ご存知のように、日本は世界一の高齢化国で、現時点での65歳以上の人口割合は28%に及んでいる。この状況は2050年になると約40%になると予想され、すでに年金問題も含め日本に立ちはだかる大きな課題となっている。つまり、約30年後には6人の現役側が4人の高齢者を支えるというイメージだ。そんな状況のなか、自動車メーカーの開発者として、日々奮闘する人がいる。トヨタ自動車で15年間ウェルキャブ(福祉車両)事業をとりまとめる、中川茂氏だ。
そんな中川氏がいま取り組んでいるのが、「福祉車両ではない福祉車両」。それは、新型ヤリスをベースにした「運転席回転シート車」(プロトタイプ)で、運転席が回転することで、乗り降りを手助けしてくれるというもの。我々も福祉車両の取材を続けてきて、常々疑問に思うことがあった。それは、助手席回転シート仕様が「福祉車両」であり続けていること。いちど試すとわかるのだが、この回転シートは非常に便利で、障がいをもった方だけでなく、単純にクルマの乗り降りがおっくうに感じるようになったひとにも、とても助かる装備なのだ。
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新型ヤリスは来年2月の発売予定。今回の運転席回転シートはウェルキャブ(福祉車両)ではなく、通常のカタログオプションとなるという。
「できるかぎりドライバーの自立を支える、これがこのシートのコンセプトです。歳をとると筋力が落ちるので、普通のシートだと片足に全体重をかけて降りなければなりません。そして、この右足が着地できる位置は運転席から遠く、上半身も45度ほど傾ける必要があります。とくに腰の痛い方はこれが辛い。運転席回転シート車の場合、まず両足で立ち上がれるので、足の筋力は半分ほどですみますし、足が着地したところと身体の位置関係が近く、上半身も20度くらい傾ければ大丈夫。乗り降りの負担が半減します(中川氏)」。
このシート、我々も試させてもらったが、とても楽に乗り降りができることに、ちょっとした感動を覚えた。また、興味深い話だったのが、筑波大学の市川教授が発表した(日本疫学会誌)データ。高齢者の運転と要介護になるリスクを比較したデータで、運転を継続した高齢者が要介護になる数値を「1」とすると、運転をやめた高齢者が要介護になる数値が「2.2」となるという。自動車で外出することが、健康寿命を延ばすということを証明しているというのだ。いうまでもなく、健康寿命が延びることは介護期間を減らすことにもつながってくる。
「約4割が高齢者の時代になって、それぞれの高齢者がみんな介護を受けるとすると、現役側(支える側)の負担はものすごく大きなものになる。そのときにあまり介護を受けずにいたほうが、ご本人も幸せだし、その親御さんを介護する子供たちも助かるし、国も助かる。自動車がそういうところでお役に立てる可能性を、これからも模索していきたいですね(中川氏)」。
回転シートを装着することを前提に、ドア下部の角を落とす設計がなされ、ドアが半開でも足が当たらず乗り降りできるよう考慮されている。
「4リンク」という新たな機構を使用することで、シート高は標準モデルと同等となっている。
車いすを寝かして搭載する電動収納装置も新たに登場。こちらはウェルキャブとなる。
話を伺ったのは
トヨタ自動車株式会社
CV Company、CV 製品企画、ZU 主査、トータルソリューション事業室 GM、ZP 主査
中川 茂氏
トヨタ自動車のウェルキャブ事業を15年牽引するスペシャリスト。福祉の現場はもちろん、ときには福祉車両ユーザーのお宅へも足繁くかよい、そこでの要望をひとつひとつ積み上げながら日々製品開発を行っている。
運転席回転シートが、超高齢化社会の“当たり前”になる!?はBelieve - ビリーヴ ジャパンで公開された投稿です。
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