求めた瞬間に凄まじいトルクが放たれる
ホンダNSX タイプSのアクセルペダルを踏み込めば、聴覚は耳の直後から発生するサウンドに奪われる。デフォルトのノーマル・モードは、カリフォルニアの高級住宅地を流すために設けられている。スポーツ+モードで、鋭いNSXのすべてが開放される。
【画像】ラストは600psで350台 アキュラ(ホンダ)NSX タイプS 競合ミドシップと比較 全190枚
ミドシップされる3.5LのV6 VTECツインターボ・エンジンと、前後3基の駆動用モーターは、求めた瞬間に凄まじいトルクを生み出す。間髪入れず、とはまさにこのこと。衝撃的な加速力が放たれる。
磁性流体を用いた可変ダンパーとトルクベクタリング四輪駆動システムは、多少荒れた路面でも、サーキットの滑らかなアスファルトのように感じさせる。乗り心地はフラットで、グリップ力はとてつもない。目をみはるスピードでカーブを曲がる。
カーボンセラミック・ブレーキディスクが、軽くない車重を確実に受け止める。オプションのライトウエイト・パッケージを装備していても、NSX タイプSの車重は1733kgある。オリジナルのNSXより約400kg重い。
ちなみに、このパッケージで得られるアイテムは先出のカーボンセラミック・ブレーキの他に、カーボンファイバー製のエンジンカバーや専用インテリアトリムなどだ。
近年のモデル同様、先進的な技術が膨らんだ車重を見事にカバーする。特にトルクベクタリング機能の働きで、フロントノーズは極めてシャープに向きを変える。意欲的にコーナーへ飛び込み、出口では4本のタイヤがトルクを確実に路面へ伝える。
走りで深遠な記憶を刻むためのスーパーカー
NSX タイプSは感動的に速いが、機械に乗せられているという印象は強くはない。ドライバーの意思や入力を実現するため、見えないところで様々なコンポーネントやソフトウェアが、目立たないように一生懸命働いている。
とてもシームレスに複雑なシステムを実行させ、ドライバーの気持ちを鼓舞してくれる。価格が倍はするハイパーカーに迫る動的能力を、いともたやすく提供してくれる。
とはいえ、ライトウエイト・パッケージを装備したNSX タイプSの価格に近い、ポルシェ911 ターボより遥かに魅力的な体験というわけではない。永遠のアイドルの1台といえるモデルと比べた時、訴求力が充分とはいえないだろう。
これまでの7年間、結果的に多くのドライバーはポルシェを選んできた。NSXを選ぶということは、他人とは異なるマニアへの仲間入りを意味するともいえた。今後の希少性は期待できるけれど。
NSX タイプSは、ランボルギーニ・ウラカンと同じくらい強い印象を残すとは思う。ウラカンが沢山の注目を集めたいようなクルマ好きが選ぶのに対し、NSXはシリアスに運転を楽しみたいクルマ好きが選ぶようなモデルだった。
その個性でいえば、オリジナルのNSXにも通じる。腕利きのドライバーが、スリリングなサーキットやアルプス山脈の峠道を運転し、深遠な記憶を刻むためのスーパーカーだ。市街地を賑やかに走るのではなく。
日本の高性能モデルとして最高の1台
2代目NSXの荷室は、大きくはない。グランドツアラーとは呼べないが、普段使いできる運転のしやすさという点でも、初代NSXと共通している。多くのホンダ車と同様に、ドライバーへの要求は非常に少ない。
それでいて、ドライブモードを引き上げて右足へ力を込めれば、ウラカンのように反応し、磨き込まれた運動神経を披露する。複雑なハイブリッドシステムや、軽量とはいえない車重へ立ち向かうように。
NSXには、アメリカでも滅多にお目にかかることはない。限られたオーナーは、本当の運転好きに違いない。アメリカの工場で生産されたとしても、日本の高性能モデルとして最高の1台に数えるべき存在であったことは間違いない。
2代目NSXの生産は終わるが、バッテリーEV(BEV)として次期モデルが登場するという情報もある。ホンダのニュー・スポーツを期待して待つことにしよう。
アキュラ(ホンダ)NSX タイプS(北米仕様)のスペック
北米価格:16万9500ドル(約2457万円)
全長:4531mm
全幅:1939mm
全高:1214mm
最高速度:320km/h
0-100km/h加速:3.0秒
燃費:7.4km/L(EPA値)
CO2排出量:−
車両重量:1733kg
パワートレイン:V型6気筒3493ccツイン・ターボチャージャー+トリプル電気モーター
使用燃料:ガソリン
最高出力:600ps/6500-6850rpm(システム総合)
最大トルク:67.8kg-m/2300-6000rpm(システム総合)
ギアボックス:9速デュアルクラッチ・オートマティック
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