毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
シルビアよりこいつが欲しかった!! 日産180SXが走り好きの支持を集めた理由は?
しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はトヨタ イスト(2002-2016)をご紹介します。
文/伊達軍曹 写真/TOYOTA
【画像ギャラリー】そのままの路線を守ればあるいは今も…!!? トヨタ イストをギャラリーで見る
■ヴィッツと共にフィットの独走に待った! コンパクトクロスオーバーの先駆けとなったイスト
初代は、今で言う「コンパクトクロスオーバー」の先駆けとして2002年に登場し、スタイリッシュなデザインと欧州車風の引き締まった走りでスマッシュヒットを記録。
しかし北米でも展開することを前提に設計された2代目は中途半端に大ぶりなサイズとなり、同時にデザインも大味になったせいか、人気は低迷。
そのため2016年、ヴィッツに統合される形で姿を消したコンパクトカー。
それが、トヨタ イストです。
2002年5月に発売された初代イストは、ヴィッツやファンカーゴ、初代bBなどによってコンパクトカーのシェアを大幅に高めていた当時のトヨタが「新ジャンルのコンパクトカー」として開発したモデルです。
初代ist(イスト・2002-2007)。全長×全幅×全高は3855×1695×1530mm、ホイールベースは2370mm。ヴィッツと同じプラットフォームが使われた
プラットフォームは初代ヴィッツから使われたNBC(ニュー・ベーシック・コンパクト)で、そこにヴィッツよりひと回り大きな15インチタイヤと、SUV的に大きく張り出したホイールアーチ、ワイドで立体感のあるフロントグリル、サイドからリアに回り込むウインドウグラフィックなどを組み合わせました。
搭載エンジンは最高出力87psの1.3Lと同109psの2L直4で、トランスミッションはフレックスロックアップ機構を組み込んだ4速AT「Super ECT」です。
前後輪にはわざわざスタビライザーを配し、その乗り味は「路面が悪い箇所では突き上げ感がある」というものではありましたが、どこか欧州車にも通じるニュアンスもありました。
「SUV」あるいは「クロスオーバー」という単語がまだ市民権を得ていない時代ではありましたが、コンパクトクロスオーバーSUVの先駆けといえた初代イストは、ひとクラス上の内外装デザインと装備内容、そしてその割に価格は手頃ということで人気を博し、発売2週間で月販目標7000台の2倍の数を受注。
結果として発売1カ月で4万2000台を受注しました。
そんなトヨタ イストは2007年7月に2代目へとフルモデルチェンジされました。
2代目(2007-2016)。全長×全幅×全高は3930×1725×1525mm、ホイールベースは2460mmへと拡大。北米では「サイオンxD」として販売された
しかし2代目は、当初から北米の「サイオン」ブランドで展開することを想定していたため、1695mmだった全幅は「1725mm」の3ナンバーサイズとなり、エンジンも1.3Lを廃止する代わりに1.8Lという、日本のコンパクトカーとしてはいささか中途半端な排気量が採用されました。
北米向けの「大味」といえそうなデザインになったせいもあったでしょうか、2代目イストの販売はふるわず、知名度と存在感は日に日に低下していきました。
それでもトヨタは何度かの一部改良を行って2代目イストの商品力向上に務めましたが、結局セールス状況は低迷したまま2016年4月に生産終了。
そして翌5月には、販売のほうも終了と相成りました。
■北米向けの「全幅1695→1725mm」という選択が命取りに
初代のデビュー当初は爆発的に売れたトヨタ イストが、2代目で廃番となってしまった理由。それは、「中途半端に大きくなったから」ということに尽きるでしょう。
初代イストは当初国内専用車でしたが、途中から北米トヨタのサイオンブランドで「サイオン xA」としても販売されるようになりました。
しかし2代目イストは、最初から北米での展開を想定していました。
そうなると1695mmという全幅は、コンパクトカーといえども北米基準では小さすぎるため、2代目イストの全幅は1725mmとなったのです。
また広大なアメリカを走るうえでは1.3Lエンジンでは小さすぎるという判断からか、エンジンも初代の「1.3Lまたは1.5L」から「1.5Lまたは1.8L」という組み合わせに変更されました。
ボリューム感を増し、全幅も1725mmへと拡大されたイスト。だがこれが命取りとなる(写真は2代目)。なおist(イスト)の名は「Stylist(スタイリスト)」「Artist(アーティスト)」のように、「~をする人」という意味を表す接尾辞に由来する
このあたりの判断は、北米基準というかグローバル基準で物事を考えるのであればきわめて妥当であり、また1725mmという全幅も、今となっては「カワイイもの」といえる程度のサイズ感でしかありません。
しかし2代目トヨタ イストが登場した2007年の段階では、「小型車の車幅が3ナンバーサイズである」というのは、ユーザー心理として許容しかねるものでした。
また税金の面で中途半端に不利になる「1.8Lエンジン」というのも、日本市場とは相性の悪い排気量でした。
当時のトヨタが「いや、それでもイケるはず!」と自信を持って2代目をGoさせたのか、あるいは「ちょっと難しいかもしれないけど、今や日本市場だけを見て車を作るわけにもいかないし……」的な判断で2代目イストの国内販売をスタートさせたのかは、筆者にはわかりません。
初代のリアビュー。前後の足まわりにスタビライザーを装着。さらに後輪のサスペンション自体にスタビライザー効果のあるトーションビームを別途備え、走りの安定性に優れた
しかしいずれにせよ当時の日本市場は、2代目イストに対して数字で「No!」と言いました。
2代目イストは「ものすごくいい車だった」とはいえないかもしれませんが、少なくとも「そんなに悪くない車」ではありました。
そして寸法も、3ナンバー枠になったとはいえ前述のとおり「今にして思えばカワイイもの=特に大きすぎるわけではない」というものでした。
しかしそれは2021年の今だからそういえることであって、2007年当時であれば、筆者も「コンパクトカーとしてはちょっとデカすぎるかな……」みたいに難色を示したかもしれません。
全幅1765mmのヤリス クロスが売れに売れている今の視点で見ると、「1725mmごときで何騒いでんだ?」という話ではあるのですが、2007年から2010年代初頭あたりというのは、まだまだ人々が「1695mm」という数字に重きを置いている時代だったのです。
■トヨタ イスト(2代目)主要諸元
・全長×全幅×全高:3930mm×1725mm×1525mm
・ホイールベース:2460mm
・車重:1170kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、1797cc
・最高出力:132ps/6000rpm
・最大トルク:17.5kgm/4400rpm
・燃費:15.4km/L(10・15モード)
・価格:189万円(2007年式 180G)
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みんなのコメント
1.5Lの間違いだろ
やめた理由は・・後席にまともに座れない(旧型は座れた) 可笑しなメーターw 僅かな車幅変更と言うが、すごく広くなってしまった感覚。 それに旧型に比べるとビックリするくらい価格が高かった。