レクサスのフラグシップセダンの「LS500h」に今尾直樹が試乗した。改良による進化とは?
クルマのなかに茶室をつくってみた
レクサスのフラッグシップ・セダン、LSが昨年秋、3年目のマイナーチェンジを受けた。2017年に登場した5代目レクサスは、密かに最新バージョンとなっていたのである。って、筆者が知らなかっただけですけど。
外観は前後パンパーとヘッドライト周辺の変更にとどまる。識別点は、フロント・バンパー下部の冷却口のデザインがスクウェアになっていることだ。従来型がどうだったか、筆者も写真を見ないと思い浮かばない……。
わかりやすいのは、ヘッドライトの下にあったナイキのスウッシュ・マークにも似たL字型のLEDライトが、上下2段のヘッドライトの中間に割り込むように入っていることである(写真参照)。
機械的には、初代LS以来、レクサスのDNAであるところの静粛性と乗り心地の改善のために細かい改良を施しているけれど、ここでは日本の伝統文化から着想を得たという、新設定の外装色と内装に注目したい。
創業32年、レクサスは日本発の高級車ならではの文化的な深みを模索しているのだ。そう。LSの3年目のマイチェンのテーマは、日本の伝統文化をいかに取り込み、それを世界にどうアピールするか、ということなのである。
「月の道」という、満月の前後数日間にだけ見ることができる自然現象をモチーフにした外装と内装の組み合わせが、それなのだけれど、う~む、たぶん、日本の伝統工芸に携わるひとが見てもシブいと感じるのではあるまいか。
「月の道」とは、ほぼ真っ暗な海面に低い位置の月が映り込み、その光が細長い道みたいに反射した情景のこと。その「月の道」をモチーフとするボディ色というのがオプションで追加となった「銀影(ぎんえい)ラスター」で、試乗車がまさにそれなのである。
この新塗料にはアルミが混ぜ込んであって、鏡のように滑らかな質感となり、光の変化をより繊細にとらえることができるという。
この「銀影ラスター」に合わせて用意されているのが、ドア・トリムの西陣織とプラチナ箔だ。西陣織の銀糸とプラチナの箔の輝きが月明かりに照らされた波の揺らぎによる「月の道」を表現しているという。
なるほど、西陣織の模様は、雲のようでもあり、龍のようでもある。こちらの気分に応じて見え方が変わる。
「銀影ラスター」もまたしかり。朝、昼、晩と時の移ろい、季節の変化に呼応するというのだから、いとおかし。春はあけぼの、夏は夜、秋は夕暮れ。ニッポンの四季の変化を楽しみたいものである。
銀影ラスターのボディ色は33万円、プラチナ箔と西陣織のドア・トリムはセットで66万円。クルマのなかに茶室をつくってみた。と思えば、安いものかもしれない。
メイド・イン・ジャパンの誉れ
ドライバー目線で見ると、現行LSは当初、“エモーショナルな走り”を前面に押し出したスポーツ・サルーンだったけれど、3年の熟成を経て、“レクサスのDNAである静粛性と乗り心地”の大幅な向上を追求したラグジュアリー・サルーンへと、その性格を修正してきており、落ち着くところに落ち着いてきた感がある。レクサスの旗艦はやっぱり、トヨタ「クラウン」のインターナショナル版であるべきなのだ。
少々余談ながら、クラウンといっても、現在のクラウンではなくて、フレームを持っていた頃の、フワフワな乗り心地と、ものすごく静かだった時代の、1980年代のクラウンである。考えてみたら、あの頃のクラウンは、ニッポンがまだ敵基地先制攻撃云々なんぞとんでもない、専守防衛が当たり前の時代の産物だった。
そのトヨタ・クラウンを大型化し、250km/hで走れるようにしたのが初代レクサスLSだった。1989年に登場した初代LSというのは、当時のニッポンが精魂込めてつくりあげた、もっとも純度の高い理想の日本車で、つまり、初代LSに込められていたメッセージというのは、もちろん表には出ていなかったけれど、憲法9条のアメリカ逆輸出だったのだ……というのは筆者の思いつきですけれど、初代レクサスLSの背後に、戦後ニッポンの民主主義教育と、それによって実現した平等で平和な社会があった、とはいえるのではあるまいか。
2017年に登場した現行LSは、このままではいかん、という危機感から生まれた。ダイナミックな運動性能とダイナミックなクーペ・スタイルはそのあらわれで、それがまた修正されて、原点に回帰しようとした。
ドライバーズ・カーとしての側面はいまも残っている。ワインディングでは水をえた魚のようによく曲がる。3.5リッターV6エンジンとモーターのハイブリッドのパワートレインは、モーターによるアシストでターボみたいに加速し、車重が2290kgもあるのに軽やかに加速する。
西洋の高級車に較べると、自己主張が控えめで、物足りないといえば、物足りない。でも、そういうところが日本的だと考えれば、これぞ日本製高級車である。そうなると、“月の道”の評価もうなぎのぼり。もしかして、禅のファンにウケるかもしれない。
これが本当によいものなのかどうか。こういうものは、落語の「はてなの茶碗」に出てくる、京都の茶道具屋の金兵衛さんみたいな当代一流の鑑定人に見てもらうに限る。「はてな」と首を傾げさせたらしめたもの。一筆書いて、桐の箱に入れたら、ますます価値が上がる。そうなったとき、筆者も堂々とこう申し上げられる。「よろしおますなぁ」。
いや、そういうものが工業製品である自動車にあらわれた。これぞメイド・イン・ジャパンの誉れだ。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
自分も昔初代セルシオを中古ですが購入したこともあり興味がありました。
装備は最新の技術が取り込まれていて凄いと感じました。
しかしながら、走行時のノイズや乗り心地は初代セルシオの方が良かった気がします。
思い出補正なのでしょうかね?