個性的なモデルが多い欧州車のなかで、根強い人気を誇ってきたのがルノー・カングーだ。商用車が出自ゆえに日本のミニバンとは異なる道具感に溢れ、気兼ねなく使える遊びグルマとして重宝されてきた。1997年の初代の登場から今日までの間に、同じフランスのプジョーやシトロエンからも同様のフォロワーが生まれたが、いまもってその人気は衰え知らず。そんなカングーが約14年ぶりにフルモデルチェンジ受け、先頃日本に上陸した。
本来の魅力は健在
強烈な速さをどこまでも優しくソフトに表現するルノーのハイパフォーマンスモデル「メガーヌR.S.」
フルモデルチェンジを受けてシャープなデザインを纏った新型カングー。写真はバンパー等がボディ同色となるインテンスグレードで、これを含めた3グレードが用意される。
「ずいぶんと立派になったものだ」。それが新型カングーの第一印象だ。実際、3代目となったカングーは、新しい車台の採用により先代と比較して全長で210mm、全幅は30mm大きい4490×1860×1810mmとなった(全高は変わらず)。そんな寸法はもとより、さらに印象が異なるのは内外装のデザインだ。2ボックスの四角いボディ形状はこれまでと変わらないが、新型ではボディパネルをはじめヘッドライトやグリル、ウィンドーフレームなどの直線的なラインが強調されてシャープさが増している。
角の丸い柔らかな雰囲気を纏っていた従来型に親近感を覚えていた人はその変わりように違和感を抱くかもしれないが、これがいまのルノーのスタイル。2代目が登場した際に「大きくなりすぎた」との声を聞いたことが思い出されるが、結局のところはそれも受け入れられ支持されてきたことを考えると、新しいスタイルを纏ったカングーも安定した人気を得るのではないかと思う。
商用車然とした仕様も人気が高く、日本向けにはブラックバンパーとなるクレアティフ(写真)とゼン(受注生産)グレードが用意される。
そう考えるのには他にも理由がある。新型は全体的なクオリティがこれまでよりも格段に高まっているのだ。インテリアは最新のルノー車らしくきっちりと整理されたレイアウトでしつらえられ、スマートフォン対応の大型モニターや最新の先進運転支援システム(ADAS)も完備。大型のトレイや蓋付きの収納スペースがそこかしこに配され、直感的な操作がしやすい物理スイッチが適度に残されるなど、実用を重視した仕立ても健在。
インストルメントパネル周りは最近のルノー車に共通するレイアウトを採る。8インチモニターはスマートフォン対応。メーターフード部分には蓋付きのアッパーボックス、頭上にはオーバーヘッドコンソールと、収納スペースが多く用意されるのはこれまでどおり。
広いキャビンと大きなウインドーによる開放的な気分が味わえるのはいうまでもなく、ラゲッジルームもこれまでどおり使い勝手は抜群である。カングー本来の魅力は微塵も損なわれていない。
リアは左右ともに開口部の広いスライドドアが備わり、フロントドアはご覧のように90度近く開くこともあって乗降性が高い。
3名掛けのリアシートは6:4分割可倒式だが、それぞれのサイドサポートがしっかりしておりホールド性が高いのがいい。フロントシートバックテーブルやセンターコンソール背面にUSB/12V電源ソケットが備わるなど、後席の使い勝手も抜群。スライドドアの滑りも良くなっていた。
伝統のダブルバックドアを採用。荷室容量は5名乗車時で775ℓ、リアシートを倒せばフルフラットとなり、最大2800ℓまで拡大できる。
幸せな気分になれるクルマ
新型にはガソリンとディーゼルの2種のパワートレインが用意される。いずれも定評のあるユニットだから熟成度は高く、特にガソリンエンジンはその軽やかさが光っていた。実用ユニットゆえ吹け上がりやサウンドがスポーツカーのエンジンのようとまでは言わないが、7速になったツインクラッチ式トランスミッションとの相性もよく、どんなシチュエーションでも痛痒なく使えるのがいい。素直なハンドリングも含めて、これまでのカングーの正常進化版という印象が強かった。
いっぽうのディーゼルモデルはトルキーで扱いやすい。ディーゼル特有の音や振動もしっかりと抑えられており、乗用ミニバンとしての動的質感が格段に高まっていた。今回はガソリンとディーゼルを同じシチュエーションで試すことができたが、個人的にはこのディーゼルのほうに惹かれた。というのもサスペンションの動きがよりしなやかに感じられ、しっとりとした乗り心地を示していたから。従来からの軽やかさを残すガソリンもいいが、ディーゼルの落ち着いたマナーにカングーの新しい魅力を見出したというわけだ。
インテンス、クレアティフグレードともガソリンとディーゼルが選べ、グレードに関わらず価格はガソリンが395万円、ディーゼルが419万円となる(受注生産のゼンはガソリンエンジンのみの用意)。
ファンの多いクルマだからこそ、フルモデルチェンジはかなりチャレンジングだ。それまでの仕立てに対して大きな変化があった場合には拒絶反応が起こりやすいもの。それは今回のカングーにも当てはまるが、筆者自身は期待以上の進化を遂げてくれたと安堵している。使い勝手の良さはもちろん、ルノー車らしいすっきりとした乗り心地とハンドリングがしっかりと備わっており、そのうえで最新ADAS等の装備も充実している。価格の上昇分が十分に納得のいくものとなっていたからだ。それになにより、運転をするしないに関わらず、この空間に身を投じるだけでほっこりとした、幸せな気分になれるのがいい。つまり新型でもカングーはカングー。その進化と深化に迷いはなかった。
ルノー・カングー・インテンス(ガソリン)
Specification
全長×全幅×全高:4,490×1,860×1,810mm
車両重量:1,560kg
駆動方式:FWD
トランスミッション:7速AT
最小回転半径:5.6m
エンジン:水冷直列4気筒DOHCターボ 1,333cc
最高出力:96kW(131PS)/5,000rpm
最大トルク:240Nm(24.5kgm)/1,600rpm
WLTCモード燃費:15.4km/ℓ
車両本体価格:¥ 3,950,000~(税込み)
問い合わせ先:ルノー・コール
TEL:0120-676-365
文/桐畑恒治(AQ編集部)
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みんなのコメント
登場が遅かった為に完全にベルランゴリフターに食われちゃった