ボーダーレスな近年のオートサロンを象徴するような展示
チューニングカーやカスタムカーの世界を広く知らしめるべく始まった「東京オートサロン」。当初は「東京エキサイティングカーショー」という名称で、お行儀の良いメーカー系王道イベントともいえる東京モーターショー(現・ジャパンモビリティショー)に対して、ちょっと不良っぽいカウンターカルチャー的なイメージもあったが、それも今は昔。1983年以来すでに40年以上の歴史を積み上げてきた東京オートサロンは、いまや日本独自の自動車文化を発信する一大イベントとして世界的にもその知名度は高い。本稿では、そんな東京オートサロン2024で見つけた気になるクルマをピックアップしてご紹介する。
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正真正銘の「蠍」が登場
前述のように、もともとはオイルで汚れたツナギが似合うような、ある意味硬派な印象も強かった「東京エキサイティングカーショー」も、1987年に「東京オートサロン」と名称を変更してからは次第に、老若男女を問わず楽しめる多彩なコンテンツが用意されるイベントへと進化してきたわけだが、特にそのことを感じるのは、オリジナルの美少女キャラを核とした音楽、ゲーム、各種配信サービスなどと実車趣味世界との融合。いわゆる「アキハバラ」的な世界観が、会場内のそこここで散見される点。
そして、そんなボーダーレスな近年のオートサロンを象徴するような展示をおこなっていたのが「Project Rabbie(プロジェクト ラヴィ)」のブースだ。
ブースにディスプレイされていた実車はアバルト「207A」。このイベントで展示されるアバルトといえば、ほとんどは現行の「595」や「695」ベースのカスタムカーだが、こちらはアバルトがまだ独立したメーカー、レーシングカー・コンストラクターだった時代の正真正銘の「蠍」だ。このアバルト207Aとは、1949年に自身の会社を立ち上げた名チューナー、カルロ・アバルトが1955年のトリノ・ショーで発表した2座のレーシング・ロードスター。
アバルト独自の箱型断面のシャシーとフロアパンに載せられたボディはカロッツェリア・ボアーノの手によるもの。搭載されるエンジンは「フィアット1100」の1089ccをベースにキャブをツインチョーク・ウェーバー2基とし、圧縮比アップ、独自のインレットマニフォールドやドライサンプ化などによって、オリジナルの倍近い66psまでスープアップされている。
欧州や北米でのスポーツカー・レースへの参戦を見据えて登場したアバルト207Aは、その未来的なボディ・デザインとともに大きな注目を集めたが、当時の1100ccクラスには「ロータス11」などの強力なライバルがひしめいていたこともあり、サーキットにおいてはカルロ・アバルトが期待したほどの戦績は残せなかったようだ。アバルトが小排気量クラスで無敵の存在となるのはもう少しだけ後、1950年代後半以降のことである……と、いったところで改めて。
ふたごうさぎが乗っているのはアバルト207A
そんな博物館級のアバルト207Aがなにゆえ美少女キャラの等身大パネルが多数ディスプレイされているProject Rabbieのブースに? というわけで素朴な疑問をブースで笑顔を振りまいていたお嬢さん方に聞いてみた。
「“ふたごうさぎのご近所ツーリズモ”っていうゲームなんです! ふたごのうさぎがご近所で大冒険を繰り広げるドライブアクション・ゲームです!」
「双子の姉妹は鈴乃音ミウとリントって言います!」
「Nintendo Switchでの発売も決定しました! CDやオリジナル・グッズも出ているんで買ってください!!」
ブースに設置されているディスプレイのデモ画面をよく見ると、たしかにふたごうさぎが乗っているのはアバルト207Aであった。改めて聞けば、もちろんコスプレ彼女たちがリアル世界でアバルト207Aで走ることはなく、これはどうやら社長の趣味らしい。一見カオスのようでいて、じつは懐の深いボーダーレスな東京オートサロンなのである。
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