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【ヒットの法則462】ゴルフ TSIトレンドラインの登場がダウンサイジング旋風の契機となった

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【ヒットの法則462】ゴルフ TSIトレンドラインの登場がダウンサイジング旋風の契機となった

2008年、シングルチャージャーの1.4TSI+7速DSGを搭載するゴルフ TSIトレンドラインが投入された。いわゆる「ダウンサイズコンセプト」で、「車格は排気量に依存する」というこれまでのヒエラルキーを捨て去ったものだった。Motor Magazine誌は、TSIトレンドライン、TSIコンフォートライン、GT TSIの3台を連れ出し、ゴルフの新しい世界に迫っている。ここではその試乗の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年8月号より)

象徴として存在と普通にラインアップされるTSI
現行型モデルの発表は2003年。すなわち、最新のゴルフも気がつけば、間もなくデビュー以来丸5年というタイミングが迫っていることになる。

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ライフサイクルも終盤と目される、そんなタイミングで実施された現行モデルのリファインの内容には、だからこそ逆に驚きを禁じえなかった。なぜなら、そのリファインとは「パワーパックを大幅に進化させる」という、自動車のハードウエアの根幹部分に手を加える事柄であったからだ。

すでに熟成の段階にある5代目ゴルフ。その各モデルが用いる最新のパワーパックは、どんな狙いを持って開発されたものなのか。そのユニットを搭載したモデルは、どのような走りの実力を披露してくれるのか。これらを検証することは、「次期型ゴルフ」の在り方を占うことにもつながるはずだ。ここで日本市場のゴルフ、その最新ラインアップを改めて確認しておこう。

最新ゴルフシリーズは、まず気筒数で2タイプ、排気量で3タイプという基本構成となる。このうち、6気筒エンジンとシリーズ唯一の4WDシャシを組み合わせるのが、ゴルフ全体のイメージリーダーとしての役割も受け持つ「R32」。V6で3.2Lというエンジン排気量や、6.2秒という0→100km/h加速タイム。さらには400万円をはるかに超えるといったデータ類からも明らかなように、ゴルフの一員ではあるものの、あくまでも「特別な存在」としての位置づけが強調されているのが、このモデルである。

一方、今やグレード名そのものがある種のブランド力を備えるのが、2Lの排気量から200psを発揮するターボエンジンを搭載する「GTI」だ。ひと目で他グレードとの識別が可能なハニカム状のブラックグリルを採用し、インテリアにも専用のアルミペダルやスポーツシートを用いるなど、ルックス面でのドレスアップをアピールするのもこのモデルの特徴。R32ほどの極端さではないものの、こちらもまた「エクスクルーシブなゴルフ」としての位置づけが訴求されている。

残る3種の「普通のゴルフ」は、すべて直噴1.4Lの過給器付きTSIエンジンを搭載する。「車格は排気量に依存する」というこれまで多くの人々に認知されてきたヒエラルキーを捨て去り、多くの出力を必要としない巡航シーンでは小排気量エンジンゆえの燃費の良さを生かして、加速シーンではそんな排気量のハンディキャップを補うべく過給器の助けを借りるという、いわゆる「ダウンサイズコンセプト」をベーシックカーとしては世界でもいち早く採り入れたのが、この1.4Lエンジン搭載の最新シリーズになる。

構造/レイアウトの複雑さや高コスト要因のため、過去には一部スポーツモデル向けのエンジンに採用例が見られた程度で、ベーシックモデルの心臓に使われるとは誰もが予想できなかったはずのターボ式とメカニカル式という2つの過給器を備えたのが、前出コンセプトを具現化させたエンジンとしてまず世に問われたツインチャージャー付きエンジンだ。

ゴルフでは「TSIコンフォートライン」と「GT TSI」に搭載されるが、基本的メカニズムは同様ながら、一部チューニングを変えることで前者は140ps、後者は170psの最高出力を発生。そのそれぞれが、すでにフォルクスワーゲンでは世界で100万台以上の実績を持つ6速DSGと組み合わされている。

その湿式デュアルクラッチを用いた「第一世代」の6速DSGに対して、クラッチ部分を乾式としてクラッチ冷却用オイルを廃し、それを中心としたロス低減によりさらなる効率の高さを売り物とするのが、新開発された「第二世代」の7速DSG。それに、過給器を1基のターボチャージャーのみとして最高122psを発する最新1.4Lエンジンと組み合わせたパワーパックを搭載するのが、このほど新発売となった「TSIトレンドライン」だ。

新しい世界観を宿したTSIトレンドラインの効能
「TSIトレンドライン」は、これまでの日本でのベーシックゴルフ「E」の後継グレードとして、そのわずかに3万円高という価格で導入されたこのモデル。最高出力は6ps、最大トルクでは45Nmの大幅アップというのが、従来ゴルフEに搭載されていたエンジンとの関係になる。

トランスミッションも6速ATから7速DSGに変更。そうした変更も含めた動力性能では最高速度が197km/hで、0→100km/h加速タイムは9.4秒。2L FSI+6速ATとほぼ同レベルだ。15.4km/Lという10・15モード燃費のデータは、これまで日本に導入されたフォルクスワーゲン車では最良の値という。テスト中の最高速が、10・15モードの70km/hを大幅に上回る120 km/hに達するヨーロッパの新テストモード「NEDC(New European Driving Cycle)」による1km走行当たりのCO2排出量も、わずかに139gにしか過ぎないという「エコ性能」の高さが大きな売り物だ。

早速、ニューカマーであるそのTSIトレンドラインからテストドライブする。「1.4Lのターボ付き」と聞くと、まずは排出ガスのエネルギーが高まる以前の低速領域での力感が気になるが、アクセルペダルを軽く踏み込めばそうした心配はまったくの杞憂に過ぎないと、すぐさま教えられる。

動き出しの瞬間の力感はとくに強いとは言えないものの、それでも従来の1.6Lモデルに勝るとも劣らないのは確か。そこからアクセルを踏み込むとかすかなタービン音が耳に届いて本格的なターボチャージングが始まったことを知らされるが、そんな段階でもトルクの急激な高まりは実感できず、あくまでもベーシックモデルのスタンダードエンジンとして相応しい特性を味わうことができる。

特筆すべきは、スタートのスムーズさを含めた微低速走行時の7速DSGのマナーの良さ。明らかに6速DSGの仕上がりを凌いでいる。湿式クラッチを用いた従来型の「350Nmまで」に対し、新しい乾式クラッチ採用のDSGは「250Nmまで」に対応と少々容量が小さく限定されるが、それが7速である理由は変速レンジをワイド化して発進性と経済性を両立させるという目的に加え、ギア間ステップ比を小さくして変速時のクラッチの負担を低減させる狙いもあると目される。

いずれにしても、そんなステップ比の小ささにエンジンが発する比較的小さな絶対トルク値も相まって、微低速時を代表とする変速のクオリティは6速DSG以上だと実感できるものに仕上げられている。

こうして、発進性やシフトクオリティの点では文句なしのTSIトレンドラインの動力性能だが、それを従来の1.6Lエンジン+6速AT仕様と比較してみると、基本的にはすべての点で上回っていると思える中で唯一、懸念される可能性があるのは、アイドリング時のクリープ力の小ささだろう。

トルクコンバーターを持たないという構造上、DSG車が発生可能なクリープ力はどうしても限定されざるを得ない。だが、実はここで威力を発揮してくれるのが、DSG車には全車標準装備される「ヒルホルダー」だ。坂道発進時のずり下がりを防いでくれるばかりか、瞬間的な逆走からのスタートとなってエンジンに無用な負担が掛かることを回避できるため、走り出す瞬間の力感の低下を防ぐという「効用」もあるのがこのデバイスだ。

ちなみに、このモデルで高速道路を100km/hプラスを上限にクルージングした際の燃費計の表示は、おおよそ16km/L前後という所だった。「踏むと大幅に悪化」という過給器付きエンジン特有の特性はある程度残りそうだが、淡々としたクルージングではそんなデータを上回る記録を残すのもさして難しくなさそうだ。

モデルごとのコンセプトに必要とされるのは高い構築力
そんなTSIトレンドラインから最大18ps増しを表示するTSIコンフォートラインに乗り換える。アクセルペダルを半分ほど踏み込むことさえまず稀という日常のシーンでは、即座にその出力差を実感できるというわけではない。

理屈からすれば、低回転域を機械式のスーパーチャージャーによる過給がサポートするこちらの方が、発進の瞬間からリニアで力強いトルク感を得られるといえそうだが、そんな領域を巧みにカバーしてくれるのが、TSIトレンドラインの新しい7速DSGでもあるという印象も受ける。

一方で、高回転にかけてのエンジン回転の伸び感は、TSIコンフォートラインが明確にリード。シングルターボながら低回転域からの素早く有効なブースト圧の立ち上がりを狙ったTSIトレンドラインの心臓は、実際に極めて優れた低速性能は実現したものの、すでに5500rpm付近から明確なエンジン回転の頭打ち感を示す。

すなわち、多少なりとも動力性能にスポーツ性を求めたいという場合、TSIトレンドラインのエンジンは、フィーリング面で不満を感じさせる可能性を否定できない。TSIコンフォートラインの存在意義は、どうやらこのあたりにありそうだ。ちなみにクルーズコントロールやアルミホイールの有無、シートデザインの違いなどの軽い装備差が与えられた両者の価格差は、41万円と意外に大きい。

そこから、さらに23万円高となる170psを発するGT TSIへと乗り換えると、実は前2車ではあまり気にならなかったスタート時のスナッチ(ぎくしゃく挙動)が少々目立つ。

テスト車両が、3台中で最も多い1.6万kmという走行距離を後にしていたこととあるいは関係があるのか、クリープ現象状態から加速をしようとアクセルペダルを踏み加えると、スーパーチャージャーが過給を開始する際にちょっとばかりのトルクの段差感も確認され、さらにその後のアクセル操作に対する加速力のリニアリティも、前2車よりはやや低いという印象だ。

ただし、全力加速シーンではなるほど3車中で最もシャープな加速感を味わわせてくれるし、よりファットで薄いシューズにスポーツサスペンションという足まわりの組み合わせは、当然ながら最も素早いコーナリングスピードを可能としてくれている。

こうして、もはやエンジン排気量ではなく、そのチューニングや組み合わせるトランスミッションの違いで各モデルのキャラクターづくりをしていこうというのが、どうやら最新のゴルフで見られる同社の戦略。常にカテゴリーの先駆者であり続けたゴルフが打ち出したこうしたやり方を、今後ライバルたちがどのように受け止めて行くのか? Cセグメントの世界は、いよいよ面白いことになってきたと思う。(文:河村康彦/Motor Magazine 2008年8月号より)



フォルクスワーゲン ゴルフ TSIトレンドライン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4205×1760×1520mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1390kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1389cc
●最高出力:122ps/5000rpm
●最大トルク:200Nm/1500-4000rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●車両価格:248万円

フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4205×1760×1520mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1310kg
●エンジン:直4DOHCターボ+スーパーチャージャー
●排気量:1389cc
●最高出力:140ps/5600rpm
●最大トルク:220Nm/1500-4000rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●車両価格:289万円

フォルクスワーゲン ゴルフ GT TSI 主要諸元
●全長×全幅×全高:4205×1760×1500mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1410kg
●エンジン:直4DOHCターボ+スーパーチャージャー
●排気量:1389cc
●最高出力:170ps/6000rpm
●最大トルク:240Nm/1500-4750rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●車両価格:312万円

[ アルバム : フォルクスワーゲン ゴルフ TSIトレンドライン、TSIコンフォートライン、 GT TSI はオリジナルサイトでご覧ください ]

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