが掛かるとされたという。

こうして修理が諦められたデルタは「しのびないから、置いておいた」と寺島社長が言うように、敷地の一角で部品取り車として10年近くの月日を過ごした。そこに転機が訪れたのは、2018年のこと。

当時、東北の復興のために尽力していた寺島社長の後輩と社長とが、互いに意気投合。「復興へのシンボルとして、震災から10年の節目にこのデルタがまた日の目を見てほしい」そんな想いのもと、2021年の完成を目指し、寺島社長はデルタをレストアするプロジェクトへの着手を決意されたそうだ。

クイックトレーディングはイタリア車のスペシャルショップである。板金工場にてボディワークを終えたデルタは、蓄積されたノウハウと豊富なストックパーツにより、とんとん拍子にレストアが進行。しかし、ここでまた、運命のいたずらが。

わが身に重なるデルタ なんとしても復活を!

長い月日を経て完成が見えてきた2020年、デルタ復活のきっかけをもたらした後輩が急死。さらに好事魔多しというべきか、寺島社長の身に病魔が忍び寄る。

そこにCOVID-19の世界的な流行も発生。採算を度外視したレストアプロジェクトどころではなくなってしまった。またしても、デルタの行方は暗礁に乗り上げたのだった。

時は経ち2023年。一時は生命の危機にさらされた寺島社長は、医師も予想できないほどの奇跡的な回復を遂げ、ふたたびショップの最前線にいた。そして同じく、奇跡的な回復を成し遂げさせたい存在が、もうひとつ。

そう、10年以上前に水没し、いちど復活を目指すも頓挫したデルタである。

もはや、仕事やビジネスではない。着手したプロジェクトを、亡くなった後輩のためにも完遂したいという熱意、何より、闘病生活で寺島社長の原動力となった前向きな、負けない気持ちの象徴として、プロジェクトを再始動する決断が下された。

現在、デルタは板橋区のクイックトレーディングの工場にある。冒頭で述べたとおり、エンジンへの「火入れ式」も執り行われ、2月中旬の取材当日には、内装も組み付けられたレストアの最終局面に差し掛かっていた。

寺島社長は「ことしの3月11日にデルタを被災地でお披露目し、被災当時の元オーナーとの対面を果たしたい。それまでに車検を取得し公道復帰させ、なんとか自走で現地入りしたい」と力強く語る。

その先には、このデルタで日本全国をめぐるキャラバン構想や、イタリア・トリノのミュージアム「ヘリテイジ・ハブ」への里帰りも視野に入れているそうだ。奇跡の復活を遂げた1人と1台が紡ぐストーリーから、今後も目が離せない。

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