各部が電子化されてノーマルでは難しくなっている
「今どきのクルマはドリフトできない」という話を聞いたことはないだろうか? いわゆるドリフトというのは後輪が駆動しているクルマで、駆動力によって後輪を横滑りさせている状態を指す。一方で、今どきのクルマには『横滑り防止装置』が標準装備されている(乗用車はほぼ義務化の対象)。
「D1」や「頭文字D」などでお馴染みのドリフトってそもそもどういう意味?
横滑りを防ぐ装置が付いているのだから、横滑り=ドリフトができないというロジックは、たしかに成り立つといえそうだ。また、タイヤが空転するとトラクションコントロールが作動するため、その点からもドリフトの維持は難しい。
もちろん横滑り防止装置とトラクションコントロールをキャンセルすることができればドリフト状態に持ち込める可能性は生まれるが、ここで問題となるのは、横滑り防止装置を完全にキャンセルできるクルマは意外に少ないことだ。
たとえばホンダのミッドシップスポーツ軽自動車「S660」は、同社がVSAと呼ぶ、横滑り防止装置が付いている。これはスイッチでオフにできるように見えるが完全にはオフにならないため、ドリフト姿勢を維持することは難しい。ちなみに検査・整備用のシークレットモードにすれば、そうした電子制御を完全にオフにできることも可能だが、その状態で走行することは推奨されていない。
横滑り防止装置などにスポーツモードを持つ車両であっても、同様に電子制御を完全オフにできることは難しい。もちろん「スポーツモード」を用意するクルマのなかには、少々のドリフト状態を許容する設定となっていることもあるが、やはりロングドリフトに対応するほどではなかったりすることが多い。
逆に電子制御を利用して、サーキット用に「ドリフトモード」を用意しているクルマ(AMG E63など)も出てきている。こうしたクルマでは、ドリフトコントロールの難しい領域を電子制御でカバーすることによってスピンせずにドリフトを体験できるというのがセールスポイントだ。
なお、電子制御に頼らずにドリフト姿勢を維持しようと思うと、摩擦などにより左右の差動制限を行なうLSDと呼ばれるパーツが必要となるが、最近はブレーキLSDといって片側のブレーキをつまむことでLSD効果を出しているクルマも多い。そうしたクルマは基本的にオープンデフといって片側は空転すると、反対側に駆動がいかない仕組みのため、電子制御をオフにしてしまうとLSD効果もなくなり、ドリフトを維持することは難しくなる。
さて、ドリフト姿勢に持っていくにはきっかけ作りができなければいけない。速度や横Gの大きさを利用する慣性ドリフトは別として、低速でドリフト姿勢に持ち込むきっかけ作りには、サイドブレーキの操作やクラッチ蹴り、シフトロックといったテクニックが要求される。
しかし、最近ではEPB(電動パーキングブレーキ)が増えているため、走行中にパーキングブレーキをかけても作動しない。そのままスイッチを操作していると補助ブレーキとして機能するが、思ったようなタイミングで作動させることは難しい。
もちろん、MTが減っているのだから、アクセルを踏んだ状態で一瞬だけクラッチを切って駆動力を乱すことでドリフト姿勢に持ち込む「クラッチ蹴り」や、シフトダウン時の強いエンジンブレーキを利用して後輪をブレイクさせる「シフトロック」といったテクニックが使えるクルマも減少している。
というわけで、電子制御の範囲が拡大している現代において、後輪駆動のクルマであってもベースとしてはドリフトしづらい傾向にある。その一方で、「ドリフト」文化が広まっている中で、電子制御によってドリフト走行をアシストする機能も進化しつつある。スポーツカーにおいては「電子制御のおかげでドリフトがしやすい」という状況になるかもしれないが、その是非については意見の別れるところになるだろう。
いずれにせよ、ドリフト走行というのは危険を伴う行為。公道で楽しむのはご法度であるし、クローズドコースであっても安全装備などをしっかりと備えた上で楽しみたい。
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