三菱自動車(以下、三菱)は2024年7月8日、日本郵便株式会社(以下、日本郵便)から3000台の「ミニキャブEV」を受注したと発表しました。
10年以上に渡る配送現場での有用性が認められて採用
三菱 ミニキャブEVは、軽カーサイズのワンボックスBEVバンです。実は三菱は、2013年からミニキャブEVをの先代にあたる電動軽ワンボックスカーの「ミニキャブ・ミーブ」を5000台以上納入した実績があります。ミニキャブ・ミーブは集配用車両として約11年にわたって使用されてきました。その使いやすさや有用性が認められてこの度のミニキャブEVの受注に至りました。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
ミニキャブEVは、近距離輸送であれば十分な航続距離180km(WLTCモード)を実現。195Nmというエンジン車の軽バンをしのぐ大トルクを発生するモーター駆動特有の力強さで、重い荷物や積載量が多い場合でも内燃機関車よりもキビキビと走ることができます。
運送をはじめとした軽バンやトラックを使う業界では今、BEVへのシフトが進んでいます。次の項ではBEVの採用実績をご紹介していきます。
佐川急便は自社専用仕様のBEV軽バンを導入
佐川急便株式会社(以下、佐川急便)とASF株式会社(以下、ASF)は2020年6月に集配用の小型電気自動車の共同開発をすると発表。2021年4月にはプロトタイプを報道陣に公開しました。2023年には軽商用EV「ASF2.0」という進化版も発表されています。佐川急便では、2030年までに7200台の集配用軽EVを導入する予定です。
さらに佐川急便はASFとの軽バン開発だけでなく、いすゞとともに2トン積みの配送用BEVトラックの開発と導入、電動車ではありませんが輸送基地間や都市間を結ぶための大型LNG(液化天然ガス)トラックの実証実験など、配送業務におけるCO2削減に取り組んできました。
EVトラックの導入は運輸業界以外でも進行中
一方、ヤマト運輸も2023年9月から2トンクラスのEVトラックの導入を開始しました。導入されたモデルは三菱ふそうトラック・バスが開発したEV小型トラック「eCanter(eキャンター)」で、最高出力150PS、最大トルク430Nmという動力性能を持っています。
一充電航続距離は116km、急速充電器使用時の0→90%までの充電時間は、50kWなら約50分、70kWでは約40分で充電できます。普通充電(6kW)では約8時間で0→100%の充電が可能です。
なお、ヤマト運輸では全国に約900台のeキャンターを順次導入する予定です。さらに2030年までに20000台のEVの導入を目標に掲げています。
さらに三菱ふそうのeキャンターは、自治体でも採用されています。2023年12月には香川県高松市で、2024年3月には神奈川県厚木市でeキャンターをベースにしたゴミ収集車が導入されています。
またeキャンターは2023年3月の日本発売以降、日本国内だけでなくオーストラリア、チリ、香港、トルコ、台湾などで発売され、今後はインドネシアでも販売される予定です。さらに2024年3月からはフィンランドの北極圏に近いエリアで寒冷な気候下における性能実証試験も始まっています。
なぜ今、EVトラックやバンが注目を集めているのか?
日本だけでなく世界にも普及しつつあるEVトラックとバンですが、なぜここまで注目を集めているのでしょうか? その理由のひとつがいま多くの大企業や自治体が取り組んでいるSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)の13番目の目標「気候変動に具体的な対策を」を実現するにはEVトラックを採用することが有効だと考えているからです。
つまり地球温暖化を抑えるためのCO2排出量の削減の手段のひとつとして、EVトラックの採用が手っ取り早く効果的と考えられているのです。
このほかにもEVトラックやバンを導入するメリットはあります。集配車やゴミ収集車は住宅地などの人口密集地で運用されますが、そこで問題になるのが騒音や排出ガスです。バッテリーEV(BEV)のトラックであれば、エンジン音はなく走行時の騒音も少なく、排出ガスも出しません。
また、既存のエンジンを積んだトラックやバンは当然給油をする必要がありますが、多くの場合業務終了後にこの作業が行われています。そのぶん、ドライバーの負担が増えるわけですが、集配用車両をBEVに置き換えて、さらに営業所に充電設備を用意すればこの手間を減らせて、2024年4月から設けられたトラックドライバーの時間外労働の上限規制への対応の一助になるという見方もあります。
電動トラックの導入はメリットばかりではない
ただし、EVトラックの導入は現状では良いことばかりではありません。導入コストがエンジン車よりも高め、航続距離がエンジン車よりも限られるため短距離輸送にしか対応できない、バッテリーが重いぶんエンジン車に比べて荷物の積載量が減ってしまうなどの問題点もあります。
全日本トラック協会が2022年3月に策定した「トラック運送業界の環境ビジョン2030」では、車両総重量8トン以下の電動トラック(BEV、ハイブリッド)の保有台数の割合を2030年までに10%にすることを目標に掲げていますが、2023年3月時点では2.69%にとどまっており、この数字は2020年度からほぼ横ばい(厳密には微減)という厳しい現実もあります。
しかし、こういった問題が解決するまでトラックの電動化を待つという選択肢もまたありません。この原稿を書いている2024年7月初旬でも日本各地で最高気温35度以上の猛暑日が記録されるなど、20年前と比べても間違いなく気象条件は温暖化しており、その原因となるCO2排出量の削減は急務なのです。
今回の日本郵政の三菱 ミニキャブEVの導入や運輸業界の取り組みのように、「できることからひとつずつ、コツコツと」取り組んでいくということがやはり大切なのかも知れません。
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