国産セダンが窮地に立たされている。昨年には「次期クラウンはSUVになる」という報道があり、今年に入って今度は「次期スカイラインは開発中止」という衝撃的な報道があった(すかさず日産首脳が「スカイラインを諦めません」という発言も)。こんなニュースが飛び交うのは、一にも二にも、セダンが売れていないからだ。
国産セダンはどうなってしまうのか。もう以前のようにクルマ好きから支持されることはないのか。そもそもセダンの利点ってもうないのか。そんな幅広い視点から、国産セダンの危機を分析してみたい。
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文/渡辺陽一郎 写真/ベストカー編集部
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■次期スカイライン開発中止報道の真実
日産の星野朝子執行役副社長。ノートオーラ発表会の壇上で、「スカイラインの開発を中止する意思決定をした事実はない」とコメント
2021年6月12日、経済紙が「次期スカイラインの開発中止が明らかになった」と報じた。別の記事では「日産がスカイラインを含めたセダンの次期型開発を中止し、SUVや電気自動車に開発資源を集中する」という報道もあった、
この件について日産自動車の星野朝子執行役副社長は、6月15日のノートオーラ発表会で「スカイラインの開発を中止する意思決定をした事実はない。日産はスカイラインを諦めない」とコメントした。
星野朝子執行役副社長は、経済紙の記事を否定したと受け取れるが、そのいっぽうで「スカイラインの次期型を開発している」と述べたわけでもない。メーカーは将来の商品化について明言を避けるものだが、スカイラインが現行型で最後になる可能性も残る。
現行スカイラインの発売は2013年だから、すでに7年以上が経過した。先代型は約8年間にわたり生産されたから、スカイラインが今後フルモデルチェンジを行う可能性もあるが、次期型の話は何も聞こえてこない。
また、日産のセダンは、ほかの車種も設計が古い。フーガの発売は2009年、フーガハイブリッドのロング版となるシーマは2012年だ。ミドルサイズセダンのシルフィは2012年に登場して、海外では2019年に新型が投入されている。販売店は「シルフィの生産は昨年(2020年)で終了した。今は在庫車を売るが、台数は減っており、次期型の話は聞いていない」という。
■日産にはスカイライン存続のシナリオを明確に示してほしい
現行型スカイライン。2019年7月に実施されたマイナーチェンジで日産エンブレムが復活。フロントはVモーショングリル、リアは丸目4灯ランプに変更された
フルモデルチェンジの周期は、ハイエースのような商用車やランドクルーザーなどの悪路向けSUVを除くと、長くても10年だ。10年以上を経過するとユーザーが離れてしまい、需要の継続も困難になる。
従って、たとえば最終型のヴィッツは2010年に発売され、2020年に現行ヤリスへフルモデルチェンジされた。これが限界ギリギリのタイミングだ。最終型のエスティマは、2006年に発売され、2016年にフルモデルチェンジではなくマイナーチェンジを受けた。その結果、2020年には販売を終えている。
このように、発売されて10年を経過するか否かは、その車種の存続を予想する上で大切な分岐点になる。
ちなみに現行マツダ6は、2012年に3代目アテンザとして発売された。今年で9年を経過するが、マツダはすでに、次期マツダ6がエンジンを縦置きにした後輪駆動車になって登場することを実質的に公表している。
日産はこのような今後の経営計画のうえでも、スカイライン(インフィニティQ50を含む)について何も述べていない。2020年度決算発表記者会見で、今後登場する新型車を披露した時も同様だ。「スカイラインを諦めない」のは素晴らしいことで、クルマ好きの願いでもあるが、裏付けも欲しい。存続させるなら何らかの方向性を示すべきだろう。
■セダンの販売比率はわずか8%!
スカイライン400Rに搭載される3L V6ツインターボエンジンは最高出力400ps/48.4kgmを発生する
この点について、日産販売店では以下のように述べている。
「スカイライン、フーガ、シーマの今後に関して、日産からは何も聞いていない。注文は従来通り入れられるが、売れ行きは下がった。今では積極的には売らず、購入希望のお客様だけに販売している。そのために従来型から乗り替えるお客様が中心だ。それでもスカイラインには、20年以上にわたって乗り続けるお客様もおられる。新型の登場を待っているので、今後もフルモデルチェンジを行って存続させて欲しい」。
2021年における日産セダンの売れ行きは、最も多いスカイラインが1か月当たり約400台、フーガは大幅に減って60台前後、シーマは10台程度だ。シルフィは前述の通り生産を終えた。ノートは1か月に8000台前後を登録するから、これに比べるとスカイラインの売れ行きは5%程度になる。
セダンの販売低迷は、日産に限った話ではなく、国内市場全般の傾向だ。1990年頃まで、セダンは国内の中心的なカテゴリーだったが、1990年代の中盤にミニバンが登場すると状況が変わった。クルマの価値観が実用指向になり、1998年に軽自動車規格が刷新されて売れ行きを伸ばすと、セダンの低迷は一層顕著になった。
今の乗用車の販売構成比は、軽自動車が38%で最も多く、コンパクトカーも26%を占める。国内で売られる乗用車の60%以上が小さなクルマになり、セダン比率は8%まで減った。セダンで最も多く売られる車種はクラウンだが、2021年の1か月平均は約2100台に留まる。セダンの2位はカローラセダンで、1か月平均は約1300台だ(カローラツーリングなどを除く)。それ以外のセダンは、1か月に1000台以下だから、大半のセダンが不人気車になった。
この状況では、セダンの需要予測も悲観的になってしまう。2020年には「次期クラウンはSUVになる」というニュースまで飛び出した。「セダンに未来はないが、1955年に誕生した伝統のクラウンは残したい」となれば、クラウンをSUVにする悲痛な計画も現実味を帯びる。スカイラインをSUVにすることも考えられる。
■セダンのアドバンテージは優れた走行安定性にあり
ノーマルのGT系グレード。パワートレインは3L V6ツインターボエンジンと3.5L V6エンジン+モーターのハイブリッド
視点を変えれば、かつてはクラウンにも、セダンと併せてステーションワゴンや2ドアハードトップが用意された。スカイラインには、スカイラインクロスオーバー(海外ではインフィニティEX/QX)もあった。この経緯を考えると、セダンにこだわる必要はないようにも思えるが、SUVに変更すればまったく価値の異なるクルマになる。なぜならセダンボディには、SUVやミニバンでは得られないメリットがあるからだ。
それは重心の低さだ。
SUVやミニバンの全高は1550~1900mmに達するが、セダンは1400~1500mmと低い。そうなれば重心も下がる。しかもセダンは、居住空間の後部に独立したトランクスペースを備える。居住空間とトランクスペースの間には骨格や隔壁があり、ボディ剛性を高めやすい。タイヤが路上を転がる時に発生する騒音も、セダンでは居住空間に伝わりにくい。
これらの特徴は、走行安定性と乗り心地を向上させる。そのためにセダンには、WRX・STIのような高性能スポーツモデルとか、センチュリーに代表される快適性を徹底追求したVIP向けの高級車が用意される。
セダンの売れ行きは下がったが、これらの価値まで失われたわけではない。メーカーが実用重視の軽自動車/コンパクトカー/ミニバンに力を入れた結果、セダンの商品開発を下げて、売れ行きも低迷させた。ユーザーがセダンを買わなくなったのではなく、メーカーが選ぶ価値のあるセダンを提供しなくなり、不人気のカテゴリーになったのだ。
セダンの価値が廃れていないことは、メルセデスベンツ、BMW、アウディといった欧州車を見れば良く分かる。今でもセダンが多く用意されて、日本での販売も堅調だ。欧州はほかの地域に比べて高速走行の機会が多く、安全運転には優れた走行安定性が不可欠になる。
またドライバーが疲労すれば、事故の危険が高まるため、疲れさせない快適な乗り心地も大切だ。欧州におけるクルマの使われ方は、セダンと親和性が高いため、今でもラインナップが根強く残っている。そして内外装の質を高め、液晶メーターなど各種の先進装備も採用して、欧州セダンは高い人気を保っている。
■セダンの需要は決してゼロになったわけではない
BMW3シリーズは2020年1月~12月の輸入車販売台数で5位にランクイン。ベンツCクラスと並ぶ輸入車の人気モデルとなっている
以上のようにセダンは、SUVやミニバンでは得られない価値を備えるため、消滅させるのは惜しい。改めてセダンの価値を訴求すべきだが、「操る楽しさ」や「フォーマルなデザイン」をアピールしても市場には響かない。どちらも古い価値観になるからだ。
セダンを訴求する時は、走行安定性を「安全」、乗り心地を「快適」に置き換える。今は衝突被害軽減ブレーキと車間距離を自動制御できる運転支援機能が注目を集め、「安全と快適」に対する関心が高い。そして高速道路上の事故は、背の高いミニバンや軽自動車では回避しにくいが、セダンであれば避ける操作もしやすい。
いい換えれば、セダンは先進技術の効果を最も発揮させやすいカテゴリーだ。
セダンのボディ形状は、空気抵抗を低減させる上でも有利だから、環境/燃費性能も向上させやすい。
従ってセダンの価値観は、環境性能を向上させ、なおかつ自動運転によって交通事故ゼロと究極の快適性を目指す今の自動車進化と完全に合致する。最先端のカテゴリーといえるのだ。
そこをしっかり訴求できれば、スカイラインを中止したり、クラウンをSUVに発展させる必要はない。100年に一度の大変革期だからこそ、一朝一夕には築けないセダンの価値に改めて目を向けたい。
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みんなのコメント
32.34.36と乗り継いでいるがスカイラインは常にスカイラインだ。最高の車だよ
基本となる5ナンバーのセダンをしっかり作り込むのをやめた時点で日本メーカーの車はゴミw滅んだも同然wさよならw