自動車番組の司会者といえば、この人
リチャード・ハモンドは、国際的に人気のある自動車番組で23年間世界中を放浪してきたが、今では英国ウスターシャーの田舎に驚くほどよく馴染んでいる。
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彼は10年以上、ロス・オン・ワイという町の近くに住んでいるが、自宅から30分ほど離れた工業団地に2021年に設立された「The Smallest Cog」というクラシックカーのレストア事業もあり、地元では急速に知られるようになった。
そして、レストア事業から生まれた配信番組『Richard Hammond’s Workshop』でも有名だ。
The Smallest Cogの設立は、ハモンドのクラシックカー・コレクションを何年にもわたって手入れしてきたニール・グリーンハウス、息子のアンソニー、弟のアンドリューという地元のレストアチームと関係している。
彼らは突然、ヘレフォードに借りていた賃貸物件を去らざるを得なくなった。技術者仲間を失いたくなかったハモンドは、そこでクラシックカーの仕事を請け負う事業の立ち上げを提案したのだ。
ハモンドは、テレビを離れても自身のレストア事業を持ちたいという願望を常に抱いていた。だからこそ、高級モデル(ジャガーEタイプや手付かずのベントレーなど)を思い切って売却し、リフトや工具置き場、最新鋭の塗装ブースなど設備の購入資金に充てたのだ。
The Smallest Cogには、予備スペース付きの中2階、テレビ関係者用の制作事務所、そしてハモンド自身のささやかなオフィスまである。12月のある朝、我が編集部7名がそこに詰めかけた。本誌AUTOCARのポッドキャスト『My Week In Cars』のクリスマス版を録音するために。
旧車のレストア事業にかける熱い想い
我々は2名のカメラマン(スチール、映像各1名)を連れていたが、ハモンド側からは『Richard Hammond’s Workshop』の番組収録のため、さらに2名のカメラマンが来ていた。ハモンドはセッティングの騒々しさには慣れていて、にこにこ笑いながら話してくれた。
爽やかな年末の朝だったが、階下の工房はスタッフによる3日間の大掃除の真っ最中であった。
今年の功績の1つに、1962年式オペル・カデット(通称オリバー)が英国のクラシックカーイベント「Festival of the Unexceptional」で賞を獲得したことが挙げられる。しかし、ハモンドの野望はそれだけにとどまらない。
「僕らはまだちゃんとしたことができていない。完璧な仕事をしたくても、大抵はオーナーの予算に制約されてしまう」とハモンドは言う。
「でも、夏にハンプトン・コート・パレスで開催されるコンクールの芝生を飾るような、完璧なショーカーを作りたい。そこで、僕の愛車フォード・エスコートRS2000の改造を計画しているんだ」
「きちんとした、妥協のないマシンにしたい。テレビで有名な男のものだからではなく、レストアが完璧だから招待してもらえるようにね。そのための技術はある」
この先3年は仕事でいっぱい?
『グランド・ツアー』の仲間たちと同様、ハモンドは軽口を叩きながら陽気に過ごしているが、それでもThe Smallest Cogの目的はクルマであり、エンターテインメントではないという印象を、かなり早い段階から受ける。
「番組は二の次。人のお金を預かるのだから、クルマに対しては真剣でないといけないし、仕事の質で判断されることになる。下の階(工房)の人たちは一流の技術者であって、役者ではないんだ」
ハモンドによれば、クラシックカー関連の仕事は工房に直接持ち込まれたり、ウェブサイトを経由したりしてやってくるという。
「今後3年間はここを埋め尽くすほどの仕事がある。だから、もっと大きくしなくちゃいけないと思う」
地元に残るか、という問いに対しては「もちろん」という前向きな答えが返ってくる。
「ウスターシャーは大好きだ。毎週月曜日の朝、誰もいなくならない程度にロンドンからも離れているしね」
内燃エンジンは何も傷つけていない
ハモンドは、クラシックカーだけでなく、すべてのクルマの良さを熱心に語る。その情熱を裏付けるかのように雄弁だ。
「人はシェルターとして家を必要とする。それ以外のものは、外に出て手に入れないといけない。それを助ける機械は重要な発明だった。だからクルマは止まることなく、変化していくだろう」
「僕らは未来を歓迎しなければいけない。物事は変わらざるを得ないだろうし、僕らを救うのはエンジニアリングだろう。一度作ったクルマを再利用したり、水素燃料電池や水素燃焼を採り入れたり、ハイブリッド車を成功させたり、電気自動車をたくさん作って売ったりと、いろいろな解決策を受け入れる必要がある。将来のクルマがすべてバッテリーEVになるには、世界にはリチウムが足りない」
ハモンドは持続可能な燃料に特別な関心を抱いており、そのコストや開発に関する知識が豊富だ。「内燃エンジンは決して何かを傷つけたわけではない」と言う。
「悪いのは燃料だ。もし燃料が持続可能かつ大規模に製造できるのであれば、世界14億台のクルマの大半を残せるし、僕のような連中が修理できる。1年前よりも良い兆候が見えてきている」
『トップ・ギア』出演の意外な経緯?
ハモンド、ジェレミー・クラークソン、ジェームズ・メイが過去5シリーズ6年にわたって制作してきた壮大な配信番組『グランド・ツアー』の終了を英タイムズ紙が報じたまさにその日に、我々は取材にやってきた。
新聞各紙は、最終シリーズの撮影はジンバブエで行われたとしているが、ハモンドは真剣な顔つきで首を横に振る。世間では、『グランド・ツアー』の後援者であるアマゾンが英BBCと共謀して、新たな『トップ・ギア』の配信を構想しているのではないか、という荒唐無稽な憶測もあるようだ。ハモンドは無言である。笑顔ですらない。
ハモンドは幼い頃からメディアに出演したかったという。テレビの前は、地元のラジオ局でジャーナリスト兼司会者として10年のキャリアを積んだ。「それで、テレビの自動車番組の編集者と知り合うために、ルノーUKの広報部に就職したんだ」
それがグラナダ・テレビジョンの男性向けライフスタイル系番組『Men and Motors』への準レギュラー的参加につながり、最終的には『トップ・ギア』のオーディションに行き着いた。
その過程で、英ツーリングカー選手権(BTCC)のスター選手、ジェイソン・プラトンにチャンネル4の新番組『Driven』のプレゼンターの座を奪われ、「とても腹が立った」ことを今でも覚えているそうだ。
「僕はすでにジャーナリストやテレビ司会者としての訓練を積んでいたので、動揺したよ。ジェット機の着陸を歯医者には頼まないだろう?」
ハモンドがチェルトナムに住んでいた2000年、世界は変わった。代理人から『トップ・ギア』への出演オファーの連絡がきたのだ。「彼女(代理人)は、僕には無理だろうけど、それでも制作チームに会いに行くべきだと言ったんだ」
「妻との間にちょうど子供が生まれるころだったから、僕はずっと愛用していたフィアット・バルケッタを4人乗りの、いつ爆発するかわからない古ぼけたポルシェ911 SCに乗り換えた。それに乗って、ジェレミー(・クラークソン)とTGプロデューサーのアンディ・ウィルマンに会いに行ったんだ。2人はそれを見て、僕が本物だと思った」
「ジェレミーと一緒に仕事をした後、帰る時間になってしまったので、そろそろ “ナム” に帰らなきゃと伝えた。ナムっていうのは、チェルトナムのことね。それを面白がられたんだ。実のところ、僕が仕事につけたのはそのおかげだって言われている」
友情、愛車、ジャーナリズムについて
――メイやクラークソンとの友情
「もちろん友人さ。僕らがこれ以上一緒に過ごしたら、同じ家に住むことになる。もちろん、時には言い争うこともある。番組の中でも議論する。でも、連絡は取り合っている。今朝、みんな(取材陣)が来る前にもジェームズと話したよ。僕の野望は、ウィルトシャーの彼のパブから出入り禁止になることだね」
――今後5年間の目標
「The Smallest Cogをもっと大きくしたい。僕らのレストアしたクルマが品質を認められて、最高の自動車ショーでリクエストされるようになりたい。オフィスのこの棚を “ベスト・イン・ショー” 賞で埋め尽くしたいよ。何よりも、僕は今やっていることを続けたいし、そのすべての一部でありたい」
――壊滅的なテレビの損傷を「一晩」で修復したって?
「何の不思議もない。自分たちでやるんだ。徹夜するだけさ。ここにはクルーもちゃんといるけど、時には僕が雑用をしなければいけない。スバルのウィッシュボーンを1人で溶接して元の状態に戻したこともある。でも、 “一晩でやった” かどうかに関しては、想像にお任せするよ」
――愛車について
「足として使っているのはフォードのレンジャー・ワイルドトラック。それからポルシェ911 GTSコンバーチブル、ボウラー社が息を吹き込んだ旧式のランドローバー110、グランド・ツアーで運転したスバルWRX STi、他にもグランド・ツアーのクルマが何台かある」
「62年型EタイプOTSコンバーチブルと、もう1台フルレストアが必要な62年型のクーペがある。67年型フォード・マスタングGT390もあるし、もちろんバイクも。かなり多いね。自由を満喫しているよ」
――ジャーナリストという仕事について
「自動車ジャーナリズムにとって、これほど重要でエキサイティングな時期はない。人々は、こういう大きな変化の時に、知識と信憑性のあるジャーナリストから話を聞く必要がある」
――テレビ番組における台本のない出来事
「計画はたくさんある。何か面白いことが起こると期待してビルマ(ミャンマー)に向かうことはできない。でも、いろいろなことが起こるんだ。ある時スコットランドで、ジェレミーのクルマが牽引しているはずのキャラバンに追い越されたんだ。まったくの予定外で、偶然だった。あれは最高の瞬間だったよ。それに、うっかり誰かの漁船を沈めてしまったこともあった。当時はいろいろなことが台本に書かれていたけど、あまり関係なかったね」
――クルマで粗暴なことをする人たちについて
「大嫌いだ。昔は学校で問題を起こしては楽しんでいたけど、今はしない。他の連中はそういうことが大好きだ。彼らはトラブルを探すのが好きで、よく見つける。僕はなるべく近づかないようにしているよ」
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