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不世出のスポーツカー、トヨタ MR2・MR-Sの系譜

掲載 更新 24
不世出のスポーツカー、トヨタ MR2・MR-Sの系譜

 エンジンを中央付近に搭載することで、クルマの運動性能に重要な優れた前後重量配分を可能とするミッドシップレイアウト。このミッドシップエンジン・リアドライブのMR方式は、レーシングカーやスーパースポーツカーが採用したことで1980年初頭までは特別なレイアウトだったが、これを日本の量産車で初めて採用したのが1984年に登場したトヨタ『MR2』。日本のスポーツカー史に残る衝撃的デビューだった。

 この初代MR2は2代目へと進化し、その後はさらにオープンボディへとスタイルを変えたMR-Sへとモデルチェンジ。この不世出のトヨタミッドシップスポーツカーの歴史をモータージャーナリストの片岡英明氏に振りかえっていただきます。

あぁ懐かしのユニークなニックネームで呼ばれたクルマたち

文/片岡英明 
写真/トヨタ、マツダ

【画像ギャラリー】波乱万丈!? 時代の流れに合わせて変化を続けたトヨタの「MRシリーズ」の変遷を見てみよう!

■レーシングカーに採用されるミッドシップ

 ドライバーの背後にパワーユニットを置き、後輪を駆動するミッドシップは、レーシングカーが好んで採用した搭載方式だ。重量バランスに優れ、慣性モーメントを小さくできるから俊敏に走るし、コーナリング限界も高くできる。

 戦前のグランプリレーサーに初めて採用され、戦後になると多くのレーシングカーがミッドシップ方式に転換した。1960年代からはF1などのフォーミュラカーに加え、2座のレーシングカーにも採用され、その優秀性を証明している。

 クルマ好きにとって憧れのエンジンレイアウトがミッドシップだ。しかし、キャビンが狭いし、ハンドリングもシャープすぎるので、日本ではレーシングカーだけの採用にとどまっていた。

 いすゞ自動車が1969年と1970年の東京モーターショーに『ベレットMX1600』を、マツダもロータリーエンジン搭載の『RX500』を参考出品したが、これらは試作だけに終わっている。

マツダのミッドシップコンセプトカー『RX500』。マツダが市販化に成功したロータリーエンジンをミッドシップに搭載。リアスタイルがワゴン風で、のちのデロリアンにも通じるスタイル?

 その後、排ガス規制が強化され、オイルショックにも見舞われたからミッドシップのスポーツカーの話は立ち消えとなった。流れが変わるのは、排ガス対策が一段落した1980年代初頭だ。

 引き金を引いたのは、保守的な自動車メーカーと見なされていたトヨタである。この時期トヨタは積極的にパワーユニットの開発に取り組み、新世代に切り替えていった。

 またこの頃に4気筒エンジン搭載車の多くを、広いキャビンを実現しやすい前輪駆動のFF方式にしようとも考えている。

■FF化をきっかけにミッドシップへ

 ベストセラーカーのトヨタ『カローラ』は、1983年春にモデルチェンジした。これを機にファミリー系モデルはFF方式になった。そしてFF・2ボックスの『カローラFX』も企画されている。その頂点に立つ搭載エンジンは、1.6Lの直列4気筒DOHC4バルブエンジンを横置きにした4A-GEU型だ。

 自動車の生産台数において、トヨタが世界一になる時だったし、トヨタ自動車販売とトヨタ自動車工業が合併する時期でもあった。当然、トヨタの技術イメージを高めるスポーツカー的なクルマを開発したい、という声が、首脳陣やエンジニアから出てきたのである。

 トヨタの主力となるカローラのセダンとハッチバックをFF化しようと考えた時、ミッドシップの2シーターモデルの設計が可能になった。FFレイアウトの前と後ろを逆にすれば、ミッドシップのスポーツカーが生み出せるのである。クルマの世界も多様化してきたし、セカンドカーを持つ人も増えてきた。そこで企画されたのが『MR2』だ。

■日本初量産ミッドシップ『MR2』誕生

 1983年秋、第25回東京モーターショーが開催された。そのトヨタブースに「ミッドシップ方式のトヨタSV-3」を参考出品している。

 そして翌1984年6月、SV-3は「トヨタ MR2」の名で正式発売に移された。MRは「ミッドシップ・ランナバウト」の略だ。開発の途中まではピュアスポーツカーとして開発していた。だがこれをパーソナル方向へと振り、多くの人が気軽に楽しめるように背を75mm高くしたのである。

FFとなったカローラをベース?にエンジンを前後逆に搭載する事で日本初の市販ミッドシップ車となった初代『MR2』。手ごろなサイズと価格で若者が運転を覚える入門車として最適だった

 日本初の量産ミッドシップカーは、低いノーズの先端には格納式のリトラクタブル・ヘッドライトを組み込み、ウエッジシェイプの後方はハイデッキとした。ドア後方にエアインテークが設けられているのがミッドシップの証しだ。

 ボディカラーは2トーンを主役としている。インテリアは2人のための粋なコクピットにこだわり、メーターの両側にはサテライトスイッチを配した。

■1.6Lスーパーチャージャーエンジンを追加搭載

 パワーユニットは、1587ccの4A-GELU型 直列4気筒DOHCが主役だ。このほかに1452ccの3A-LU型SOHC搭載車を設定している。トランスミッションは5速MTに加え、4速ATを用意した。

 サスペンションは4輪ともストラットだ。45:55の重量配分を実現し、車重も950kgと軽かったからミズスマシのように軽やかな走りを見せた。そして1986年8月、化粧直しした時にルーツ式のスーパーチャージャーを装着した4A-GZLU型エンジン搭載車を追加する。

 気持ちいい走りを全身で表現した初代のAW11型 MR2は、トイスポーツとしての魅力に満ちていた。アメリカでは女性も気軽に乗れるセクレタリーカーとしての人気も高かったのである。

初代の後期型には4A-Gエンジンにスーパーチャージャーをドッキングしたモデルを追加。ルーフも脱着式のTバールーフを設定し、デートカーとしても人気を博した

 だが、期待度が高かったから、もう少し高性能なスポーツカーを、と言う声も開発陣には届いていた。そこで2代目は排気量をアップし、スポーツカー的な要素を強めている。第2世代のMR2、SW20型がベールを脱ぐのは1989年10月だ。

■2代目MR2はよりスポーティに進化!

 エクステリアは、全長を220mm、ホイールベースも80mm延ばしている。FFセリカのような柔らかい面構成となり、伸びやかなフォルムとなった。だが、リトラクタブル・ヘッドライトはMR2のアイコンとして受け継いだ。

 ドライバーの背後に積まれるエンジンは、セリカなどと同じ3S-GE系の2L直列4気筒DOHCだ。自然吸気エンジンのほか、ツインエントリー・セラミックターボの3S-GTE型が用意されていた。サスペンションは4輪ともストラットのままだが、タイヤは前後異サイズとしている。

 だが、初期モデルはピーキーなハンドリングで、挙動も荒々しかった。そこで1991年12月にシャシーやサスペンションに手を加え、タイヤを15インチにするとともにブレーキも強化する。GT系にはビルシュタイン製のダンパーやビスカスLSDが装備され、トラクションコントロールも用意したのだ。

2代目MR2は、2Lエンジンを搭載したスポーツカーとして登場。ただし初期モデルは挙動がピーキー過ぎ、サーキットを攻めるとコーナーで横っ飛びする姿がカー雑誌を賑わせた「黒歴史」を持つ

 1993年秋と1997年12月にはエンジンをパワーアップするなど、マイナーチェンジのたびに魅力を増していった。だが、ユーザーの関心はスポーツカーからホットハッチや4WDターボのスポーツセダンへと移っていき、MR2の販売は落ち込んでいったのである。

■オープン2シーターの『MR-S』にモデルチェンジ

 そこで気負うことなく気持ちいい走りを満喫できた初代MR2に原点回帰することにした。ライトウエイト・スポーツの初心に戻り、ダイエットに努めカタログで目立つスペックにすることもやめている。

 過剰なパワーよりも操る楽しさを考えて新たな一歩を踏み出したのが、『MR-S』だ。1997年秋の東京モーターショーに参考出品し、感触がよかったから手直しして、1999年10月に市販に踏み切った。MR2はクーペボディだったが、MR-Sはオープンの2シーターモデルだ。

バブル後の世の中を象徴するように無駄を省きシンプルなMR車に生まれ変わった『MR-S』。軽量ボディとソフトトップの採用で爽快な走りが魅力だった。登場1年後にはセミAT仕様も登場

 パワーユニットはVVT-iを組み込んだ1.8Lの1ZZ-FE型 直列4気筒DOHCが選ばれた。レギュラーガソリン仕様で、140ps/17.4kgmのスペックである。トランスミッションは5速MTだ。それほどパワフルではないが、気持ちよく回るから変速するのが楽しかった。

 登場から1年後には、時代の先端を行く電子制御シーケンシャル5速MTを設定している。これは日本で初めての画期的なクラッチペダルレスのセミATだ。AT免許で運転でき、エンジンの回転数もコンピュータが自動的に合わせてくれるから、ビギナーでも上手に変速することができる。

■ハンドリングはオン・ザ・レール感覚

 ハンドリングも一級だ。1トンを切る軽量ボディにミッドシップだから、オン・ザ・レールの気持ちいいハンドリングを楽しませてくれた。MR2のようにスリリングじゃなかった。特にサスペンションに改良を加え、タイヤもサイズアップした後期モデルはオープンカーとは思えないほど剛性が高く、コントロール性に磨きがかけられていた。

 2002年にはMT車を含め、すべて6速仕様にグレードアップされている。ヘリカル式LSDも用意されたから、安心感があり、意のままの走りを楽しめた。

爆発的なヒットにはならなかったが、名だたるスポーツカーが排ガス規制の餌食となる中、約8年間生き残った。今も比較的手頃な価格の中古車として入手可能だが、新世代モデルも期待したい

 だが、21世紀になってもスポーツカー市場は低迷し、多くの名ブランドが生産を打ち切っている。MR-Sも特別仕様車のVエディション・ファイナルバージョンを送り出し、2007年7月をもって生産終了となった。走らせて楽しいMR-Sは消滅したが、その後もMR-Sをベースにしたハイブリッド・スポーツなどが製作されている。

 退屈なハイブリッド車の汚名を返上し、明るい未来を提案するために、新世代のMR2やMR-Sが誕生することを期待したいものだ。

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みんなのコメント

24件
  • 今MRーSの運転席でこれ読んでます。
  • 学生時代にSWを運転させてもらったことがあるが…とんでもないじゃじゃ馬だったなぁ。
    少しでもアクセルを踏み込めばドッカンターボで横に吹っ飛んでいくw
    持ち主の友人はよく競技中に破壊していました()

    あんなにアブナイ車(誉め言葉)、今だったら出せないよなぁ。
    今でも欲しい車のひとつです。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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