2019年10月16日、トヨタの新たな世界戦略車「ヤリス」が世界初公開された。12月中旬に正式発表がなされ、2020年2月中旬発売開始となる。価格はまだ非公開だ。
「世界戦略車」ということは、「どの国でもスタンダードな存在となることを目指す」と置き換えても差し支えないだろう。つまりは「大衆車」を目指す、ということだ。
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以前、大衆車には価格が大事だと書いたことがあるが、最近になってもう一つ重要な要素がある気がしてきた。それは「親しみやすさ」である。
かつて初代のヴィッツが登場し「大衆車」としての地位を勝ち得たとき、おそらく誰もが感じたのは、「おはぎ」のようなひな鳥のような、ぼてっとしたフォルムへの親しみやすさではなかっただろうか(失礼を承知で言うと、代を重ねるごとにその親しみやすさは薄れ、それにより人は離れた)。
今回のヤリスのデザインには、過剰な可愛さも尖んがったカッコよさも、個人的には感じない。感じたのは、どんな土地においてもその風景に違和感なく溶け込むデザインであり、そこにこそ置かれただろう努力の積み重ねだ。
「どんなクルマも80点」と、揶揄とも称賛ともとれる言葉で表現されてきたトヨタ車だが、ヤリスはそんなトヨタが(安全性といった部分も含めて)「親しみやすさ」に全力を振り絞って100点を目指した一台なのかもしれない。
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■ヤリスSPEC
・全長×全幅×全高:3940×1695×1500mm
・ホイールベース:2550mm
・トレッド(F/R):1Lガソリン:1490/1485mm/1.5Lガソリン:1480/1475mm/1.5Lハイブリッド:1480/1475mm
・車両重量:1Lガソリン2WD:950kg/1.5Lガソリン2WD:990kg/1.5Lハイブリッド2WD:1050kg
・最小回転半径:1Lガソリン:4.8m/1.5Lガソリン:5.1m/1.5Lハイブリッド:5.1m
・タイヤサイズ:1Lガソリン:175/70R14/1.5Lガソリン:185/60R15/1.5Lハイブリッド:185/60R15
※現時点でわかっているもの。グレード差は不明
※本稿は2019年10月のものです
文:ベストカー編集部/写真:TOYOTA,ベストカー編集部/撮影:奥隅圭之
初出:『ベストカー』 2019年11月26日号
■コンセプトは「小さく」「丸く」「艶やか」で「おいしそう」!!?
いいクルマ作りの原点はコンパクトカーにある─。それが豊田章男社長の考えだ。サイズ、コストの制約があるなかで、どれだけいいクルマにできるかが技術の見せどころということなのだろう。
その象徴ともいえるヤリスが世界初公開された。ヴィッツから世界共通名のヤリスに車名を変えたのは、TNGAで新しいスタートを切る願いを込めたとのことで、そのとおり、すべてを一新したクルマになっている。目指したのは「誇りを持って乗れる小さなクルマ」だ。
デザインのキーワードは「B-Dashb」。BOLD(大胆)、BRISK(活発)、BOOST(加速)、BEAUTY(美)、BULLET(弾丸)など頭文字「B」の言葉で構成されたデザインということ。ボディサイズは全長3940×全幅1695×全高1500mmで、もちろん5ナンバーサイズを守っている
TNGAはこれまでGA-C(プリウス、カローラなど)、GA-K(カムリ、RAV4など)とFR専用のGA-L(レクサスLS、クラウンなど)の3種類のプラットフォームを実用化してきたが、ヤリスは初の「GA-Bプラットフォーム」を採用。
TNGA初の「GL-Bプラットフォーム」を採用。主要な骨格を連結させることで、ねじり剛性が従来型より30%向上している。「空力をもっとよくして、サスペンションストロークも伸ばしたい」というラリーチームからの要望に応えてもいる。そう、ヤリスは次期WRCマシンのベース車なのだ
また、エンジンやハイブリッドも新開発のシステムを使い、コンパクトカーの魅力を改めて、徹底的に考え直したという。
ボディサイズは全長3940×全幅1695×全高1500mm、ホイールベース2550mm。これは現行ヴィッツに比べて全長が5mm短く、ホイールベースが40mm長く、全幅と全高は同じというもので、車重はハイブリッド車が50kg減、ガソリンエンジン車が20kg減と、さらに軽くなっているのだから驚く。
エクステリアは塊感があって、今にも走り出しそうな前傾姿勢で、躍動感にあふれたもの。
クロアチア人デザイナーによるデザインだが、もともとは「黒豆」をデザインモチーフにしていたという。
エクステリアは「黒豆のようなデザイン」を目指したというヤリス。小さく、丸く、艶やかで美味しいというのがその理由。写真はそのイメージを具現化した小さなデザインモデルだ
「小さく、丸く、艶やかでおいしい」というのがヤリスのコンセプトにふさわしかったとのことで、上の小さな黒いデザインモデルはなるほど黒豆っぽい。
この「黒豆モデル」を持って欧州各地を回り、景色と光の合い具合を確かめ続けたというのだから面白い。
また、5ナンバーサイズの全幅に制限があるなか、リアフェンダーが大きく膨らんでいるように見せることで踏ん張り感を出しているのも見どころのひとつだ。ボディカラーは新規カラー2色を含めた全12色で、2トーンカラーも設定する。
リアフェンダーの前にブーメラン型のモールを付けクルマを短く見せる工夫が施されている。また、大きくラウンドしたバックウィンドウも特徴的だ
インテリアはインパネを薄く、センターコンソールを太くしているのが特徴。上級グレードではスラッシュ(ソフト)インパネ素材を採用しているほか、ドアトリムのファブリック面も拡大して大幅に質感を向上。フードレス双眼デジタルTFTメーターも個性を主張している。
従来型の直径370mmから365mmに小径化したステアリングには各種操作スイッチを装備。インパネ上面をスッキリさせるフードレスの双眼デジタルメーターも新採用している
■次期WRCマシンのベース車たりうるパワーユニット
エンジンはすべて直列3気筒で、1.5L、1Lのガソリンエンジンと1.5Lハイブリッドの3種類。1.5Lダイナミックフォースエンジンは、RAV4やレクサスUXに搭載されている4気筒、2LのM20A系エンジンから1気筒を省いたものだ。
パワーユニットは3種類を設定。1.5Lガソリンは発進ギア付きのダイレクトシフトCVTを採用。アクセル操作に応じたダイレクトな走りを実現している
80.5×97.6mmのボア×ストロークは同じで、低速トルクに有利なロングストロークエンジンとなっている。また、1Lエンジンも従来型から大きく改良されている。
トランスミッションは1Lガソリンが改良型のスーパーCVT-i、1.5Lガソリンが発進ギア付きのダイレクトシフトCVTと6速MT。
ハイブリッドはリダクション機構付きの「THSII」で、ヤリス(ヴィッツ)では初めて後輪をモーターで駆動する「E-Four」も搭載されている。
1.5Lダイナミックフォースエンジン
新世代の1.5Lハイブリッドシステムはシステム全体の高効率化とハイブリッド専用エンジンの採用、そのほかすべてのユニットを新開発し、動力性能と燃費性能の両方を向上させている
細かなスペックは未発表だが、ハイブリッドのシステム出力が15%アップしていて、動力性能を15%以上向上させながら燃費も20%以上アップ。また、EV走行での最高速は70km/hから130km/hまで向上させている。
この新しいパワーユニットはヤリスの大きな魅力だが、エンジン開発担当者いわく「意外と1Lがよくなっています。ヤリスのなかで一番軽快な走りを楽しめるエンジンかもしれません」だそうだから、そちらにも注目してみたい。
サスペンションはフロント/ストラット、リア/トーションビームで、E-Fourのリアサスは2リンクダブルウィッシュボーンとなる。
TNGAによる大幅なボディ剛性の向上で、意図したとおりにサスペンションが動くようになって走りの質感は相当上がっているようだ。
なんといっても次期WRCマシンのベースになるクルマ。トヨタラリーチームからの要望も多く採り入れているというから、土台からしっかりしたクルマになっていることは間違いないだろう。
■ヒエラルキーにとらわれず、先進技術を投入
先進安全装備も充実している。トヨタセーフティセンス(TSS)が全車標準なのはもちろん、TSS自体が進化しており、緊急自動ブレーキは夜間の歩行者と自転車にも対応。
ヤリスのTSSは交差点右折時に前方からくるクルマや横断者を検知し、自動ブレーキをかけるトヨタ初の機能を追加している
また、コンパクトクラス初のレーントレーシングアシスト、レーダークルーズコントロールも装備するほか、オプションでペダルの踏み間違いをサポートするインテリジェントクリアランスソナーや、駐車スペースからバックで出る時に、後方接近車両を検知して自動でブレーキをかけるリアクロストラフィックオートブレーキも設定。
さらにトヨタ初の高度駐車支援システム、アドバンスドパークも新設定しており、これはメモリ機能で白線のない駐車場でも使えるというから至れり尽くせりだ。
アドバンスドパークはシフト操作のみで自動駐車できるトヨタ初のシステム。白線のない場所も記憶させると対応してくれる
まだまだ伝えたいことがいっぱいだが、今回はここまで。ヤリスは今年12月中旬に正式発表、来年2月中旬に発売開始となる。
塊感、凝縮感、躍動感を備えたデザイン。ホイールベースを40mm長くしながら全長は5mm短縮。写真のボディカラーは新色のCORAL CS.の2トーン
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