好調に売れた人気車のフルモデルチェンジは難しい。売れ行きは伸びて当たり前、そうでなければ販売ランキングの上位に入っても「失敗作」といわれる。
「変える」ことが難しいなかで、ヒット作の良さを継承し、さらなる人気を誇ったモデル、そして残念ながら人気を落としてしまったモデル。その差はいったい何なのか? 人気車の「次」に挑んだクルマの足跡を追った。
文/渡辺陽一郎
写真/編集部、HONDA
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ホンダ 2代目N-BOX/2017年
ホンダ2代目N-BOX(販売期間:2017年~/全長3395mm×全幅1475×全高1790mm)
ホンダには2代目は売れないジンクスがあるという。たしかに2代目シティ、2代目CR-Vなどは伸び悩んだが、初代の功績を生かして一層多く売れた車種もある。
20年ほど前までのホンダには「フルモデルチェンジは先代型を否定せねばならない」という風潮があって失敗作も生じたが、今は状況が変わった。
その象徴が現行型の2代目N-BOXだ。先代型を否定する風潮に反して、初代の広い室内、多彩なシートアレンジ、バランスの取れた外観といった特徴を受け継いだ。そのうえで内外装の質をさらに高め、乗り心地も向上させている。安全装備を進化させ、車間距離を自動制御できるクルーズコントロールなどの運転支援機能も加えた。
その結果、2代目N-BOXの売れ行きは、注目を集めた初代を上まわる。初代N-BOXは発売の翌年となる2012年に月平均で約1万7600台を届け出したが、2代目は発売翌年の2018年に、月平均で2万台以上を届け出している。
初代のヒットによって膨大なN-BOXが保有され、その内の多くのユーザーが2代目に乗り替えたから、届け出台数がさらに増えた。また小さなクルマを購入するユーザーが従来以上に増加して、フィットなどからの乗り替えが進んだことも、2代目N-BOXが好調に売れた理由だ。
ホンダ 2代目フィット/2007年
ホンダ 2代目フィット(販売期間:2007年~2013年/全長3900×全幅1695×全高1525mm)
初代フィットは2001年に発売されてヒット作になった。発売時点ではエンジンは1.3Lのみで、グレードも3種類に限られたが、発売の翌年となる2002年には月平均で約2万900台が登録されている。この年の初代フィットは、軽自動車まで含めた国内販売の総合1位になった。
問題の2代目フィットは、2007年に発売されて、初代の機能をさらに高めた。新開発された1.3L・VTECエンジンを搭載して動力性能と燃費を向上させ、横滑り防止装置などの安全装備も充実させている。
発売の翌年となる2008年の登録台数は、月平均で約1万4600台だ。好調ではあったが、初代の2002年に比べると登録台数は約70%に留まる。N-BOXに似たパターンのフルモデルチェンジながら「2代目の売れ行きは冴えない」といわれた。
そこで2010年にはハイブリッドを加え、2012年(2011年は東日本大震災で落ち込んだ)には、月平均で約1万7400台を登録している。それでも初代フィットは抜けていない。
スバル 2代目レヴォーグ/2020年
スバル 2代目レヴォーグ(販売期間:2020年~/全長4755×全幅1795×全高1500mm)
先代(初代)レヴォーグは2014年に発売された。レガシィツーリングワゴンの後継車種に位置付けられ、走行性能、内外装の造り、安全装備、運転支援機能をバランス良く向上させた。発売の翌年となる2015年には、月平均で約2500台が登録されている。
登録台数自体は多くないが、レヴォーグは先代型でも売れ筋価格帯が300万~350万円と高く、スバルの国内販売店舗数はトヨタの約10%と少ない。これらの事情を考えると、先代レヴォーグはクルマ好きのユーザーの間で高い人気を得た。
2代目の現行型は、2020年10月に登場した。エンジンやプラットフォームは刷新したが、ボディサイズやデザインは初代を踏襲している。直近となる2021年1~5月の登録台数を見ると、月平均で約3300台だ。今後の動向は未定ながら、現行型の売れ行きは堅調だ。
現行レヴォーグは、先代型の優れた商品力を継承しながら、アイサイトXの採用で運転支援機能も進化させている。レヴォーグのユーザーが想定した期待どおりのフルモデルチェンジをおこない、新型への乗り替え重要を効果的に生み出した。
マツダ3/2019年
マツダ3(販売期間:2019年~/全長4460×全幅1795×全高1440mm)
今のマツダ車は、魂動デザインとSKYACTIV技術によって成り立つが、コンセプトやデザインは従来モデルから継承されている。最もわかりやすいロードスターは、初代モデルから車両の性格をほとんど変えていない。
マツダの主力商品とされるマツダ3も同様だ。日本で3代目アクセラとして売られた先代型と比べても、ボディサイズや車両全体の雰囲気は受け継がれている。
先代型は3代目アクセラとして2013年に発売され、翌年の2014年には、月平均で約3500台を登録した。2012年には先代CX-5、2014年には現行マツダ2(当時は4代目デミオ)も登場して活発に売られていたが、3代目アクセラも好調だった。
ところが2019年に発売された現行マツダ3は伸び悩む。発売の翌年になる2020年の登録台数は月平均で約1600台だ。コロナ禍の影響を受けたことを考えて、2021年1~5月の平均を割り出しても、同様に約1600台になる。
現行マツダ3は外観の個性が強く、特に5ドアのファストバックは後方視界も悪い。後席に座った時にも閉鎖感が伴う。人気の高いクリーンディーゼルターボは、排気量を先代型の2.2Lから1.8Lに下げたこともあって動力性能が物足りない。
価格は安全装備の充実もあって高めの設定だ。2Lの「20Sプロアクティブ」は251万5741円、ディーゼルの「XDプロアクティブ」は279万741円、火花点火制御圧縮着火方式を使うスカイアクティブXを搭載した「Xプロアクティブ」は319万8148円に達する。
このほか今のマツダにはCX-30なども用意され、SUVを中心に車種も充実してきた。身内との競争関係も災いして、マツダ3の登録台数は伸び悩んでいる。
トヨタ 4代目ハリアー/2020年
トヨタ 4代目ハリアー(販売期間:2020年~/全長4740×全幅1855×全高1660mm)
初代と2代目のハリアーはレクサス RXの日本仕様だったが、3代目はRXとは別の日本向けの設計になり、従来の都会的な艶っぽさに磨きを掛けた。
4代目の現行型は、エンジン、ハイブリッドシステム、プラットフォームなどを現行RAV4と共通化しながら、先代型の特徴だった都会的な雰囲気をさらに強めた。外観はリアゲートを寝かせた5ドアクーペ風で、内外装の質もさらに向上させている。走行安定性、乗り心地、静粛性も進化させ、衝突被害軽減ブレーキは自転車も検知する。
3代目の先代ハリアーは2013年に発売され、翌年の2014年には、月平均で約5400台が登録された。現行型は2020年6月に発売され、2021年1~5月の月平均は約8200台だ。
先代型に比べて好調で、現行型の販売目標とされる3100台も大幅に上まわる。メーカーの販売目標は生産を終えるまでの平均値だから、発売直後は上まわって当然といえるが、目標の2.6倍に達する車種は少ない。
ただし、このハリアーの人気は、差し引いて考える必要もある。現行ハリアーの発売とほぼ同時の2020年5月に、トヨタは国内の販売体制を見直して、全店が全車を扱うようになったからだ。従来のハリアーはトヨペット店の専売だったが、現行型は全店の4600店舗が売るから登録台数も急増した。
その代わりクラウンなどは、以前に比べて売れ行きを下げた。2021年1~5月のトヨタ車の国内販売台数は、前年同期に比べて約14%増えたが、国内市場全体でも約13%増加している。つまりトヨタ車が目立って売れ行きを伸ばしたわけではない。
今のトヨタ車では、販売体制の変化を受けて、人気車は売れ行きをさらに伸ばしている。逆に低迷気味だった車種は、一層落ち込んでいる。
かつての日産やホンダと同様、全店が全車を扱う体制に変わり、トヨタ車同士の競争が激化して販売格差も拡大した。この激しい競争のなかで、ハリアーは売れ行きを伸ばしている。
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みんなのコメント
それが現実。
特にMMMM思想に基づいて設計されたものは、5年程度では大きく変えることは難しいからね。