2021年11月17日、北米日産は、北米版のエクストレイルである「ローグ」の2022年モデルに、可変圧縮ターボの1.5L、VCターボエンジン搭載モデルを追加すると発表した。
北米市場のローグは、2020年10月にフルモデルチェンジでは、2.5Lガソリンモデルのみであったが、今回、1年ぶりの新グレード追加ということになる。
「ほぼ同じ」から「顔も激変」まで超多彩!! 兄弟車の意外な違いと明確な狙い
今回ローグに追加されることが明らかとなった「VCターボ」は、中国市場向けの新型エクストレイルにも採用されているエンジンだ。
現時点(2021年12月初旬時点)、日本市場向けの新型エクストレイルに関しては、ノーアナウンスの状態。
国内向けの新型エクストレイルのパワートレインについては、e-POWER一本、もしくは、アウトランダーPHEVと兄弟車となったことで、プラグインハイブリッドもあるか、という予想をしていたが、今回ローグにVCターボガソリンエンジンが追加となったことで、こちらも気になるところとなった。
はたして、電動化時代が来る前に、この魅力的なVCターボを搭載したモデルの日本導入はあるのか? 日本仕向けの新型エクストレイルのパワートレインはどうなるのか、考察していこう。
文/吉川賢一
写真/日産
[gallink]
■VCターボガソリンモデルの日本発売の可能性はないのか?
北米では2020年10月から新型ローグ(エクストレイルの北米名)の2.5Lガソリンモデルが発売開始。2022年モデルに可変圧縮ターボの1.5L、VCターボエンジン搭載モデルを追加する
2020年5月に発表した「事業構造改革計画/NISSAN NEXT」における宣言通り、日産は、キックス(2020年6月)、ノート(2020年12月)において、e-POWER一本としてきた。オーラなどのノートの派生車たちももちろん、e-POWERのみだ。
売れ筋となるはずの安価なガソリン仕様を用意しない、という暴挙ともいえる判断で心配をしていたが、台数的には減ったものの、滑り出しはまずまずの様子。なかでもノートオーラが販売好調で、デザインや性能などの評判が高く、バックオーダーも相当数かかえているという。
新型エクストレイルでも、国内においてはガソリンモデルを用意せず、ベースグレードをe-POWERとしてくるはずだ。「日産=電動車ブランド」というイメージを植え付けるため、そして、世界市場へ「日産の先進性」をアピールするためにも、「最低でもe-POWER」となるのは間違いないだろう。
重量が軽く、軽快な回転フィールで、かつ高出力と低燃費も狙った、新世代のVCターボエンジンを積んだピュアガソリン車は、筆者としてもぜひエクストレイルで味わいたいところであるが、残念ながら、国内日産のラインアップに並ぶことはない、と筆者は考えている。
上海モーターショーで発表された新型エクストレイルは、1.5LのVCターボモデル。中国市場には2025年までに新型シルフィを含む6車種のe-POWER車を用意する、としており、おそらく中国仕向けのエクストレイルにも、e-POWERモデルが登場するはずだ
■VCターボは、e-POWER発電用エンジンとして搭載
VCターボエンジンは、ピストン上/下死点位置を連続的に可変するマルチリンク機構を採用し、燃費とパワーを決める圧縮比を切替えることで低燃費とハイパワーを両立した量産型世界初のエンジン
北米でも中国でも、「エクストレイルe-POWER」はまだ登場はしていない。ただ、欧州市場では「新型エクストレイルではe-POWER搭載車が入手できるようになる」と、e-POWERの設定が明言されている。
欧州といえば、日産の欧州専売SUVである「キャッシュカイ」に、2021年、新型が登場。新開発の12Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせた1.3Lの直噴ターボエンジンのほか、1.5LのVCターボを、発電用エンジンとした「e-POWERターボ」が搭載されている。
ダメ元で、日産に、日本市場向けの新型エクストレイルに関して電話取材をしてみたが、「日本仕向けとしてVCターボエンジンを搭載するのか、e-POWERを搭載するのか、といった将来の商品ラインナップに関しては、現時点、明言できません」という回答。残念ながら、ヒントすらもらえなかった。
「e-POWERターボ」は、(新型キャッシュカイの数値ではあるが)最高出力187ps、最大トルクは330Nmにもなるという。このスペックは、エクストレイルの「オフロードもこなすオールラウンダー」というキャラクターをよりひきたてるものであり、かなり期待できる。
■「e-POWERターボ仕様が300万円未満で登場」と予測
従来型のエクストレイルの長所のひとつが、車内が広いわりには価格が安いこと。4WDのSUVが税込248万円で購入できる(2列シートの2Lガソリン「20S Vセレクション」)なんて、「超」が付くほど安い。もちろん、装備は簡素ではあるが、「ガシガシ使うSUVなんてこんなもんでよい」という方には、エクストレイルは最適だ。
現行のエクストレイルの価格は、2.0L直4ガソリンの「20S Vセレクション(4WD)」が税込248万円、「20S HYBRID(4WD)」が税込297万円という超破格でラインアップしている
ピュアガソリンモデルを用意しないとなると、新型での価格上昇は避けられないところではあるが、「お得感」を演出するため、e-POWER最安グレードで300万円をやや切る「魅せ玉」が用意されるのでは、と筆者はみている。
■日産は「やめるとは言っていない」
ホンダが、2035年にはガソリンエンジンをやめるという決断をした。VTECやF1用エンジン開発など、エンジン技術で鳴らした自動車メーカーによる宣言は、ホンダファンならずとも衝撃を受けるものだった。
日産も2021年11月29日、EV開発に5年で2兆円もの投資を行うこと、さらには、全固体電池の「28年度の実用化」を目指すと発表した。ただ日産は、「ガソリンエンジンを今すぐやめる」とは言っていない。
日産は、新型キャッシュカイへe-POWERターボ搭載を発表したタイミングとほぼ同時期に、次期型e-POWER専用の、発電専用ガソリンエンジンで熱効率50%を実現できる技術も公開している。
VCターボエンジンは、マルチリンクの角度を変えることで低燃費の圧縮比14:1からハイパワーの圧縮比8:1を連続的に可変できる(写真左が低燃費時、写真右がハイパワー時)
1.圧縮比の変更が必要な場合、ハーモニックドライブがアクチュエータアームを動かす。2.アクチュエータアームがコントロールシャフトを回転させる。3.コントロールシャフトの回転によってLリンクを動かし、マルチリンクの角度を変える。4.マルチリンクはシリンダー内のピストンストロークの上下位置を調整し、圧縮比が変更される
エンジンの使用領域を最も効率のいいポイントに限定することで、エンジン燃焼を高効率化する。将来的には、バッテリー技術やエネルギーマネジメントの進化と併せて、エンジンの運転条件範囲を効率的な領域で使用し、完全な「定点運転」とすることで更に熱効率を向上させる、という。
新技術が商品に落とし込まれ、世に出始めるには、まだあと数年はかかるだろうが、第3世代のe-POWERとして、遠くない将来、登場することは間違いない。
■全セグメントでe-POWER化か!?
日産は、BセグメントからDセグメントまでを、排気量違いのe-POWERで統一してくるのでは、と筆者は考えている。
アルティマやマキシマ、ムラーノ、そしてスカイラインまでもが入るDセグメントも、100%モーター駆動として、動力源をバッテリーとするか(バッテリーEV)、エンジンとするか(e-POWER、もしくはプラグインハイブリッド)は、セグメント毎に切り替える。
ただちにエンジンが消えるわけではなく、エンジンの使い方を変えながら、CO2排出量の削減に努めていく、という戦略だと、筆者は予想している。
これらが本当に実現できるのならば、あと10年後には、パワートレイン事情が「ガラッ」と変わる可能性がある。新型エクストレイルのVCターボガソリンエンジンは見たかったところだが、未来もなかなか楽しみだ。
まずは、年初には(ようやく)登場するはずの日本向け新型エクストレイルが、予想を「いい意味」で裏切ってくれることを、楽しみに待ちたい。
中国版エクストレイルはリアスタイルも北米ローグそのまま。ボディシェイプがボクシーに仕上がっており、日本でもこのまま発売されればなかなかカッコよい
[gallink]
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