黒づくめのハンドリング・マシーン
オールズモビルはGMが擁していたブランドのひとつだが、すでに消滅して久しい。その名前から「老人のためのクルマ」などという悪口もあり、晩年はそう表現されても仕方ないほどの保守的なイメージで固まってしまっていた。しかし元々オールズモビルは、GMの中でも新技術がいちはやく投入され、その熟成を担うような役割も果たしたもので、そうした性格から「走る実験室」などとも呼ばれるほどだったのである。
すこぶる貴重な60年以上前のプラモデルを贅沢にフィニッシュ!AMT製「1961年型ポンティアック・ボンネビル」【モデルカーズ】
【画像27枚】エアロで固めたイカツい姿が魅力のFE3-X、そのディテールを見る!
その先進性がひときわ目立って見えたのは、1960年代のことであろうか。市販車として初めてターボエンジンを商品化したり(1962年型F-85ジェットファイア)、フルサイズのFFクーペを投入したりと(1966年型トロネード)、実験室に相応しい動きを見せていた。そうしたイメージも1980年代にはすでに過去のものになりつつあったが、実は、この時代にもまさに「実験室」的モデルが存在した。それが、1985年のFE3-Xである。
FE3-X――アメリカ車に詳しい人でもあまり聞き慣れない名前かもしれないが、それはこのモデルが市販車ではないからだ。ざっくり言えば、1985年型オールズモビル・カトラス・シュプリームをベースとしたショーカー、それがFE3-Xである。ショーカーとは言えあくまで市販化の可能性を探るテストカー、プロトタイプ的なモデル――まさに実験室――であり、その成果として、後の市販車のラインナップにFE3という名のスポーティなサスペンション・パッケージが加わったのであった。また、2年後のビュイックGNXに与えた影響も無視できないだろう。
ベースとなったカトラスは、オールズモビルの中でもインターミディエイトに属するモデルで、1978-1988年型の世代は、シボレー・マリブやビュイック・リーガル/センチュリーなどの兄弟車(Aボディ、後にGボディと改称)である。1978年型でのフルチェンジで大幅にサイズダウンしたカトラスは、ホイールベース108.1インチ(2746mm)となり、車重も300kg軽量化されていた。当初の2/4ドア・セダンはファストバックスタイルを採用するなど、時代の変化を如実に感じさせた。
しかしそのファストバックの中身も、従来と変わらずフレームシャシーを持ったFR駆動という古典的なものであった。結局このファストバックスタイルは1980年型から、常識的なノッチバックスタイルに改められたのだが、2ドア・クーペはこうした混乱からは無縁で、モデルライフを通じて大きなプロポーション変更はない。当初はネオクラシック風のプレス(リアフェンダーのエッジ)が特徴だったが、1981年型からはプレーンなボディサイドに改められている。
FE3-Xは1985年に発表され、アメリカ各地での自動車ショーで公開されたもので、コルベットを上回る操作性がコンセプトだという。興味深いことに、同名・同コンセプトのモデルが2種類同時に発表されている。ひとまわり小さいNボディのカレー、およびサブコンパクトのフィレンザ(いわゆるJカー)をベースとしたFE3-Xがそれだ。カレー版ではダークグレー、フィレンザ版ではダークレッドとなるボディカラーだが、カトラス版ではブラックとなり、その迫力ある姿から“ダース・ベイダー”と通称された。
直接のベースはスポーティ・モデルのカトラス・シュプリーム442だが、ひと目で分かる通りエアロパーツでフル武装。オーバーフェンダーにはブレーキ冷却のためのインテークとダクト(アメリカ車にありがちなダミーではなく実際に機能するもの)が設けられている。フロントマスクはグリル/ライトをスモークのカバーで覆っていた。サスペンションもハードなセッティングで固められ、タイヤは16インチのものを装着。307-cid(5L)のV8エンジン(200hp)には吸排気系のチューニングも施されていたが、このモデルの開発テーマはあくまでハンドリングの向上であったようだ。
本来の実車とは違う部分もあるが、キット内容はすこぶる良好
このFE3-Xを1/25スケール・プラモデル化したのはレベルで、2017年にリリースされた(キットNo.4446)。これは以前にリリースされた1983年型ハースト・オールズ(No.4317)のバリエーションキットで、1985年型の442あるいはFE3-Xが作れるようになっている。そのためホイールが2種類付き、FE3-X用のバンパー、ボンネット、サイドスカートなども付属する。ここでお目にかけているのは、このキットをFE3-X仕様として制作した作例である。
写真を見ればお分かりと思うが、このキットには前述のフロントマスクのカバーが付かない。また、インテリアなど細部に、当時公開されたFE3-Xとは異なる部分が多々ある。これは、キット化時点で個人車両となっている現存車(2台試作されたうちの1台とされる)を再現したためのようだ。また、これを再現したほうが新規パーツが少なくて済むという事情もあったであろう。この実車が当時からすでに細部が異なっていたのか、維持される途中でオリジナルと違った状態となったのか、あるいは……というところは定かではない。公開当時と変わらないオリジナルな状態の、本来のFE3-Xは、REオールズ・トランスポーテーション・ミュージアムに収蔵されている。
さて、白色のプラスチックで成型されたパーツはすこし柔らかめなせいか、若干歪みが生じているものがある。使用した個体ではボディとボンネットに歪みがあったので、修正を行った。ボディ形状自体には問題なく、特に手を加える必要はないだろう。パーティングラインは僅かなので、紙ヤスリで軽く磨くだけでよい。ただし、左Aピラーのところはバリが出ているので要注意だ。
フロントバンパー、リアバンパー、サイドスカートなどは塗装前に接着。ただしFE3-X用バンパーはわずかに幅が広いようで、ボディとの合わせ目に段差が生じる。ここはエッジに注意して慎重にヤスリがけする。サイドスカートとオーバーフェンダーは問題なくフィットする。スカートの接着時、ドアラインがズレないように注意しよう。ボンネットはチリがピッタリしすぎているので若干削っておく。ウィンドウは合いがすこし良くなく、特にリアウィンドウの上辺部分は仮組み調整が必要だ。作例ではプラ棒を接着してウィンドウの受けを設けた。
インテリアはディテール表現も申し分なく良い出来だが、前述の通り、当時公開された車両とは色々違いがある。組み上がったインテリアをボディにセットするときキツいので、塗装前に仮組みして入れ方を工夫しておくことをお勧めする。シャシー、足周りは特に手を加える必要はなく、車高、トレッドともにそのままで良いようだ。シャシーもボディとの合いがキツいので、こちらも工夫が必要。エンジンはキットのままで十分な仕上がりだが、ファンベルトとフロントアクスルのバーが干渉するので、これも要調整だ。
FE3-Xのボディは全面ブラックで、イエローのピンストライプが入っている。このピンストのデカールが若干太いようなので、作例では塗装で仕上げた。ピンストはクレオスのGX4キアライエロー、ボディカラーはGX2ウイノーブラックを使用している。フロントバンパーの下側はツヤがないようなので(ゴムのように見えるがハッキリしない)つや消し黒とした。サイドスカートの下側も同様のようだ。
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