最近耳にする機会の多くなった「自動運転」という言葉。日本語としての意味はわかるけれど、具体的に説明するとなると意外と難しい言葉の代表かもしれません。今回は、「自動運転」に含まれる5つのレベルについて解説してみたいと思います。
●「自動運転」はひとつじゃない! 5つのレベルとは?
「自動運転」という言葉を聞いて、多くの人がぱっと思い浮かべるのは「ハンドルを握ることなく、寝ている間に目的地に到着する」というようなイメージかもしれません。
もちろん、それも自動運転のひとつには違いありませんが、常識的に考えて、いま現在そんなクルマが実際に存在すると考える人はほとんどいないでしょう。
ただ、自動車関連業界では「自動運転」という言葉を細分化し、5つのレベルにわけて考えています。上で紹介したイメージは、最も高いレベルに位置するものであり、現在の技術からすれば実現はまだまだ困難と言えますが、一方でレベル1やレベル2の自動運転はすでに普及しています。つまり、「自動運転」は決して未来の話ではなく、いま現在の話なのです。
現在主流となっているのは、アメリカ自動車技術会(SAE)が2016年に定義したものです。運転自動技術を一切含まないクルマを「レベル0」とし、それ以降はその内容に応じて、レベル1からレベル5までの5段階で定義されています。
それぞれについて詳しく見てみましょう。
●レベル1…運転支援
SAEの定義では、加速と減速、もしくは左右(ハンドル操作)の制御のどちらかを、システム(=クルマ)が行なうものを、自動運転の「レベル1」と定義しています。それ以外の操作はドライバー自身が行わなければならないため、あくまで「運転支援」という位置付けではありますが、車両の制御の一部を、クルマ自身が担うという点では運転の自動化と言って差し支えないでしょう。
具体的には、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)やレーンキープ機能、自動ブレーキを備えたクルマは、「レベル1の自動運転車」ということになります。現在日本で新車販売されているクルマのほとんどに自動ブレーキが搭載されるようになりました。そのため、日本には多くの運転支援車が走っていると言っても、決して間違いではありません。
●レベル2…部分運転自動化
「レベル2」は、部分的に運転を自動化するものを指します。レベル1では、加速と減速、もしくは左右の制御のどちらかをクルマが行なうというものでしたが、レベル2ではその両方をクルマが担うことになります。
ただし、運転が自動化されるのは、高速道路に代表される限定した場所のみであり、どこでも運転が自動化されるわけではありません。また、自動運転機能を用いて走行中であったとしても、運転の責任はドライバーにあるため、前方から目を逸らしたり、ハンドルから手を離したりすることは認められていません。
スバルの「アイサイト」や、ホンダの「ホンダセンシング」、トヨタの「トヨタセーフティセンス」など、高速道路走行時のACCとステアリングアシスト機能が組み合わされた、最新の運転支援機能パッケージを搭載したクルマは、レベル2の自動運転に該当すると言えます。
●レベル3…条件付き運転自動化
一定の条件がそろった状態であれば、運転をクルマに任せることができるものは「レベル3」の自動運転と定義されます。ここでいう「一定の条件がそろった状態」とは、クルマが自動運転の継続が困難な場合に、ドライバーが即座に対応できる状態となっていることを意味しています。
そのため、あくまでドライバーは必要であり、また、自動運転による走行中であっても睡眠をすることなどはできません。しかし、「レベル2」との大きな違いは、それらの条件がそろった状態であれば、運転の責任はクルマにあることです。
責任の所在がドライバーからクルマ(自動車メーカー)に移るため、法律の改正などが必要でしたが、日本では2020年4月よりレベル3の運転が認められるようになりました。それをうけて、2021年3月にはホンダが日本で初めて、レベル3の自動運転機能を持ったクルマ(レジェンド)を発売しました。少数限定でのリース販売のみのため、一般に普及したとは言えませんが、自動車業界においては大きな一歩を踏み出した瞬間であったと言えます。
このレジェンドが搭載する「トラフィックジャムパイロット」機能では、高速道路や自動車専用道路上で30km/h以下の渋滞時に起動することができ、作動中は50km/h以下の状態であれば運転の一切をクルマに任せることができます。ドライバーはシートベルトを着用している必要がありますが、自動運転時にはナビの操作やテレビの視聴が可能となるほか、ハンドルから手を離すことも可能です。
ホンダ以外にも、多くの自動車メーカーが現在この「レベル3」の自動運転車の開発を進めており、今後数年内には新たなモデルが続々と登場すると見られています。
●レベル4…高度運転自動化
「レベル4」は、高速道路などの限定された場所であれば、運転のすべてをクルマに任せることができるものを意味しています。「レベル3」と異なり、ドライバーすら不要となります。つまり、特定の場所を移動するのであれば、冒頭で述べた「ハンドルを握ることなく、寝ている間に目的地に到着する」ことが可能になります。
レベル4の自動運転車では、クルマの形状そのものが変化することが予想されます。例えば、空港や大型商業施設内の決まったルートを走行するようなものであれば、そもそもドライバーが必要ないため、ステアリングや運転席のない、箱型のクルマが主流となるかもしれません。
現在、一般に市販されているクルマでレベル4の自動運転技術を搭載したものはありません。しかし、アメリカや中国、そして日本の自動車メーカーやベンチャー企業などがレベル4の自動運転車の実証実験などをはじめています。
例えば、東京オリンピック2020では、トヨタのe-Palette(イーパレット)が、レベル4相当の自動運転によって会場内を移動していました。実際には管理員が乗車するなどの安全対策を採っていたため、厳密にはレベル2なりますが、技術的にはレベル4相当と言えるものでした。
●レベル5…完全自動運転
そして最後が完全自動運転、つまり「ハンドルを握ることなく、寝ている間に目的地に到着する」クルマです。ここまで来ると、もはやクルマにステアリングやアクセルペダル、ブレーキペダルは必要なく、人間はただ乗るだけの存在となります。
まさに多くの人がイメージする「自動運転」ですが、当然のことながらそのハードルは高く、一般に普及するためにはまだまだ長い時間がかかることでしょう。例えば、一般道で完全自動運転を成立させるためには、四方八方からやってくるほかのクルマや、多くの信号、そして突然車道に飛び出してくるかもしれない人や物などにも対応できるようにならなければなりません。
また、いわゆる「トロッコ問題」のような、どちらにハンドルを切っても人をひいてしまうことを避けられない緊急時の判断を、どのようにして行なうべきなのかという哲学的な問題もクリアする必要があります。それと同時に、各種法律の見直しも求められます。
このように、完全自動運転の実現には、解決しなければならない多くの課題が存在しています。しかし、レベル1~2が中心の現在の自動運転技術は、確実にレベル5を実現するための基盤となっていることは間違いありません。
●「自動運転」という言葉に惑わされずに!
今回紹介したSAEの基準をもとにしたレベル分け以外にも、いくつかの企業や団体が独自の基準で自動運転を分類しています。加えて、「自動運転」という言葉がわかりやすい響きであることを利用して、本来のレベルよりも上位のレベルの自動運転であるようにアピールする例もあるようです。
実際には、それぞれのレベルには大きな差があり、「自動運転」というひとつの言葉で完全にまとめられるものではありません。自動運転について考える際には、どのレベルの話であるのかをあわせて考えることが重要です。
文:ピーコックブルー
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