「水素」 どんなメリットがある?
text:Kenichi Suzuki(鈴木ケンイチ)
【画像】24時間レースを走り切ったカローラ・スポーツ水素エンジン車【レースの様子を写真で振り返る】 全28枚
editor:Taro Ueno(上野太朗)
水素は無色透明の気体で、気体としては最も軽い。また、水などの形をとって世界中のどこにでも豊富にあるというのが特徴だ。
燃料電池で発電に使うだけでなく、燃焼させて熱エネルギーとして利用もできる。
そのときに排出されるのは水だけであり、CO2の出ないクリーンなエネルギーとなる。
ちなみに密閉した空間に水素をためて火をつけると爆発するが、水素は非常に軽いため開放された空間では爆発せずに発散してしまう。タンクから水素が漏れても、密閉空間でなければ、そうそう爆発するものではないのだ。また、水素はCO2と化合させて液体のeフューエルという燃料にする開発も進められている。
つまり、水素は非常に使い勝手のよいエネルギーなのだ。
そんな水素エネルギーは日本にとってもメリットが大きい。
それは「環境によい」、「エネルギーセキュリティによい」、「産業競争力によい」というもの。
環境という面では、CO2を排出しないので、2050年のカーボンニュートラル実現のカギの1つとなる。
また、水素は日本でも豊富に入手することができるので、エネルギーセキュリティという面でも優等生だ。
そして水素の活用には高い技術力が必要とされる。日本が水素技術を磨き実用化することは、そのまま技術的競争力の高さにつながる。
そのため、日本政府としても水素活用に対する期待が高く、政府のグリーン成長戦略の重点産業の1つに水素産業が位置付けられている。
燃料電池と水素エンジンの違いとは?
自動車への水素の利用は、燃料電池が主役だ。触媒を使って水素で発電する。
触媒がプラチナという貴金属なので、燃料電池は非常に高額になる。かつてはクルマ1台に使う燃料電池は1億円ともいわれていた。
今では数百万円のケタまでコストダウンしているが、それでも十分に高額だ。
トヨタのミライが7~800万円もするのは、燃料電池システムが高いからなのだ。いかに発電力を維持したまま、触媒となるプラチナの使用量を減らすかがコストダウンの肝となる。
また、先だってトヨタが24時間耐久レースを、水素エンジンの車両で走り切ったことが話題となった。これは燃料電池ではなく、水素をガソリンの代わりに燃焼させて走らせたものだ。
実は水素をガソリンの代わりに燃焼させる研究は昔からおこなわれていた。
とくにマツダは、ロータリー・エンジンで水素を燃焼させる技術を磨いている。
2009年には、水素ロータリー&ハイブリッドの「プレマシー・ハイドロジェンREハイブリッド」をリース販売しているほど。
ただし、水素エンジンは燃料電池よりも効率が悪い。そのため将来的に燃料電池のコストダウンが成功した暁には、燃料電池が勝ち残るといわれている。
米中も注力する水素 社会全体での活用がカギ
水素の利用は、クルマに限らず、広く社会全体にまで及ぶことが理想だ。
できれば、風力や太陽光などの再生可能エネルギーで水素を作り、それを運搬して、必要な場所で発電するという使い方がベストだ。
また、飛行機への燃料をはじめ、製鉄にコークス(石炭)の代わりに水素を使うことも期待されている。
CO2フリーの水素を発電や熱エネルギーとして利用することで、社会全体のカーボンニュートラルを実現させようというわけだ。
しかし、そうした水素社会の実現には3つの課題がある。
「技術的課題」、「インフラ整備」、「コスト低減」だ。
現状では大型の水素発電システムも、大規模な水素供給システムも開発中である。
水素を日本全国各地に行きわたらせるインフラも整っていない。
さらに、水素の供給、発電、輸送がコスト高では困る。まだまだハードルは数多く、そして高いというのが現実だ。
とはいえ、水素エネルギーに注目し、実用化に力を入れるのは日本だけではない。
アメリカも欧州も中国も日本と同様に水素に注力している。競争は始まったばかりだ。今後の日本の努力に期待したい。
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みんなのコメント
(真相不明ですが)初代のミライが出たとき、メルセデスの日本支社が価格をドイツに連絡したとき、「お前、価格の桁数を間違っているだろう」と聞き直したとかいう話があります。
水素だけで 電気や内燃機関エネルギーになるので 多様な要求に対応可能なところが
ベースエネルギーとしていける理由かと思います。