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【輸入車年鑑 2020】新しい時代のスーパーEV、「タイカン」は紛れもなくポルシェ

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【輸入車年鑑 2020】新しい時代のスーパーEV、「タイカン」は紛れもなくポルシェ

2019年11月に国内初披露されたポルシェ初のEVモデル「タイカン」。駆動方式はモーターを前後に積む4WDで、ターボSの場合で、最高出力は通常時が625psでブースト時は761ps、0-100km/h 加速をわずか2.8秒でこなす。911を思い起こさせるスタイリングだが、実際は4ドア4シーターのサルーンだ。日本上陸は2020年後半と言われるが、今回は新刊ムック「Motor Magazine 輸入車年鑑 2020」から、一足早く、その海外試乗記をお届けしよう。

ブレーキからパフォーマンスまで徹頭徹尾ポルシェそのものだった
まず驚かされるのは、乗り心地がバツグンにいいことである。21インチという大径タイヤを履いているにもかかわらず、タイカンはゴツゴツという路面からのショックをまったくといっていいほど伝えない。

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その点だけをとればかなりソフトな足まわりと評価できるのだけれど、強く波打つ道をヨーロッパ流の100km/h近いスピードで強行突破してもボディがあおられたり不快な上下動が残ったりすることがないのは不思議ですらある。なにかの拍子にボディがふわっと浮き上がってもタイヤの接地感はまるで失われず、その後はすーっとよく抑制が利いた速さでサスペンションが沈み込み、もともとの車高に復帰する。

その間、フラットな姿勢を保ったまま。したがって安心感は恐ろしく高い。まるでクルマから「大丈夫、任せて」と常に勇気づけられているように思えるほど安定した走りだ。

こうした安心感を後押ししてくれるのが、ハンドルから伝わるインフォメーションが豊富なことにある。どんな路面を走っているかが瞬時にしてわかるうえ、タイヤがしっかりと路面を捉えている様子もはっきりと伝わってくる。だから、コーナーに向けてハンドルを切り込むときにもクルマに全幅の信頼をおくことができる。操舵量とクルマの向きが変わる量の関係も正確無比。おかげで初めて走るワインディングロードでも不安は覚えなかった。

そしてコーナリング限界が恐ろしく高い。今回はオーストリアンチロルの山奥からドイツ ミュンヘンまで700kmほどを走り続けたが、その間かなりのワインディングロードが含まれていたにもかかわらず、私はタイヤの限界に一切近づくことができなかった。この高いコーナリング性能は、クルマの重心が際だって低いだけでなく、強固なボディ、正確に作動するサスペンションが相まって初めて実現できるもの。その意味で、タイカンは紛れもないポルシェといえる。

ブレーキのフィーリングが典型的なポルシェであることも紛れのない事実。まず、ブレーキペダルの剛性感がガッシリとしていて、踏みごたえも申し分ない。しかもペダル踏力と制動力の関係が常に一定で変化しないのだ。

「そんなの簡単でしょう」と思われるかもしれないが、実はこれがかなりの難題。というのも、EVやハイブリッド車の場合、ひとつのブレーキペダルで回生ブレーキと(従来からある)メカニカルブレーキの両方をコントロールしているからだ。ふたつのブレーキの配分を決めるのは車載のコンピューターだが、その値は車速や減速Gなどによって常に変化する。さらに回生ブレーキはメカニカルブレーキと違って減速度を生み出してもブレーキペダルへの反力が発生しない。

そこで回生ブレーキ分のペダル反力はスプリングや電磁アクチュエーターなどで発生させるのだが、まったく別の原理で生み出されるふたつの力を足し合わせて常に一定に保つのが難しいことは容易に想像できる。しかも、これが前述のとおり車速や減速時によって刻一刻と変化するのだから、EVやハイブリッド車のブレーキフィールがエンジン車と違っているのは当然。むしろそうでなければ理屈があわないのだが、タイカンはこの不可能を可能にしている。ここに注ぎ込まれた労力とコストを考えると気が遠くなるが、ブレーキがいかにコーナリングに重要かを知るポルシェらしい取り組み方といえるだろう。

乗り心地が驚くほどよくて、ステアリングからは強い安心感が伝わってきて、ブレーキはこれ以上ないくらい信頼に足る仕上がり。もちろん高速道路では矢のように直進するし、長距離を連続走行してもほとんど疲れない。つまり、タイカンは徹頭徹尾ポルシェなのだが、決定的に異なることがひとつある。

それは音を発しないことだ。インバーターが発するウィーンという音はかすかに聞こえなくもない。でも、それは水平対向6気筒エンジンが奏でる快音に比べればほとんどゼロといっていいほどの静けさ。にもかかわらず、スロットルペダルを踏み込めば、まるでSF映画の宇宙船がワープするような勢いで加速していく。この感覚は、やはり未来的といっていい。つまり、タイカンは紛れもないEVなのである。

タイカンはスポーツカーに対するポルシェからのメッセージである
では、なぜポルシェはスポーツカーメーカーとしていち早くEVのタイカンを世に送り出したのか?

それは、もちろんCO2排出量を削減して温暖化現象をスローダウンさせ、地球環境の改善に役立てるためだ。ただし、凡百のEVであればあえてポルシェが作るまでもない。いかにもポルシェらしい性能を備えていること。これこそシュトゥッツガルトのスポーツカーメーカーがEVを開発するうえで最低限必要なことだったのは間違いなかろう。

もっとも、それだけではただポルシェの性能をEVに落とし込んだだけに過ぎない。そこでシュトゥッツガルトのエンジニアたちはかつてEVがもったことのない性能をタイカンに与えようとした。そのひとつが世界で初めてタイカンで実用化された800Vの電気系である。

V=ボルトは電圧の単位。電圧は、電気を水にたとえるなら水圧に相当する。たとえば、同じ水道管(電気で言えば電線)であれば水圧(電圧)を高くしたほうが流れる水の量(電力)が増える。タイカンは800Vシステムを使って、この逆をやってみせた。つまり、通常400Vの電気系を800Vにすることで、これまでより細い電線(細い水道管)で同じ電力を送れるようにしたのだ。電線が細くて済めばその分、軽量化につながる。こうしてポルシェは800Vシステムを軽量化に役立てたのである。

もうひとつはモーター内まで冷却経路を張り巡らすなどして徹底的に熱に強い電気駆動系を作り上げた点にある。そのメリットは、全力の発進加速を何度繰り返してもモーターが過熱せず、おかげで熱による性能低下を招かずに済むこと。

実はタイカンは0→200km/h加速を26回繰り返してもタイムは1秒と変わらないのだが、世の多くのEVで0→200km/h加速を1回でも行えば、駆動系の安全装置が働いて以降はぐっと遅くなる例がほとんどという。

こういうところが私はいかにもポルシェらしいと思うのだけれど、その意味において、タイカンは単なるEVを超えて、現代と未来に向けたポルシェからのメッセージと捉えることもできる。そこに込められているのは「EV時代を迎えてもスポーツカーは生き続けられる」という彼らの決意表明だ。

先ごろポルシェジャパンの代表に就任したミヒャエル・キルシュ氏も、私と同じような視点でタイカンを捉えていた。「タイカンは、ただのクルマではなく、ひとつの思想であり、新しい時代の始まりです。EVが人類にとって役立つことは疑う余地がありません。そしてEVを取り巻く社会環境は今後、次第に改善されていきます。みなさんもぜひタイカンを理解し、そして信じてください」

キルシュ氏はもうひとつ聞き逃すことのできない情報を私に教えてくれた。「タイカンは2020年の春から正式な受注を開始しますが、いまの私たちの目標は、日本でタイカンを買いたいと望むすべてのお客様にこの優れたEVをお届けすること。なぜなら現時点でのタイカンは生産台数は限られているため、日本市場に何台確保できるかまだわからないからです」 。だとすれば、確実にタイカンを手に入れるには早めに正規ディーラーを訪れた方がいいということになる。(文:大谷達也/新刊ムック「Motor Magazine 輸入車年鑑 2020」より)

ポルシェ タイカン ターボ S 主要諸元
●全長×全幅×全高:4963×1966×1378mm
●ホイールベース:2900mm
●車両重量:2295kg
●モーター:永久磁石同期モーター/フロント1基、リア1基
●最高出力:560kW(761ps)
●最大トルク:1050Nm
●駆動方式:4WD
●WLTP 航続距離:388-412km
●タイヤサイズ: 前265/35ZR21 後305/30R21
●車両価格:未定
※データはローンチコントロール時の出力とトルク

■ポルシェ タイカン ラインアップ(価格未定)

タイカン 4S:最高出力390kW(530ps)/最大トルク650Nm
タイカン ターボ:最高出力500kW(680ps)/最大トルク850Nm
タイカン ターボS:最高出力560kW(761ps)/最大トルク1050Nm

[ アルバム : ポルシェ タイカン はオリジナルサイトでご覧ください ]

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