日本でアメリカ車が売れないというが、日本で売れないクルマを持ってくるアメリカのメーカーに売る気がないのでは?と思えてならない。右ハンドルを設定するとか、日本の路上にあったクルマをラインナップするとか、もっと営業努力をすべきだ。
トランプ政権発足後、日米間の外交交渉を論ずる一般メディアの論調に、こんな意見があちこちで見受けられた。
50年代、アメリカの絶頂期を象徴するアイコン「テールフィン」の世界
「いまさら右ハンドルで日本の道路事情に合ったサイズのアメリカ車など、誰が買うのだろうか。」
きっと優秀で一流大学を卒業しているのかもしれないが、この手の意見を目にするたびに私は落胆したものだ。こういう論調を展開する執筆者自身が、「そういうクルマが販売されればぜひ私も買ってみたい」という一文でも入っていれば、たとえそれがポーズであったとしても、ああなるほどなと思うが、残念ながらそういう文言は見つからない。というより、そもそもそんなことをいうはずがないのである。だってそんなアメリカ車には、魅力がないのだから。
そんなアメリカ車に一文の値打もないことはもはや公理と言ってもいいだろう。ただ、それぞれクルマを見ていけば魅力を感じる部分ももちろんあるが、こういうところでやり玉にあげるような、クルマのいいところに目を向けない人や気づけない人には、アメリカ車の良さは到底理解できるとは思えないのだ。
日本自動車輸入協会(JAIA)の試乗会
日本自動車輸入協会(JAIA)の試乗会に今年もお誘いいただき参加してきた。輸入車に乗るということは一番簡単にできる異文化交流である。私は常々そう思っている。大磯ロングビーチの駐車場にたくさんの輸入車が集まり、一気にその魅力を肌で感じることができるこの機会は、個人的にもとても尊い機会であり、異文化交流する上で楽しみにしているイベントの一つだ。
2月6日~8日の3日間開催された今年のJAIA試乗会。初日の最初にステアリングを握ったクルマが、キャディラック XT5 CROSSOVER プラチナムであった。新しいキャディラックのラインナップの中核を担うプレミアムSUVである。「左ハンドルのみのキャディラックのSUV」字面だけで前述のような論調を展開する記者諸兄には、毛嫌いされそうなクルマだが、それこそ、そういう人にこそ乗ってもらいたい。おおらかさすら感じるこの一台に、私自身も目が覚める心地を覚えたのだった。
自然吸気V型6気筒3600ccエンジンをフロントに搭載
これだけでさっそく圧倒的に個性的だ。ダウンサイジングターボエンジン全盛の今、ハイテクの辻褄合わせでも、燃焼室の絶対的な大きさの魅力を完全に凌駕することはなかなか難しいのだと実感させられる。
8速ATとの相性も良く、2トンをわずかに切る、決して軽くもないボディを軽やかに、いつでも加速させられるのだ。何秒で何キロ/hに達するかという絶対的な数値的問題もさることながら、澱みなく自然な「加速感」フィーリングが格別。高級であるという自動車の挙動とはこういうことなのではないだろうか。
ボディも絶対的に小さいとはいいがたい。幅は1.9メートルを超え、全長も4.8メートルを超える。しかし、その実寸の方を疑いたくなるほどクルマをコンパクトにさせるのは、完全なFFにもFRにもなる優秀なAWDシステムと高い剛性を誇るボディが生み出すステアリングフィールの賜物かもしれない。ブレーキをかけてフロントに荷重を集めてステアリングを切ると、機敏に鼻先の方向を変えることが可能だ。ずっとコンパクトなクルマを運転しているような心地になるのだ。前輪が路面を捉えグリップし、吸い付くように舵を切るその様は、もっとずっと小柄なクルマを操っているかのようだ。
四隅が比較的掴みやすいボディと目線の高さも好印象
速度が乗ってくると遅滞なくシフトアップしていくので、西湘バイパスの制限速度程度では1500回転を明らかに下回る回転数まで落ちる。実は低回転でクルージングできる器の大きさこそ、おおらかなキャラクターの源泉に違いない。
ボンネットを開けるとわりと低い、そして前輪の前端あたりにエンジンが搭載されていることがわかる。エンジンの搭載位置の深さはクルマ作りの深さにも通じる。最近そんな風に感じることも多いが、このクルマも同様である。
まさに「官能遺産」な大排気量自然吸気エンジンの軽やかさ!
21世紀の今、大き目な自然吸気内燃機関で贅沢に低回転でクルージングするときのあの豊かな気持ち。「官能遺産」と表現してもよいのではないだろうか。このクルマはかなり明確な個性が宿っていて、それによってキャラクタライズされていることがわかる。
実態としては決して小さくもないし軽くもない、たしかに左ハンドルだと、バス停で路線バスを追い越すときなど若干不便に感じこともあるだろう。しかしそれを考慮に入れても余りある魅力もこのクルマには感じる。
こういうクルマの魅力を一人でも多くの人に体感してもらうことが、アメリカ車の拡販には不可欠なのではないだろうか。「昔からのキャディラックユーザーとまったく新しいユーザーは半々ですね。魅力を実感していただけた方が買っていただくケースがこのXT5では多いようです。」とゼネラルモーターズ・ジャパンでは話す。
寒空の湘南海岸をこのクルマで流すと、とても豊かな気持ちになる印象があった。おいしいクラムチャウダーでも探しに行きたいな。心地よいドライブの先にも楽しみを見いだせる人のクルマだと感じた。
とかく、自分を知的にスマートに見せようとはしていないだろうか。他人にどう見られるかよりも、常に重んじるのは「真心」。キャディラック XT5 CROSSOVER プラチナムはそんなクルマではないだろうか。
[ライター・画像/中込健太郎]
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