■2019年5月に改良された新型NSX
数々の伝説を残した初代が現役を退いてから11年あまり、2016年8月に登場した2代目NSXは、初代とはガラリと雰囲気が変わり、その日本車離れした価格も大いに話題となったのも記憶に新しい。
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筆者は報道試乗会にも参加したほか、当時とあるレースイベントの会場で、来場者が抽選でスーパーカーに同乗できるという企画にも携わっていて、新型NSXの運転と解説を担当することもたびたびあったりして、比較的NSXをドライブする機会は頻繁にあった。
ホンダから拝借した車両には、なんとアロンソとバトンの直筆サインが書かれていたこともあった。ところが、2019年5月発売の改良モデルには、なぜか縁がなくなかなか乗れずにいたのだが、今回ようやくその機会が訪れた。
ただでさえ目を引く2代目NSXであるうえ、改良モデルに新たに設定されたサーマルオレンジ・パールのボディカラーはかなり目立つので、街を走っていても目で追われていることをヒシヒシと感じる。
スーパースポーツとしてはスタイリングが凡庸だという声も聞かれたとはいえ、やはりNSXのようなクルマが走っていれば、気にならないわけがない。
エンジンがV型6気筒ではしょぼいという声もあるが、システム最高出力581ps、システム最大トルク646Nmを誇るパワートレインが生み出す力強い加速フィールや、野太いエキゾーストサウンドはとても刺激的だ。そして2代目NSXならではの特徴として、ホンダ独自の電動化技術である「SPORT HYBRID SH-AWD(スポーツハイブリッドSH-AWD)」が挙げられるのはご存じのとおりだ。
具体的には、エンジンとトランスミッションの間に配されたリアモーターがターボラグを補い、フロントのツインモーターが左右輪の駆動力を独立して最適に制御するとともに、左右輪に抵抗差につけて減速時のトルクベクタリングをおこなうという仕組み。これにより3基のモーターを用いて、エンジンだけでは難しい、高いレベルのレスポンスとハンドリング性能を実現したとしている。
モーターというのは瞬時に大きなトルクを出せるのが強みだが、だからこそステアリングの感触やクルマの挙動に大きく影響を与える。それが良い面だけでなく悪い面もある。
それら一連のパワートレインの協調制御をいかに違和感なく仕上げるかが、2代目NSXの開発における重要な課題だったわけだが、発売当初の個体も狙いはよくわかるし、他のスーパースポーツにはない走りの境地を開拓したことは重々承知していたものの、少なからず違和感を覚えるシーンがあったのは否めず。ハンドリングは極めて俊敏ながら、操舵に対する応答の「遅れ」と制御の「迷い」を感じたものだ。
■本来2代目NSXが目指していた理想の走りに近づいた
ところが今回、NSXの最新モデルをドライブすると、それらがかなり自然になっていた。まさしくオンザレール感覚の一体感ある走りだ。
スポーツハイブリッドSH-AWDのメリットのみが前面に出て感じられるようになり、思い描いたラインを意のままにトレースできて、「遅れ」も「迷い」も気にならないほどに解消していた。うん、人生もこうありたいものだ……(笑)
さらには足さばきもかなり変わっていた。
件のイベントの際には、行き帰りの移動もドライブしていたのだが、乗り心地はそれほど悪くないのに路面に対する感度が高いことが気になっていた。ちょっとしたギャップで接地性が損なわれ、微妙に横っ飛びするような状況が多々あった。それがタイトなコーナーだとちょっと怖い。
ところが今回、路面の荒れたワインディングを、しかも大雨の中でドライブしたのだが、あまり不安を感じることはなかった。
むしろ不安があったのは、アゴを擦りそうなこと。流れに乗って走っているときはまだしも、段差を越えなければならない駐車場の出入りなど、日常的なちょっとしたシーンで、やっぱりフロントリフトシステムがあるとありがたいなと思わずにいられなかった。
全体としては着実に進化して、NSXの本来目指していた走りにかなり近づいたのではないかと思う。
価格帯が近くキャラクターがかぶるクルマに対しては、ランボルギーニやマクラーレンの入門モデルに2000万円台のモデルもあるわけだが、絶対的な動力性能ではそれほど引けを取らないとはいえ、かたや600ps超の5.2リッターV10自然吸気を積むランボルギーニ「ウラカン」や、モデル名が出力を表す3.8リッターV8ツインターボを積むマクラーレン「570」シリーズに対し、NSXの3.5リッターV6ツインターボは少なからず見劣りする。
そこをどう思うかどうかが分かれ道であることには違いない。
一方、もちろんデザインも大事だが、インパクトの大きさでは、どうこういってNSXも負けてないように思う。
スポーツハイブリッドSH-AWDに象徴される、世界に類を見ないスーパースポーツとしての存在感もあり、独創的で先進的である点では圧倒的にNSXに軍配を上げられる。また、あまりこうしたクルマでは関係ないかもしれないが、WLTCモードで10.2km/Lと低燃費であることも、念のためお伝えしておこう。
最近では電動化を取り入れたスーパースポーツも増えているが、もっと高額なモデルも含め、電動化技術をここまで積極的にハンドリングに用いているクルマというのはちょっと心当たりがない。その新感覚の走りに興味のあるセレブには、ぜひNSXにもっと目を向けてもらえるとよいなと思う。
HONDA NSX
・車両価格:2420万円
・試乗車オプション込み価格:2763万1000円
・全長:4490mm
・全幅:1940mm
・全高:1215mm
・ホイールベース:2630mm
・車両重量:1800kg
・エンジン形式:V型6気筒DOHC+3モーター
・排気量:3492cc
・駆動方式:4WD
・変速機:9速AT
・エンジン最高出力:507ps/6500-7500rpm
・最大トルク:550Nm/2000-6000rpm
・前モーター最高出力:37ps/4000rpm(1基あたり)
・前モーター最大トルク:73Nm/0-2000rpm(1基あたり)
・後モーター最高出力:48ps/3000rpm
・後モーター最大トルク:148Nm/500-2000rpm(1基あたり)
・ブレーキ前/後:Vディスク/Vディスク
・タイヤ前後:前245/35ZR19 後305/30ZR20
・WLTC燃費:10.6km/L
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モーターもバッテリーもいらないから初代のように軽くしろ