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なぜマツダは“直列6気筒”にこだわるのか?

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なぜマツダは“直列6気筒”にこだわるのか?

マツダの新しいSUV「CX-60」の主力エンジンは6気筒になるようだ。今や減りつつあるストレート6をマツダが選んだ理由とは? 世良耕太が考えた。

新たなラージ商品群

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マツダは4月7日にラージ商品群の第1弾となるCX-60を発表した。CX-60は2列シートのミドルサイズSUVで、日本とヨーロッパには遅れて3列シートの「CX-80」が投入される予定だ。また、北米市場にはCX-60のワイドボディ版である「CX-70」と、CX-80のワイドボディ版である「CX-90」が投入される予定という。

国内で販売されているマツダの2列シートSUVで最もサイズが大きかったのは「CX-5」で、全長×全幅は4575×1845mmである。CX-60の全長×全幅は4742×1890mmで、ひとまわり大きい。3列シートのCX-80はもっと大きくなる。主に北米向けのCX-70とCX-90はさらにワイドだ。

マツダはこれまで自分たちが作ってきたモデルよりも大きなサイズの商品群を開発するにあたり、シャシーもパワートレーンも専用に一括して開発することにした。それがラージ商品群だ。既存のCX-5やひとまわり小さい「CX-30」、もっとコンパクトな「CX-3」などはスモール商品群として区別している。

スモール商品群とラージ商品群はサイズが異なるだけでなく、パワートレーンのレイアウトが決定的に異なる。「スモール」はエンジンとトランスミッションなどで構成されるパワートレーンを横置き(左右方向)に搭載し、前輪を駆動するのが基本だ(後輪に駆動力を配分するAWDの設定もある)。

一方、「ラージ」はパワートレーンを縦置き(前後方向)に搭載。その場合は後輪を駆動することになるが、ラージ商品群は前輪にも駆動力を配分するAWDが基本だ。

パワートレーンの構成も根本的に異なる。スモール商品群はガソリンエンジンもディーゼルエンジンも直列4気筒と6速ATまたは6速MTと組み合わせているが、ラージ商品群はガソリンもディーゼルも6気筒エンジンを搭載し、トランスミッションは8速ATを組み合わせる。いずれも新開発だ。例外はマツダ初のプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)で、この場合はガソリンの2.5L直列4気筒自然吸気エンジンに高出力モーターを組み合わせる。

なぜ6気筒モデルを用意したのか?

そもそも、マツダがラージ商品群を開発しようと思ったきっかけは、CX-5など最新のマツダ車に触れた上級志向のオーナーがヨソのブランド、もう少し具体的に言うと、ヨーロッパのプレミアム・ブランドに流出していく現象を目の当たりにしたからだった。

せっかくマツダのオーナーになってくれたのに、乗り継いでくれず逃げていってしまう。しかも、マツダがイヤになったからではなく、選択肢がないからだというのがわかった。ならば受け皿を用意しようじゃないか! というのが、ラージ商品群開発の動機である。

上級志向のユーザーを満足させるなら、エンジンは4気筒ではなく6気筒だろう。そのほうが立派に感じてもらえるし、という短絡的な考えから、6気筒を選択したわけではない。最初に決めたのは気筒数ではなく、排気量だった。ディーゼルエンジンを搭載するCX-60の車両重量は約1900kgになる。それだけの重量があるクルマを気持ち良く走らせるのに必要な最大トルクは550Nmと算出された。550Nmのトルクを出すのに必要な排気量は何リッターか……。

マツダの2.2L直4ディーゼルエンジンは最大450Nmのトルクを発生しているので、同様の技術をスライドさせれば2.7Lの排気量で狙いとする最大トルクを発生することは可能だ。2.7Lなら4気筒でも成立したかもしれない。しかし、マツダはそれでよしとはしなかった。狙ったトルクは達成できるが、燃費と排ガス性能が満足できないからだ。

550Nmの最大トルクを発生させつつ、高い燃費性能と排ガス性能を実現しようとした場合、排気量は3.3Lが妥当であるとの結論に至った。排気量に余裕を持たせると、燃料を噴いたときにまわりにたくさん空気があるため、燃料の粒子と空気が充分に混ざり合ってよく燃える。その結果、燃費が良くなり、排ガス性能も良くなるというわけだ。3.3Lの排気量があるなら650Nm以上のトルクを出すことは可能だったが、あえて550Nmに抑え、燃費と排ガス性能を取りにいったのだ。

結果、CX-60の3.3Lディーゼルエンジン搭載車は、小さく軽いCX-3の1.8L直4ディーゼルエンジン搭載車と同等の燃費(WLTCモード燃費で19km/L前後)を実現するという。

また、ディーゼルエンジン搭載車は排ガス中に含まれる有害物質のひとつであるNOxを処理するために「SCR」と呼ぶ浄化装置を搭載するのが一般的であるが、e-SKYACTIV-D 3.3と名づけたマツダの新開発ディーゼルエンジンは、高価なSCRを搭載せずに済んでいる。きれいに燃やしているから、必要ないのだ(規制の異なるヨーロッパ仕様はSCRを搭載する予定)。SCRを搭載していないので当然、尿素水の定期的な補充も必要ない。

極めて合理的な理由

熱効率の観点から、1気筒あたりの容積には最適な範囲がある。それ以上でも以下でも損失が増えてしまい、燃費などの面で不利になってしまう。排気量が3.3Lなら、1気筒あたりの容積は825ccになり、最適なゾーンから外れてしまう。6気筒なら1気筒あたり550ccになり、最適な範囲で設計した2.2L4気筒とおなじだ。

だから、排気量を3.3Lと決めた時点で必然的に気筒数は「6」となる。6気筒は4気筒に比べて吹き上がりのスムーズさと振動の面で有利なので、上級志向のコンセプトともマッチする。

問題は搭載性であるが、スモール商品群のように横置き搭載の場合、6気筒の選択はスペースの面で無理がある。しかし、縦置きなら、積めるか積めないかの観点で条件はクリアできる。ただし、長い6気筒エンジンは厳しくなる一方の衝突安全性を確保する面で不利に働く。

そこで、トランスミッションも自社開発するマツダの強みが生きてくる。直列6気筒エンジンとの組み合わせを前提に8速ATを軽量コンパクトに設計することにより、エンジンを後ろ寄りに搭載することができた(しかも、足元スペースを充分に確保しながら、AWDの動力伝達機構も収めている)。

衝突安全性の確保はもちろん、車両運動性能の観点からも理想的な配置となった。

マツダがラージ商品群の開発にあたって6気筒を選択したのは、記号性を重んじたわけではなく、極めて合理的な理由による。動力性能と燃費、排ガス性能をすべて高い次元で満足させるためなのだ。

文・世良耕太

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