全高20mmアップ。それ以外は先代のサイズを踏襲
パッと見、旧型よりも立派になったように見える新型シエンタだが、全高+20mm以外、全長、全幅、ホイールベースは旧型とまったく同一なのだ。「車体サイズ(全長/全幅)は変えませんでした。でも、室内は広くしました」そんな開発者の言葉が、今回のフルモデルチェンジのポイントを明確に表しているように思う。
新型シエンタ、ボディサイズや室内の広さは旧型シエンタと比べてどう変わった?【新旧比較:パッケージング】
奇抜さも狙った旧型に比べ、新型シエンタはより親しみやすさが増したスタイリングに見える。「シエンタ」はトヨタのなかでもっとも小さなミニバンだ。今回のフルモデルチェンジでは全高こそ20mm増した1695mmとなったものの、4260mmの全長と1695mmの全幅、さらにいえば2750mmのホイールベースも従来モデルから変化していない。
そう聞くと「シャシーや骨格が変わっていない、ビッグマイナーチェンジレベルのフルモデルチェンジなのか?」と思う人もいるかもしれないが、そうではない。“プラットフォーム”としては最新の「ヤリス」や「アクア」と同様に、「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」という設計思想に基づいた「GA-B」という新設計のタイプが用いられている。だから決して先代のスキンチェンジではない。
エンジンは直列3気筒1.5Lで、これにモーターを追加したハイブリッドとの2本立てのラインナップだ。4WDは、ハイブリッド車にリヤモーターを追加したE-Fourを用意する。(ガソリン車には4WDの設定はなし)ただし厳密にいうと、GA-Bプラットフォームによる新設計となっているのはシャシーのうち前からバルクヘッド(エンジンルームとキャビンを隔てる隔壁)までで、そこから後方は従来型の改良版となっている。シャシーは新旧ハイブリッド構造なのだ。
全長と全幅を変えなかった理由はどこにあるか。それは取り回しの良さを最重視しているからに他ならない。シエンタはトヨタ最小ミニバンとして、日常で扱いやすいことが求められる。自宅の駐車場が狭い人が買うことだってあるだろう。開発陣はそれをよく理解しているから、サイズアップを拒否したのだ。
また、新型はボンネット先端を上げるとともにダッシュボード上面を低くしている。それはボンネットが見えやすくすることで、車両感覚がつかみやすく、結果として運転のしやすさに繋げているというわけだ。
オリジナリティの追求だけでなく、実際の使いやすさにも留意されたインストルメントパネル。いっぽうで天井を高くしたのは、室内空間と広々感を拡大するため。純粋なヘッドクリアランスの拡大は25mmアップに留まるが、サイドウインドウを立たせて垂直に近づけたこと、ルーフの左右方向を水平に近づけたこと、そして天井左右の構造を工夫して張り出しを押さえることで、たとえば2列目斜め上方のヘッドクリアランスは60mmも増えている。
「車体サイズを変えずに室内を広くする」新型の開発はそんな相反する条件に挑んだのである。
3列目よりも利用頻度の高い2列目の快適性に着目
乗降性も進化した。スライドドアの天地高は、ステップ高を従来モデルと同じトヨタ車で最も低い330mmでキープしつつ、天井側を高くしたことで従来比60mmプラスの1200mmへと拡大。60mmの差は少なくない。
しかし、パッケージングのハイライトは、後席(2列目)の足元を広げたことだろう。1列目と2列目の間隔は従来比80mmも増した1mとなった。ユーザーにとっては居心地の向上に直結するのでうれしい話だが、よくよく考えてみると全長もホイールベースも変わっていないのに2列目の足元が広がるなんて、なんとも不思議である。
3列目席2列目席1列目席2列目席はスライド量拡大もあって、より広い前後スペースが取れるようになったことに加え、側頭部のスペースも広がっている。3列目は、ヒール段差(シートクッションと床との距離)がより大きく取られており、楽な姿勢で着座できるようになった。秘密は、2列目シートのスライド量にある。従来型と比較するとスライド調整量が増し、さらに80mm後方へシートを動かすことが出来るようになったのだ。つまり「2列目シート位置の調整しろが後方へ広がったことで、足元を広げられるようになった」というわけである。
もちろん1列目と3列目の間隔は変わっていないので、3列目に人が座る際はそのひとのひざ回りスペース確保のために2列目を前に出す必要がある(それは従来型も同様でスライド量拡大の弊害はない)。「常に3列目を使うシエンタユーザーはほぼいない。いっぽう2列目の快適性を高めることで喜ぶユーザーは多いだろう」という開発陣の考え方は正解だろう。
2列目がコンパクトカーとして望外の広さを実感できるいっぽうで、正直なところ3列目はそれほど広くない。しかし着座位置を高めに設定(ライバルの「ホンダ・フリード」より床に対するヒップポイントは約40mm高い)することで、着座威勢がよく、狭いながらも居心地が悪くないのは報告しておこう。「ウイッシュ」などかつて存在した背の低いミニバンの3列目に比べれば無理なく座れる。
2列目、3列目格納時3列目格納時3列使用時3列目シートを2列目シートの床下に格納するというシエンタ独自の格納方法により、格納時は3列目が隠れてしまい邪魔にならない(ライバルのフリードは左右跳ね上げ式のため、格納時にもスペースをとり、かつ後方視界の点でもややネガとなる)。ちなみにシエンタには3列モデルのほか2列モデルも設定がある。両者では2列目シートの構造が異なり、3列車は左右50:50分割式のタンブル格納となっている。50:50分割としているのは、3列目の人が2列目シートステーに邪魔されることなく座面下に足を入れられるようにとの配慮だ。
いっぽうで2列車が60:40分割としているのは状況に応じてアレンジできるようにするため。格納時に座面も沈み込むダイブダウン式としているのは、倒した状態の床面をフラットにすることを重視しているから。それなら3列車の2列目もダイブダウン式にすればいいと思うかもしれないが、2列目下に格納した3列目を収めるレイアウト上、それはできないのだ。
2列目のシート下に3列目シートを格納したところ。写真のように、一度2列目シートを前方に畳んでからでないと、3列目を畳めないという点では操作にはやや面倒が生じるが、格納/展開が頻繁でない人ならば、メリットの方が大きいだろう。ボディの縦揺れが少なくフラットで優しい乗り心地
パワートレインは、従来通りにガソリン車とハイブリッドが選択可能。エンジンは1.5Lの3気筒自然吸気で、ハイブリッドはそこにモーターが加わることになる。
駆動方式はFFと4WDが選べるが、4WDは従来モデルだとガソリン車のみで選べたメカ式(ハイブリッドに4WDの設定なし)だったのに対し、新型はハイブリッド車のみで選べるモーター式に変更されている。リヤモーターは低い速度域のみで稼働する、つまり発進のアシストを前提とするタイプだ。最近のモーター4WDのトレンドは滑りやすい路面だけでなく舗装路での走りも高めることだが、シエンタに関しては雪道向けの4WDといえる。
ハイブリッド車の電子式シフトセレクター。スマホを置くのにとても重宝しそうな小物置き場が組み込まれる。写真は、コネクテッドナビ対応のディスプレイオーディオPlus。10.5インチHDディスプレイがスッキリとインストールされる。実際にガソリンとハイブリッドを乗り比べると、魅力を感じるのはハイブリッド。それも圧倒的にだ。なぜなら加速時のエンジン音が静かで快適だし、そのうえモーターアシストが入ることでガソリン車よりもアクセル操作に対する反応がよく、加速も力強いからである。走行距離があまり増えないユーザーにとってはコスト面でガソリン車が有利だが、ドライバビリティと快適性を求めてハイブリッドも選ぶのも賢い選択と思う。
乗り味はひとことでいうと「優しい」。乗り心地が良好で、快適性はかなりのレベルだ。いっぽうで旋回時のロールは少なくないが、ロール速度が抑えられている上に一定だから不安感はない。
ドライバーのハンドル操作に対して動きは忠実だし、何よりいいのは車体の縦揺れが少なくフラット感が高いからドライバーも乗員も視線がブレないこと。ドライバーにとっては運転のしやすさや疲れにくさ、乗員にとっては快適性と車酔いのしにくさにメリットがある。そんな味付けは最近のトヨタ車は本当に上手だ。シエンタに試乗して、あらためてそんなことを感じた。
フラットライドで優しい乗り心地。ロールはそれなりにある。TOYOTA SIENTA HYBRID Z(7人乗り)全長×全幅×全高 4260mm×1695mm×1695mmホイールベース 2750mm最小回転半径 5.0m車両重量 1370kg駆動方式 前輪駆動サスペンション F:マクファーソンストラット R:トーションビームタイヤ 185/65R15エンジン種類 直列3気筒エンジン型式 M15A-FXE総排気量 1490cc最高出力 67kW(91ps)/5500rpm最大トルク 120Nm(12.2kgm)/3800-4800rpmモーター種類 交流同期電動機モーター型式 1NM最高出力 59kW(80ps)最大トルク 141Nm(14.4kgm)燃費消費率(WLTC) 28.2km/l価格 2,910,000円
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みんなのコメント
ボディーカラーは道具感を演出するためにアース系の渋いカラーにやや偏っていますが
シエンタこそビビットな単色やポップな2色塗装が有ってもいいと思う。