2021年12月に発売された新型スズキアルトは、従来のモデルのコンセプトを踏襲して、優れたコストパフォーマンスを発揮する形で登場した。ジャストサイズで取り回しも良く、燃費といった環境性能も優秀だ。
安全装備の義務化に伴って、すべてのクラスの乗用車の価格が上がる中、アルトには100万円を切る「A」グレードが存在する。いわゆる最も安いモデルは、装備が大幅に簡略化され、たびたび物足りない仕上がりとなっている。
100万円を切る高コスパ軽のスズキアルト「A」グレード!! 試乗して分かったその実力!!
そこで注目のアルト「A」グレードの実力を西村直人氏にレポートしてもらった!
文/西村直人、写真/Suzuki、ベストカー編集部
■100万円を切る新型アルトのお手並み拝見!
2021年12月登場の新型スズキ アルト。写真の「A」グレードは94万3800円と、100万円を切る価格設定がされた
2021年12月の登場時に、「100万円を切る車両価格」が話題だった軽セダン「新型アルト」(9代目)。でも、安かろう、悪かろうでは意味がない。そこで税込み94万3800円の「A」グレード(エネチャージ搭載)の実力はどれほどなのか、市街地、高速道路、ワインディング路など計300kmを一気に走らせてみた。
ちなみに、アルトと双璧をなす軽セダンにダイハツ「ミライース」がある。ビジネスモデルの「B」グレードは税込み86万200円とアルトよりも82,800円安い。
ただ、アルト全グレードに標準装備の「デュアルカメラブレーキサポート」に並ぶ、ダイハツの先進安全技術群「衝突回避支援システム“スマートアシストIII”」をつけると1つのグレード「B “SA III”」グレードになって税込み92万6200円と価格差は17,600円まで縮まる。
こうしたライバル比較も興味深いが、今回はアルトにスポットを当てたい。
かねてスズキは「小・少・軽・短・美」、すなわち「小さく・少なく・軽く・短く・美しく」を企業理念として掲げる。小さくして効率向上、無駄をやめて省資源、さらに軽くし、開発時間を短縮して、徹底的に美しい……。あ、これって今話題のSDGsじゃん。
早速、そのAグレードに乗り込む。まず、前席ドアの開閉からして良い物感がたっぷりだ。車幅にも制約がある軽自動車枠だから衝突安全性や走行性能を左右するボディやプラットフォームの高剛性化は必須。
アルトでもグレードを問わず、ボディに「テクト」思想、プラットフォームに「ハーテクト」思想を取り入れた。トヨタでのTNGAみたいなもの。
必然的に高められたドア自体や、それを支えるピラーや開口部分によって、「バシッ」っと重厚な音を奏でて閉まる。往年の名車「キザシ」に並ぶクオリティだ。ウェザーストリップ(ドア外周のゴム)の気密性が高いから車内も登録車並に静か。
エンジン始動。すっかり馴染んだプッシュ式ではなく、キーシリンダーに差し込んで回すタイプ。電波式キーレスシステムは付くが、この所作は懐かしい!
3月も中旬なのに外気温は4度、当然コールドスタート状態に。アイドリング時のエンジン回転は1800rpm程度(タコメーターないので想像)と高めながら、ステアリングやフロアに伝わる振動が劇的に少ない。
独特な振動周期をもつ直列3気筒ながら、適材配置の制振材によってしっかり押さえ込まれている。足元のペダル部分をのぞき込むとフロアからエンジン隔壁部分までしっかり防音/制振材で覆われていた。
■優秀なCVT制御で快適
専用のCVT制御で滑らかな加速。けっして余裕があるとはいえないエンジンパワーにもかかわらず、スムーズに速度が乗る
まずはDレンジでスタート。専用チューニングを施したCVTの制御が緻密で、じんわりとしたアクセルペダルに同調してスムースに速度をのせる。680kgの軽量ボディとレシオカバレッジ6.53の広い変速幅を組み合わせたことで、滑らかな発進加速をみせる。
その勢いのまま50km/hあたりまでスーッと速度を乗せていく。その際、わりと早めに変速が始まるから気づいた頃にはエンジン回転数も低めで落ち着く。青信号からの発進では、フツーのアクセル操作で交通の流れをリードできるから、「あおられ運転」の原因にもならず心理的にも落ち着けた。
46PS/5.6kgf・mとスペック的には心許ないが、高速道路も確かな動力性能が確認できた。エンジンパワーに絶対的なゆとりはないけど80km/hあたりまではイメージ通りに速度を乗せていく。そこから100km/hまでの加速はさすがにゆっくりだが、それでも乗せてしまえば難なく維持できる。
高速道路でもCVTの制御が光った。「エンジンを制御する司令塔」と言われクルマの性能を左右するCVTは、非力でパワーバンドの限られる小排気量エンジンのうまみを引き出しやすい。
一般的なCVTの場合、ドライバーがアクセルを踏み込んだ際の車速や車両負荷に応じて、エンジン回転の上昇率を演算し、加速が始まる。ただし、そのままだとエンジン回転だけが先行し、いわゆるラバーバンドフィールとして悪評価に。
アルトの場合、まず必要なエンジン回転数までサッと上昇させ、そこから必要な加速度が発生し出したら徐々にエンジン回転を落として安定させる。加速時のエンジン音量はそれなりに大きいが、先のCVT制御によって巡航状態では驚くほど静かだ。広いレシオカバレッジと大きめのファイナルギヤ比の相乗効果だ。
直進安定性も向上した。アルト全グレードでタイヤサイズが13→14インチ化され偏平率も低められ、合わせて電動パワーステアリングの特性も見直された。ロックトゥロック4回転(直進状態から左右に2回転ずつ)のスローなステアリングギヤレシオだが、車体の直進安定性が高いので修正舵も必要最低限で済む。
乗り味はとてもマイルド(バネやや硬め、ダンパーやや緩め)。都市高速道路の継ぎ目や荒れた路面や凹みを通過しても、一度でいなすから進路を乱さない。ホイールストロークはそれなりだしボディ上下動も割とあるが、揺り返しがないから安心できる。
箱根新道(神奈川県足柄郡にある国道1号バイパス)のだらだら続く登り坂では、シフトノブ右にある「S」モードボタンの活用で快適に走れた。
下り坂でもSモードが大活躍。アクセルオフでも減速度が保たれるからで最大勾配8%の箱根新道でもブレーキペダル操作要らず。きついカーブではDレンジからLレンジに一段落とせばOKだ。また、そのままDレンジに戻してもSモードは解除されないから減速度が一気になくならず使い勝手が良かった。
■ワインディングも不安なく走れる
各種安全装備を載せてこの価格。走りの総合性能も高く、言うことなしだ
ワインディング路はどうか。アルトが苦手とするシチュエーションと想像していたが、まったくの杞憂。むしろ楽しかった!
前述したロックトゥロック4回転を意識してステアリングの切り始め、戻し始めさえ遅れなければ、軽量ボディとしっかりとしたプラットフォーム、そして腰のある足回りによって、不安なく走り切る。
走りの総合性能は明らかに高い。サスペンション取り付け部分の剛性を高め、部位ごとの特性変更を施したブッシュを組み合わせることで挙動がしっかり把握できる。
ESCのアンダーステア制御(カーブ内側後輪のブレーキ介入)のしきい値が低め(≒早めに作動する)など、かなり安全マージンを考えたセッティングだが、実用車であるアルトの性格からすれば順当だ。
足元は155/65R14(ダンロップ・エナセーブEC300+/指定空気圧240kPa)と細めながら、よっぽどこじらなければ、カーブ途中でのステアリング切り足し操作も受け付けてくれる。これなら回避動作でも安心だろう。
瞬間燃費計の値ながら、高速道路区間(約170km)では終始27~32km/L台、平均車速12km/h程度の激しい渋滞路を含む市街地(約70km)では21~24km/L台、ワインディング路(約60km)の登り坂では7km/L台。
こうしたあらゆる道路環境で300km走り回った燃費数値は、23.3km/Lだった。ちなみにカタログ上のWLTC値は25.2km/Lだから、その92.4%を達成していた。
じつはAグレードの試乗に先駆け、アルトのフラッグシップモデル「HYBRID X」の試乗を済ませていた。「S-エネチャージ」改め「マイルドハイブリッドシステム」を搭載し、税込み125万9500円。
快適装備はふんだんにおごられるがボディ、足回り、シート、ペダル周りの遮音材、先進安全技術などは同じ。ISGが直にエンジンをアシストするから中速域までの走りは一層力強い。
しかしながら筆者ならAグレードを選ぶ。これに「バックアイカメラ付ディスプレイオーディオ」(55,000円)と、フロアマット(16,115円)を付けて、ETC車載器と前後2カメラドラレコを選択。締めて税込み100万円ちょっとです!
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