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VWは「お尻」で中国に勝つ ソフトウェアには真似できない開発ツールとは? 技術責任者が語る情熱

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VWは「お尻」で中国に勝つ ソフトウェアには真似できない開発ツールとは? 技術責任者が語る情熱

人間の感覚に勝るものなし

欧州の歴史ある自動車メーカーはここ数十年で最も深刻な課題に直面している。野心的な中国車が次々と市場に流入し、その技術はますます進化しているのだ。

【画像】フォルクスワーゲンの次世代コンパクトEV【IDポロとIDクロス・コンセプトを詳しく見る】 全41枚

しかし、フォルクスワーゲンの技術責任者は、中国の先進的なハードウェア/ソフトウェア技術を打ち負かす鍵となる秘密兵器を持っていると豪語する。それは「ポポメーター(popometer)」だ。筆者が少し困惑した表情を浮かべているのを見て、「お尻で感じるものだよ」とカイ・グリューニッツ氏は説明してくれた。

そう、お尻だ。具体的には、クルマがどう動いているかを人間の感覚で捉える能力である。これをドイツ語では「お尻」を意味する「popo」という言葉を使ってポポメーターという。世界最高のソフトウェアエンジニアでさえ、お尻をプログラムする方法はまだ知らない。

「結局のところ、クルマ作りは人間が主役なのです。シートに座って車両を感じ取らなければなりません。どんなに高度なシミュレーションでも、それは不可能なのです」とグリューニッツ氏は言う。

ただし、このポポメーターを重視する姿勢を、現代技術を拒むラッダイト(反技術主義)的なものと誤解してはいけない。2022年からフォルクスワーゲンの技術開発責任者を務めるグリューニッツ氏は、新型『IDポロ』や『IDクロス』を筆頭とする次世代EV開発の立役者である。さらに、フォルクスワーゲン・グループが米国EV新興企業リビアンとの提携で手に入れた、先進的な新ソフトウェアアーキテクチャーを活用する車両の開発にも取り組んでいる。

IDポロとIDクロスは約36か月で開発

彼はまた、中国メーカーの得意分野でも勝負をかけ、開発期間の短縮を主導している。IDポロとIDクロスは約36か月で開発された。彼は「中国スピード」は基本性能を損なわずに達成できると主張する。

「それが優良ブランドと卓越したブランドを分ける要素となります」とグリューニッツ氏は語る。ポポメーターだけでなく、数十年にわたるシャシー設計の経験によって培われたこの基本的な知見こそが、中国メーカーに対するフォルクスワーゲンの優位性だという。

シャシー開発の習得には「経験、知識、時間」が必要だと彼は言う。「24か月でクルマを開発し、その後わずか2週間で走行性能の応用に取り組むなんて考えられないでしょう。それだけでは不十分で、何をすべきかを本当に理解していなければなりません。これはフォルクスワーゲンだけでなく、BMWやアウディなど欧州の自動車メーカーが持つ強みです。わたし達はこれを長年続けてきたのです」

「中国企業を恐れてはいません。欧州の顧客が何を望んでいるかを、欧州のメーカーより中国企業がよく知っているはずがありません」

次世代EVは誰のためのクルマか?

グリューニッツ氏はフォルクスワーゲン・グループで約30年間勤務しており、チェコブランドのスコダやフォルクスワーゲン・コマーシャル・ビークルズ(商用車部門)で長年従事。自動運転技術に携わった後、技術部門全体の責任者に就任した。フォルクスワーゲンの乗用車ブランドへの異動は、トーマス・シェーファーCEOが主導した経営刷新の一環である。

グリューニッツ氏はCEOやチーフデザイナーほどの知名度はないが、「フォルクスワーゲンらしい走り」を実現するという目標においては等しく重要な人物だ。

新型IDポロは、グループの中核となる新プラットフォーム『MEBエントリー』を採用している。これは約2万2000ポンド(約440万円)の価格帯を実現するためにEV専用プラットフォームを簡素化したものだ。グリューニッツ氏はその3年に及ぶ開発プロセスを振り返り、次のように語った。

「2022年のクリスマス直前に着手しました。フォルクスワーゲンらしい外観の最初のスケッチとアイデアが生まれ、それ以来、そのコンセプトを進化させてきました。3年間にわたり、最初のスケッチから完成車の発表まで一貫して携わる機会を得たのは今回が初めてです。技術者として何かを始めても、途中で別のプロジェクトに移ることが多いのです。このクルマに関しては、わたしは設計から生産まで関わっています」

ブランドの迷走を自覚している

長期にわたる関与により、グリューニッツ氏はこのプロジェクトに「自分の足跡をしっかり残す」機会を得たが、彼は次のように付け加えている。

「重要なのは、このクルマがわたし個人のために作られたクルマではないということです。過去には、(元最高責任者である)フェルディナンド・ピエヒ氏や(マルティン・)ヴィンターコルン氏のために作られたクルマもあります。しかし、このクルマはお客様のために作られたものです。デザインや技術の面でわたしにとって完璧である必要はありません」

「このクルマを開発する際、お客様がこの種のクルマに何を求めているかを徹底的に調べ、さまざまな研究調査を行いました。これは役員のためのクルマではなく、お客様のためのクルマです」

文字通り「国民車」であるフォルクスワーゲンが、顧客が望むものよりも役員の要望に重点を置いてきたという告白は、W16エンジンなど、かつてピエヒ氏が手掛けた目もくらむほど高額なプロジェクトを考えると、まったくの驚きではないにしても、印象的なものである。しかし、こうした過去の誤りを認め、ブランドの迷走を自覚していることから、グリューニッツ氏はこれから何をすべきか正しく理解していると言えそうだ。

初の電動GTIに求めるもの

興味深いことに、IDポロの原型となったのは、純粋にフォルクスワーゲンらしいデザイン言語の復活に焦点を当てたコンセプトカーだ。デザイン責任者のアンドレアス・ミント氏は、内燃機関モデルへのオマージュとしてデザインの改変が必要だったことを認めている。

走行性能に関してグリューニッツ氏はこう語る。「もともとポロの開発に焦点を当てていたわけではありません。真のフォルクスワーゲンを取り戻すことに集中したのです。デザイン、素材、価格帯、機能性などにこだわり、この理念が開発プロセスの指針となりました」

IDポロは、高性能の『GTI』バージョンが設定される初のEVモデルとなる。これまでのIDシリーズは後輪駆動を基本とし、最上位モデルは四輪駆動の『GTX』だったが、IDポロとGTIはいずれも前輪駆動となる。グリューニッツ氏は新型GTIの開発に興奮を隠しきれないといった様子だが、これは過去数年間、自身の生まれた年のゴルフGTIを入手しようとかなりの時間を費やしてきたためだ。

後輪駆動とする必要はない

「GTIの開発は楽しいですよ。作りたいものが明確なんです。GTIは昔からずっと前輪駆動でしたから、今回前輪駆動モデルとなることに満足しています。後輪駆動とする必要はないでしょう。確かに前輪駆動ではホイールスピンを防ぐため出力が制限されますが、それはGTIの常です。四輪駆動のゴルフRならパワーも加速も上ですが、感覚が違います。GTIに乗るということはアディダスのスニーカーを履くようなものです」

特筆すべきは、ポロGTIが大幅なパワーアップを見送った点だ。最高出力226psと比較的控えめで、多くの高性能EVが追うトレンドを避けている。「これはスポーティなクルマです。スポーティなクルマとは、加速性能だけではありません。GTIがもたらす独特のフィーリングも重要です。GTIは機敏で、ゴーカートのようなフィーリングと低重心を実現しなければなりません」

「駆動系に関して言えば、標準のIDポロとGTIバージョンの間で出力に大きな差はありません。ただ、フロントアクスルにトルクスプリッターを装備し、駆動系とシャシーには専用アプリケーションを採用しています。さらにステアリングホイールのGTIボタンを押してブーストアップできるGTIモードも備えています。きっと気に入っていただけるでしょう」

ソフトウェアがもたらす変化

フォルクスワーゲンはEVへの移行に伴い、「ソフトウェア定義型車両(SDV)」という大きな壁に直面した。グループ傘下のソフトウェア子会社カリアドが開発したシステムを搭載する初期のIDシリーズでは、これが重大な問題となった。

「ソフトウェア面ではかなりの課題があったと言えるでしょう」とグリューニッツ氏は控えめに笑いながら語る。「業界ベンチマークと言える安定性を確保するまでに2~3年を要しました。当社はプロセスを徹底的に見直し、改善策を模索しました」

その一環として、MEBエントリー開発におけるスコダやクプラとの協業など、グループ各ブランド間の連携強化が図られている。ソフトウェアの全体像だけでなく、運転中に表示される警告音の数といった些細な点にも目を向けている。「こうした警告は多方面でお客様を煩わせます。わたし達もそれを望んでいません」とグリューニッツ氏は認めた。

鍵はリビアンとの合弁事業

今後のソフトウェア開発の鍵となるのは、リビアンとの合弁事業だ。新しいソフトウェアアーキテクチャーを開発し、2027年以降のほとんどのモデルに展開する予定である。

「リビアンは1つの地域で1つのプロジェクトを進める小規模な企業です。それに対し、当社は世界中から集まった10のブランドを抱えるグループです。両者の強みを活かすのは非常に興味深いことであり、同時に難しくもあります。彼らのソフトウェアは完璧ではありませんが、非常に良い出発点となります。特に優れているのは、無線アップデート(OTA)の機能です」

グリューニッツ氏は、最初のテスト車両でさえ無線アップデートが可能であり、これが「非常に大きな」違いを生むと指摘する。「仕事の進め方そのものが大きく変わります」

結局のところ、これは先進的なソフトウェアプラットフォームを基盤とするEV時代において、新型車開発の手法がどのように変容しているかを示す例と言えるだろう。しかし、自動車は依然として動く機械の驚異であり、それを深く理解することこそが開発の鍵であり続けるだろう。

だからこそ、グリューニッツ氏のような人物がフォルクスワーゲンを率い、情熱とポポメーターを携えていることは心強い。

文:AUTOCAR JAPAN AUTOCAR JAPAN
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