昨年秋、MX-30に発電用ロータリーエンジンを搭載したPHEVが登場して、ロータリーエンジン(RE)に並々ならぬ思い入れを抱くオールドファンをザワつかせているわけだが、今から34年前、優雅な2ドアスペシャルティクーペに3ローターエンジンを搭載したモンスターが世を沸かせた。その名はユーノス・コスモ。こいつがとにかく強烈な個性を放ちまくっていたのであった!!
文/梅木智晴(ベストカー編集委員)・写真/ベストカー編集部
見かけによらず超じゃじゃ馬!! 唯一無二の3ローター搭載市販車 ユーノスコスモの衝撃が忘れられん!!
世界で唯一、3ローターエンジンを搭載する市販車
ユーノス・コスモは1990年4月、4代目コスモとして登場した。280ps、41.0kgmを発揮する20B型3ローターエンジンを搭載
コスモという車名はマツダにとっては伝統あるスポーツクーペのネーミングだ。その端緒は1967年5月に発売されたコスモスポーツに遡る。コスモスポーツは世界初の実用的・量産ロータリーエンジン(10A型)を搭載したモデルで、コスモはその後、1975年登場に2代目、1981年登場の3代目と各モデルでロータリーエンジンを搭載した。
1967年5月、実用的量産ロータリーエンジンとしては世界初となる10A型(110ps、13.3kgm)を搭載したのが初代コスモとなる「コスモスポーツ」だった
そして1990年4月に登場した、コスモとしては4代目となるのがユーノス・コスモだった。マツダはこの時代販売チャンネルの拡大をはかっており、「ユーノス」は前年に登場したロードスターも扱うスポーティカーブランドとして位置づけられていた。全幅1795mmのボディは、2ドアスペシャルティカーとしては初の3ナンバー専用ボディだった。
1975年10月に登場した2代目コスモ。12A型ロータリーエンジン(125ps)、13B型ロータリーエンジン(135ps)を搭載
ユーノス・コスモと言えば、世界で唯一の3ローターエンジン「20B」型を搭載したことで話題となった。マツダがそれまで市販車に搭載したロータリーエンジンは10A型(491cc×2)、12A型(57cc×2)、13A型(655cc×2)、13B型(654cc×2)と、いずれも2ローターだった。グループCマシンなどのレース用には4ローターエンジンがあったが、市販車では2ローターまでで、3ローター以上はなかったのだ。
1981年9月にデビューした3代目コスモ。1982年にはロータリーエンジン初のターボ12A型ターボ(160ps、23.0kgm)搭載車を追加
この20B型3ローター、シーケンシャルツインターボがとにかく強烈だった。
時はまさに国産車ハイパワー化時代の真っただ中。前年1989年にはR32型スカイラインGT-Rが登場し、フェアレディZはZ32型にモデルチェンジした。スカイラインGT-R搭載されたRB26DETT、フェアレディZ300ZXツインターボに搭載されたVG30DETTはともに最高出力280psを発揮し、その後に続く「280馬力自主規制」のきかっけとなった。
ユーノス・コスモに搭載された20B型3ローターエンジンは最高出力280ps/6500rpm、最大トルク41.0kgm/3000rpmを誇り、GT-RやZよりも大トルクをアピールした。
ユーノス・コスモに搭載された20B型ロータリーエンジンは2ローターの13B型にハウジングを追加して3ローター化したもので「654cc×3」と排気量は表記される
ヤタベでゼロヨン 昇り龍のようなタイヤスモーク タイヤが空転して前に進まない!!
ベストカー1990年5月26日号では早速コスモをヤタベに持ち出して動力性能テストを実施している。かくいう私ウメキ、このテスト現場にいて、鮮烈な記憶が今も脳裏から薄れない。
1990年4月、早朝のヤタベでユーノス・コスモの動力性能テストは実施された。ドライブするのは竹平素信氏だ
テストドライブはタケちゃんマンこと竹平素信氏。ヤタベの高速周回路で小野ビットを背負った真っ赤なコスモがスタートダッシュを試みる。スタートライン上で左足ブレーキでスロットルを踏み込むと停車状態で後輪が空転を始め、もうもうとタイヤスモークが立ち上る。
「左足をリリースすると同時にスロットル全開! ここでボクは強烈な加速Gを期待した。が、どうだ。あまりのホイールスピンで、予想に反してノロマなダッシュになってしまったのだ。完全なスタートミスである」
竹平さんの当時のレポートをそのまま再掲した。低速からドンと立ち上がる強力なトルクによって、予想以上にタイヤの空転が大きくゼロヨンタイムは15秒を切れなかったのだ。スタート地点で計測要員をしていた私は、思わず手を叩いて笑ってしまった。どこまでもホイールスピンが止まらないままタイヤスモークが大蛇のようにコスモにまとわりついて天へ昇っていくのだ。あまりの迫力に思わず笑いが出たのだ。
3000rpmで最大トルクの41.0kgmを発揮する20B型ロータリーターボ。4速ATということもあり、スタートダッシュのアクセルコントロールはシビアだった
「ふつうのAT車なら、スタートラインで左足でブレーキを踏み、スロットルをいっぱい踏んでブレーキをリリースする。それだけでOK~中略~しかしコスモは超ド級のパワーの持ち主だ。低速トルクもたっぷりある。こうなるとスタートダッシュがとてもシビアになるのだ」(竹平さんのレポート)
あえてホイールスピンを抑えるアクセルワークで三度目のトライをした竹平さん。今度はスタート地点で見ていてもまったく迫力を感じないスタートシーンだったが、“スキョキョキョキョ~”と、軽いスキール音を残しながらググっとテールを沈み込ませた赤いコスモは弾き飛ばされたように加速していく。これは素晴らしいスタートダッシュだ!
ゼロヨンタイムは14秒02。フェアレディZツインターボの5MT車が13秒95をマークしていたことから、竹平さんとしては何としても13秒台を狙ったようだが、4速ATのコスモでは微妙なアクセルワークによるトラクション確保が困難でタイムアップは果たせなかった。でも、14秒02はこの当時としてはトップクラスの加速性能だ。
優雅なスポーツクーペなんだけど走りは超じゃじゃ馬!! そして燃費は極悪
この有り余るトルクを受け止めるシャシーはというと、イマイチキャパ不足が否めなかった。豪快なホイールスピンも、タイヤの接地変化をもう少し抑えるサスジオメトリーにできていればずいぶんと穏やかにできたのだろう。
そんなわけで山道ではちょいとばかりアクセルの踏み方に気を遣う必要があった。タイトターンの立ち上がりでアクセルを不用意に踏み込むとスパンとリアタイヤが流れ出す。雨の山道ではなおさら右足の力加減に神経を尖らせたものだ。優雅な姿に似合わぬじゃじゃ馬ぶりだった。
サーキットならばこんな走りも豪快だが、シビアなアクセルワークが求められた。特にウエットの山道は慎重に走ったものだ
ロータリーエンジンは燃費の悪さがこの当時は指摘されていたが、コスモの20B3ローターはとにかく燃費が悪かった。当時の10モード燃費で6.1km/L。ヤタベでの動力性能テストでは、冗談ではなく燃料計の針がみるみる減っていく動きがわかるほどだった。当時の記録を見るとヤタベの往復区間を含めて満タン法による燃費は2.5km/L。普通に箱根を往復するような取材でも4~5km/L前後だった。うーん、今の感覚からすると恐ろしい数字だ。
上質なインテリアトリムやシート表皮を採用し、マツダ最上級スポーティクーペとして優雅でプレミアムな雰囲気を醸し出した。世界初のGPSカーナビ搭載車を設定
そしてもうひとつ、ユーノス・コスモの「初めて」はGPSによるカーナビシステムの搭載。GPSの精度が現在ほど高くなかったこともあって、箱根スカイラインを走っているのにナビ画面では芦ノ湖の中にいるようなこともあった。なんたって34年前だからねぇ。
そんなユーノス・コスモは1996年6月をもって販売を終了。3ローターエンジンも同時に姿を消したのだった。
最上級の20B「タイプE]にCCCSと呼ばれたGPSカーナビを装着すると価格は530万円(1990年登場時)だった。ルーフ後端の出っ張りはGPS受信アンテナ
20B タイプS:420万円 タイプE:465万円
13B タイプS:330万円 タイプE:370万円
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みんなのコメント
まあ燃費を気にするなら乗らなければ良い、車を楽しむなら気にするなってことだね。
市街地はいいとこ4〜5㎞/ℓ程度だろ
そんなに変わらないよ