現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 華麗なまでの引き際!! 中嶋一貴の引退で甦る“13年前の質問“

ここから本文です

華麗なまでの引き際!! 中嶋一貴の引退で甦る“13年前の質問“

掲載 2
華麗なまでの引き際!! 中嶋一貴の引退で甦る“13年前の質問“

 それは、中嶋一貴がWECからの勇退を発表してからひと月も経たない日のことだった。

 中嶋一貴が現役レーシングドライバーとしての活動から退く。WEC勇退のニュースを耳にしていたからこそ、いっそうの驚きと衝撃を持って迎えられた発表であった。

元グラドル&元ミニスカポリスも登場!! 2021年も大人気のレースクイーンたち

 モータースポーツジャーナリストの段 純恵氏に、中嶋一貴というレーサーの人となり、そして中嶋一貴の思い出、エピソードを語ってもらった。

文/段 純恵、写真/TOYOTA GAZOO Racing

[gallink]

■引退後の質問をしてから13年半……とうとうその時が

WEC第6戦、バーレーン8時間レースで見事優勝を飾り、自身のWEC勇退に花を添えた。まさかそれからひと月も経たないうちに衝撃の発表が待っていようとは……

 2008年カナダGPのパドックで、初年度のF1フル参戦に奮闘していた中嶋一貴へのインタビューの最後にある質問を投げた。

 将来レーシングドライバーを引退した後、何をしたいか考えたことはありますか?

 まだ23歳の中嶋は、ふと思うこともなくはないですけれどと前置きし、耐久レースに出るのも面白いかもしれない、チームを持つことができればそれは自分の楽しみでもあると思う、後進のドライバーを育てることもありうる等々をおもむろに挙げてから、これだけはハッキリしてますと付け加えた。

 「レースの現場から離れることは想像できないです。自分はあまり他のフィールドでの才能があるとは思えないんで(笑)」。

 それから13年半が経ち、『将来』は現実となって中嶋の目の前に現れた。この間に中嶋はF1を離れ、レース浪人を経験したあと国内トップフォーミュラにデビュー。日本の頂点を2度制し耐久レースで再び世界に挑戦。世界の頂点を制するとともにル・マン24時間レースで3連覇の偉業を成し遂げた。

 モータースポーツの公益性が云々される日本はさておき、レーシングドライバーという職業が憧れと尊敬の念をもって語られる海外で誰もが認めるレジェンドとなった中嶋の現役引退。

 筆者のつきあいの中に限って言うと「早い」「まだまだ現役で走れるのに」「もったいない」という声ばかりで、最後に「それでも彼の決断を尊重したい」と付け加える点でも皆が一致していた。

■決してブレない、逃げない男の大きな決断

2022年トヨタモータースポーツ体制発表会の壇上で自身のレーシングドライバー引退についてコメントする中嶋一貴

 11月のWEC最終戦の前にレギュラー選手からの勇退は発表されていたが、それからひと月も経たないうちに現役活動のすべてから退く話に変わったのだから驚くなというほうが無理である。

 12月6日に行われた2022年トヨタモータースポーツ体制発表会の壇上、中嶋は引退について「自分自身で決断した。新しいステージで僕自身がドライバーとして経験させてもらったことを若い世代に引き継いでいかないといけないと思っている」とその理由を述べていた。

 今春のスーパーフォーミュラ開幕戦で、台頭する若手選手への対抗心を露わにし、コロナ禍で減らさざるを得ないSF参戦を一つでも増やしたいと語っていたベテランが、8ヶ月あまりのうちに考えを180度転換させた経緯について知りたい気持ちはある。

 しかしそれを問うたところで今さらにして無意味であることも確かだ。

 F1から国内レース、WECと取材するなかで中嶋一貴という人物に一貫して感じていたのは、ブレない、逃げない、言い訳しない、そして誰かのせいにしない姿勢だった。

 「本当に何もかもがうまくいかない厄年だった」といまだに本人が苦笑するF1の2季目、チームスタッフのミスで数回ポイントを落とし、年間ノーポイントで(当時F1の入賞は6位まで)ウィリアムズから放出されても、国内レースで他車にぶつけられてレースを失っても、WEC初期のマシンがとんでもなく乗りづらかった時も、マシンにレインライト装着が義務づけられる前に雨中のレースで回避不可の接触事故により負傷、入院した時も、中嶋は起きた事象について語ることはあっても、言い訳めいた言葉や誰かの責任を追及するような言葉は一切発しなかった。

 そんな中嶋のドライバー人生で最大の危機があったとすれば、それは2012年のル・マン24時間レースではなかったかと筆者は思う。

2012年、ル・マン24時間レース参戦時の中嶋一貴

 トヨタにとって13年ぶり、自身にとって初めてのル・マンで、中嶋はドライバー交代直後に本山哲がドライブするデルタウイングと接触。相手をクラッシュさせ、自分は修理を経てコースに復帰したものの、結局エンジントラブルでリタイヤとなった。

 当時TMG(現トヨタガズーレースシングヨーロッパ、TGR-Eの前身)のドライバー選定基準は『参戦する全カテゴリーの全戦で5年間にミス2回』というとても厳しいものだった。

 ここでいうミスとは、ドライバーが気をつければ避けられたはずのミスでアクシデントとなり、資金的、労力的にチームの一年間の苦労をフイにするレベルを指している。このとき中嶋がヤラかしたのがまさにこの大ミスだった。

 もう時効だと思うのでこの話をさせていただくが、実はこの時のル・マンの後で、中嶋は当時のTMG代表に呼び出されて相当厳しい叱責を受けている。

 「キミは5年中の1回分を使ってしまった。残り4年半。どうすべきかわかっているな」。

 そう痛罵された中嶋は、それ以降WECはもちろん国内レースでも大ミスを犯すことはなく、それとともに速さにも磨きがかかり、本当に強いドライバーへと進化を遂げた。

 押しも押されもせぬトップドライバーに成長し、余力を残しながら引退することになった中嶋について、スーパーGTでトヨタ勢とガチで闘いスーパーフォーミュラにも全戦帯同しているホンダの佐伯昌浩GTプロジェクトリーダーは、

 「本当に手強いドライバー。予選で前にいなくても決勝になると必ず前に来る。ウチにとってはやっかいな(笑)本当に強いドライバーだった」と評した後で、こうもつけ加えた。

 「F1で走ってWECでタイトル獲ってル・マンで3連覇したドライバーですよ、中嶋くんは。F1のパドックを歩いてるだけであちこちから声がかかるよ。

 将来トヨタから離れたとしても、彼なら日本とヨーロッパのモータースポーツ界で十分活躍していけるし、業界全体の発展に力を尽くせる人材だと思う。ぜひそうなっていってほしいよね」。

■中嶋の経験は次の世代へと引き継がれる

中嶋一貴のスーパーフォーミュラ最終戦となった第6戦での勇姿。中嶋の思いは、中嶋の背中を見て走り続けてきた若いドライバーたちが受け継いでくれるだろう

 現役引退発表の翌々日、鈴鹿で行われたSFの合同テストで某トヨタ系チームのマシンを走らせる中嶋の姿があった。

 1台体制でマシンの評価に難儀していたチームからのオファーで実現したレジェンド最後のSF走行に、ホンダ系ドライバーからは「ラストランなのに(マシンの)色が違うだろ?」という声が挙がっていた。

 中嶋と長年にわたり苦楽を共にしたチーム・トムスも、事情が許せば自分たちのマシンで走らせたかっただろうし、それを叶えられず口惜しかったのではないかと思う。

 それでも中嶋自身は、思いがけずSFマシンを走らせる機会を得たことを喜び、これまでと変わらず淡々とマシンを走らせ、データを集め、担当時間を終了すると静かに最後のステアリングを置いた。

 その後、中嶋にとって本当にサプライズの出来事が待っていた。

 マシンを降りた中嶋がスタッフに呼ばれてついて行った先に、自分の最後の走りを見ようと地元・岡崎からやってきたファンが見守るグランドスタンド、そしてそこから見下ろすスターティング・グリッドに山本尚貴をはじめとする現役ドライバーが全員、トヨタ系はもちろんホンダ系も含めた全チームの関係者、そして中嶋が国内で使い続けたカーナンバー36の緑と白の懐かしいマシンが待っていたのだ。

 ハデなことは気恥ずかしい、正式なセレモニーなしで去るのも自分らしいかなと言っていた中嶋だったが、ライバルとして闘った仲間たちの思いがけない餞にこみ上げるものを抑え切れなかったのだろう。

 F1のシートを失おうがル・マンで残り16分の悲劇に見舞われようが逆に悲願の表彰台のてっぺんに上がろうが、人前で涙を見せなかった中嶋が何度も何度も目尻を拭う姿に、筆者も胸がいっぱいになった。

 「こうやって挨拶する機会をいただけて感謝しています。悔いなくレース活動を終えられたと思っています。立場が変わってもレース界の発展に貢献していきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします」。

 うっすらと涙が残る瞳に、人生の新しい扉を前にした澄み切った心を映しだし、モータースポーツの最前線を闘ってきた仲間たちに見送られて、中嶋のドライバー人生は静かに、だが暖かい空気の中で本当の幕を下ろした。

[gallink]

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

ベントレーCEOの旧私邸を改装。ベントレー本社近隣の特別な顧客体験スペース「The Mews」を発表
ベントレーCEOの旧私邸を改装。ベントレー本社近隣の特別な顧客体験スペース「The Mews」を発表
LE VOLANT CARSMEET WEB
スズキ「最上級SUV」新発表! トヨタ「ヤリスクロス」サイズの“豪華仕様”! 精悍顔もカッコイイ「グランドビターラ ドミニオンE」印国に登場
スズキ「最上級SUV」新発表! トヨタ「ヤリスクロス」サイズの“豪華仕様”! 精悍顔もカッコイイ「グランドビターラ ドミニオンE」印国に登場
くるまのニュース
アドベンチャースタイルの“軽二輪スクーター”ホンダ「ADV160」に2025年モデル登場! ふたつの新色をプラスした「全3色のカラバリがスポーティ」
アドベンチャースタイルの“軽二輪スクーター”ホンダ「ADV160」に2025年モデル登場! ふたつの新色をプラスした「全3色のカラバリがスポーティ」
VAGUE
「RS」最新モデル日本上陸!! アプリリア「RS457」発売
「RS」最新モデル日本上陸!! アプリリア「RS457」発売
バイクのニュース
「ルノー・セニック E-Techエレクトリック」が「モーター・トレーダー・インダストリー・アワード2024」で「ニューカー・オブ・ザ・イヤー」受賞
「ルノー・セニック E-Techエレクトリック」が「モーター・トレーダー・インダストリー・アワード2024」で「ニューカー・オブ・ザ・イヤー」受賞
LE VOLANT CARSMEET WEB
BMW R1300GSアドベンチャーをイギリス人レーサーが斬る「30Lタンクの巨体で攻めの走りができる…そのシャシーと電子制御に驚愕だ」
BMW R1300GSアドベンチャーをイギリス人レーサーが斬る「30Lタンクの巨体で攻めの走りができる…そのシャシーと電子制御に驚愕だ」
モーサイ
「シボレー コルベット E-Ray」は4WD化の恩恵が絶大!もっと刺激的な電気エイの襲来に喝采を【新車試乗】
「シボレー コルベット E-Ray」は4WD化の恩恵が絶大!もっと刺激的な電気エイの襲来に喝采を【新車試乗】
Webモーターマガジン
軽さと居住性を両立したバックパッキングテント「Thouswinds サジタリアスシングルテント」が発売!
軽さと居住性を両立したバックパッキングテント「Thouswinds サジタリアスシングルテント」が発売!
バイクブロス
「緊急車両が来て道を譲らないとどうなりますか」  理由に「『聞こえんかった』は通用するのですか」 譲るのはマナー?義務? 具体的にどう譲ればいいのですか。
「緊急車両が来て道を譲らないとどうなりますか」 理由に「『聞こえんかった』は通用するのですか」 譲るのはマナー?義務? 具体的にどう譲ればいいのですか。
くるまのニュース
日産のフルサイズSUV『アルマーダ』新型、ベース価格は5.6万ドルに据え置き…12月米国発売へ
日産のフルサイズSUV『アルマーダ』新型、ベース価格は5.6万ドルに据え置き…12月米国発売へ
レスポンス
ハミルトンFP2も首位、メルセデス好調も上位は接戦模様か。RB角田裕毅は10番手|F1ラスベガスGP
ハミルトンFP2も首位、メルセデス好調も上位は接戦模様か。RB角田裕毅は10番手|F1ラスベガスGP
motorsport.com 日本版
スズキ、フラッグシップ『ハヤブサ』のカラーリングを変更した最新モデルを発表。11月22日より発売
スズキ、フラッグシップ『ハヤブサ』のカラーリングを変更した最新モデルを発表。11月22日より発売
AUTOSPORT web
まだまだ続きます 北近畿豊岡道の「有料トンネル」料金徴収期間を延長 背景に老朽化
まだまだ続きます 北近畿豊岡道の「有料トンネル」料金徴収期間を延長 背景に老朽化
乗りものニュース
700万円超え! スバル新型「SUV」発表! 2リッター「水平対向」×マイルドハイブリッド搭載! 全長4.7m級の「新フォレスター」欧州に登場へ
700万円超え! スバル新型「SUV」発表! 2リッター「水平対向」×マイルドハイブリッド搭載! 全長4.7m級の「新フォレスター」欧州に登場へ
くるまのニュース
F1ラスベガスFP2速報|FP1に続きメルセデスのハミルトンが最速。角田裕毅10番手
F1ラスベガスFP2速報|FP1に続きメルセデスのハミルトンが最速。角田裕毅10番手
motorsport.com 日本版
スズキ『V-STROM 250SX』がカラーリング変更、新価格は59万1800円
スズキ『V-STROM 250SX』がカラーリング変更、新価格は59万1800円
レスポンス
約3000万円で落札されたポルシェ「911 カレラRS アメリカ」は何か変! 実は新車の頃からシュトロゼックのボディキットが装着されていました
約3000万円で落札されたポルシェ「911 カレラRS アメリカ」は何か変! 実は新車の頃からシュトロゼックのボディキットが装着されていました
Auto Messe Web
フォード、伝統のバハ1000で『ブロンコDR』と『レンジャー・ラプター』が主要部門を制覇
フォード、伝統のバハ1000で『ブロンコDR』と『レンジャー・ラプター』が主要部門を制覇
AUTOSPORT web

みんなのコメント

2件
  • オラが地元の英雄。
    中嶋悟と中嶋一貴。
    スーパーレーシングヒーローだよ。
  • 昨日、お台場メガウェブで引退記念展示見てきました。長年お疲れ様でした。ペドロナスカラーがやはり印象的でした。全日本f3時代や、MRS GT300時代が個人的には一番注目してました。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

707.41100.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

27.5503.0万円

中古車を検索
レジェンドの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

707.41100.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

27.5503.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村