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ヴィンテージのフォード ブロンコ、EVになる

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ヴィンテージのフォード ブロンコ、EVになる

サンフランシスコ郊外にある海軍造船所の跡地で、ある新興企業が次世代の自動車を開発している。

「古いクルマは美しいが、機能的ではない」。ある春の日、ロブ・ハワードは私にそう語った。「旧車は面倒なものですが、誰も認めようとしません。皆、乗らない理由を見つけたがるくせにね」。念のため述べておくが、そう言うハワードも古いクルマに魅了されたひとりだ。彼は1957年式のシボレー ベルエアワゴンや88年式のトヨタ ランドクルーザーなど、小さなコレクションを自分でいじくりまわしたりもしている。とはいえ、そんな彼も通勤にはリヴィアン R1Tを運転しているという。そのほうがとにかく楽だからだ。

愛車の履歴書──Vol52. 西川貴教さん(後編)

サンフランシスコからほど近い彼のオフィスで、私たちは機能的に生まれ変わる途上にある美しい旧車の数々に囲まれていた。ハワードはキンドレッド・モーターワークス(Kindred Motorworks)という、小さいながらも成長中の会社の創業者でCEOを務めている。同社のビジネスはレストモッド(レストアとモディファイを合わせた言葉)と呼ばれるものだ。新しいエンジンや現代的な安全装置を用い、クラシックカーをより信頼性高く、街路での走行に適した仕様に改造するビジネスで、キンドレッドの場合は充電式バッテリーで動くモーターへの交換をオプションにしている。

これは決して新しいトレンドとは言えないが、電動化技術が愛好家や修理業者に開かれたことで、ここ2、3年で一気に加速した流れである。感電死しないよう気をつけられるのなら、古いガソリン車を自分で電気自動車(EV)に変えることが可能になったのだ。その魅力は言わずもがなである。経済的な余裕があり、趣味嗜好にも一家言あるという人々は希少なクラシックカーを街で走らせたいと考えている。同時に、そのような人たちの多くは、EVに乗ることにもますます前向きになってきている。そこで、古いポルシェ 911からヴィンテージのワーゲンバスまで、あらゆるクルマを電動式に変える企業が少数ながらも出現した。

レストモッドは単なる修理ではない

レストモッドは、ヴィンテージカーの純粋な復元ほど恍惚とした趣味性を帯びたものではない。例えば、コンクール・デレガンスと呼ばれるカーショーで見られるような、オリジナルの部品を用い、クラシックカーをあたかも工場から出荷されたばかりのように、美しく完璧な状態に戻すことを目的にしたものとは違う。とはいえ、古いクルマに最新のパワーステアリングや空調、Bluetoothステレオシステム、ましてや電動パワートレインを装備するのも決して安上がりではない。

今年、私を虜にしたフロリダのFJカンパニーによる整備済みランドクルーザーは定価26万6,800ドル。イギリスのエヴァラッティによる古いポルシェの電動化は、30万ドル超からのスタートだ。サンディエゴのゼレクトリックは2年待ちで、例えば69年のフォルクスワーゲン カルマンギアならディスクブレーキ、LEDライト、テスラ製バッテリーなどが新たに装備される。一方、キンドレッドはフォード ブロンコという地味な車種にフォーカスしている。

これまでのところ、レストモッド電動車の顧客は、一般的にあなたが思い浮かべるような人たちばかりだ。ロバート・ダウニー・Jr.は、自身のヴィンテージコレクションをエコカー化する過程を、『ロバート・ダウニー・Jr.の名車改造』というテレビ番組で映像にした。また、キンドレッドの担当者によると、ジュリア・ロバーツからはEV化されたワーゲンバスの予約注文があったという。キンドレッドの電動ブロンコは、最も安価なものでも20万ドル以上する。「高級品ですよ」と、ハワードは言う。「でも、高くて申し訳ないとは考えていません。膨大な職人仕事によって実現するわけですから。とてもユニークなクルマなのです」

私が訪問したとき、同社は月に4台のブロンコを生産していたが、ハワードによれば、まもなく月10台のペースに乗る勢いだという。いずれにせよ、2025年までの生産分はすでに完売している。しかし私が興味を持ったのは、彼が電動ブロンコの生産台数を年間100台までに制限する予定だと言ったことだった。これは同社のレストモッドの希少性を保つためではなく、彼らが関心を持っている車種がブロンコだけに留まらないからである。

オフィスのすぐ外には、新しいエンジンと最新のパーツでオーバーホールされたピカピカの車両が置かれていた。ブロンコ数台はもちろんのこと、ドラッグレース用に設計されたような53年型シボレー 3100トラックや、58年型のワーゲンバスの電動化も行われていた。ハワードによれば、じきに3つの生産ラインが同時に稼働する予定だという。EVおよび内燃機関のブロンコ(どちらも同じくらい多くの予約注文を受けている)、加えて電動式のワーゲンバスだ。それがうまくいき、安定した需要とともに各モデルを毎年100台ずつ販売できるようになれば、彼は他のヴィンテージモデルにも手を広げ、同じように改造、モダナイズ、電動化を進めていく予定でいる。

キンドレッド本社は、いわば車オタクのための巨大なおもちゃ屋のようなものだ。工場のフロアや駐車場には、完全な廃車、修理途中、完璧に生まれ変わった姿など、あらゆる状態の車が散在している。私がこの春にそこで時間を過ごしたのにも理由があった。シリコンバレーのノウハウをブロンコのレストアに応用した新進気鋭の会社が、いかに当のフォードに先んじてその電動化バージョンを市場に出すのか、興味があったからだ。しかし、現地を後にした私の頭にはもっと大きな問いが浮かんでいた──キンドレッドは、アメリカの高速道路を再び魅力的にしてくれるのだろうか?

ヴィンテージへの郷愁と未来への責任

私が子どもの頃、父が毎日乗っていたのはBMW 3シリーズで、次がサーブ 9000だった。何年かの間に、父はダークブルーの64年型フォード サンダーバード、深紅の72年型ビュイック グランスポーツのコンバーチブル、モスグリーンの70年型メルセデス・ベンツ 280SLも購入し、自分でいじっていた。父が最初に取り組んだのは、祖父から受け継いだダークグリーンの47年型フォード フォーダーの改造だった。祖父が新車で購入したもので、駐車場で見つけやすいようにと側面にオレンジのストライプがペイントされていた。

シマウマ模様はともかく、ステアリングコラムから伸びたシフトレバーを歯を食いしばりながら操作していた10代の私は、ガールフレンドをデートに誘うためにその車を運転していた自分のことを、かなり洗練されていると思ったことを憶えている。しかしそのクルマは、父がコレクションしていた他の宝物と同じようにあまり路上での出番はなく、たいていはガレージで眠っていた。故障して、高額な修理が必要だったこともあった。これらのクルマは総じて金食い虫であったことから、やがて父は趣味を完全にあきらめ、ボルボのリースを始めた。それでも、最高にクールなクルマばかりだった。

現代において自動車を所有することは、私の父がしたのと同じ妥協を迫られることを意味する。アメリカのどこをドライブしても、その凡庸な光景にうんざりしてしまうことはないだろうか。新しいクルマはどれも同じように見え、その外観は無難で平均的に思える。エンブレムは無視して、20歩離れたところから眼鏡を外して各メーカーの主力SUVのラインナップの違いがわかるかどうか試してみてほしい。「テルライド」「シエラ」「セコイア」といったモデル名でさえ、高級感はあるが平凡なものに聞こえる。これらのクルマのCMは、私たち誰もが大自然への逃避を夢見ているかのように示唆しているが、せいぜいフットボールの練習に乗っていくのが現実ではないだろうか。

確かに、まだ進化を続けるEVの世界では状況はそれほど悲惨ではない。私が住んでいるロサンゼルスでは最近、威嚇的なフォルムをしたマットブラックのテスラ サイバートラックがよく通りを走っている。男らしさの喪失への不安からくるマッチョなチョイスにも感じられるが、少なくとも見た目はユニークだ(サイバートラックと聞いて、女性が運転している姿を真っ先に想像するだろうか?)。しかし、イーロン・マスクによる他のラインナップは、ルックス的には平凡に傾いている。それについては、ルシードやリヴィアンも同じだ。そのうえ、今のテスラはスランプの時期にあると言われている。リヴィアンも今年レイオフを実施したし、フォードのEV部門は24年1~3月期の販売台数が1万台に留まり、13億ドルの赤字が報告されている。キンドレッドCEOのハワードは、私たちに両方の世界のいいとこ取りを提供したいと考えている。クラシックカーの官能性と、今後ますます求められるであろうエコロジーとオンロード性能の組み合わせだ。

ハワードは、自宅ガレージでの独学といった、よく聞くルートからこのビジネスに参入したわけではない。彼のストーリーは、どちらかというとテック企業の創業者のそれに近いものだ。ペンシルベニアの環境エンジニアだったハワードは、キンドレッドを起業する前にカリフォルニアで2つの会社(製造オペレーションおよびサプライチェーンの会社、即日配達のプラットフォームの開発に携わるソフトウェア会社)を設立し、いずれも売却している。17年に彼はソフトウェア会社を大型スーパーマーケットチェーンのターゲットに売却したが、小売業のノウハウを学ぶため社内に残った。同時に、彼は夜な夜な自身のヴィンテージカーをいじっていた。レンチを回したり、自分の手を動かすのが好きだからだった。

やがてハワードは、自身に風変わりな組み合わせのスキルが蓄積されていることに気がついた。サプライチェーンのノウハウ、ソフトウェアの専門知識、ターゲットで培った小売業の極意……。加えて、会社から会社へと渡り歩くうちに仲間となった同僚もいた。自身のヴィンテージカーへの愛情を生かした新しいベンチャーのアイデアが、彼の頭の中でまとまり始めた。

歴史的にもレストモッドはビスポークビジネスであり、一台一台異なるソリューションを導き出すために多くの時間と配慮が割かれるものだった。では、一般的なカスタムショップではできないことをやってみたらどうだろうか? 一回限りのプロジェクトを繰り返すのではなく、最新式に改造した車を量産販売するのだ。それも、高級品には違いなくとも、50万ドルを下回る価格で。そのようなことに挑戦するのであれば、勝手知ったる“裏庭”でやるのが理に適っている。つまり、従業員の持株制度や無料のランチといったシリコンバレーでおなじみの福利厚生がある、ベイエリアのハイテク業界だ。そして、彼はこう考えた──誰も試みたことのない、自動車業界への秘密の入り口がそこにあるかもしれない。

モノづくりを支えるクラフツマンシップ

キンドレッドの本社は、ベイエリアの独特な歴史を物語るメア・アイランドの巨大な倉庫にある。サンパブロ湾に突き出た長さ5.6km、幅1.6kmのこの半島には、かつて海軍の造船所があった。90年代に政府が施設を閉鎖した現在、この地域には幽霊でも出そうな雰囲気が漂う。美しい昔の連邦政府の建物やビクトリア様式の家屋が、看板は色褪せ、ペンキが剥げかけたまま空き家になっている。その一方で、最近新たに改装された建物もある。23年3月にここに拠点を手に入れたキンドレッドのような新興ビジネスだ。「1年半前は壁もなく、床は地面がむき出しでした」。同社の幹部のひとりは、今や近代的な自動車工場となった社屋を案内しながらそう話した。

実際、その空間はミニチュアサイズの自動車工場か、60年代イタリアの自動車メーカーかのように感じられた。オープンなフロアプランに沿ってレイアウトされたそれぞれの区画には、加工、内装、塗装用のスプレーブースなどの部門が置かれている。巨大な産業ロボットの姿はなく、全てが手作業で行われていた。内装の責任者はシートの縫製がどのようになされているかを見せてくれ、従業員たちは古い車体を各パーツに分解し、フレームを溶接し、車軸に関わる何らかの作業をしていた(私も自動車整備についてはそこまで詳しくはない)。それでも彼らは、ダッシュボードをブロンコに取り付ける作業を私に手伝わせてくれた。キンドレッドの顧客はしばしば工場を訪れ、何時間もかけて自ら組み立てに参加するというのだ。

この会社には真摯な従業員が集まっている。技術者のひとり、ジェシー・トーマスはキンドレッドに移る前、カリフォルニア州フリーモントにあるテスラの工場で6年間働いていた。キンドレッドのオフィスには往復3~4時間の通勤が必要だったが、彼はそれを気にしなかった。ここでの仕事が有意義だと思えたからである。彼はクルマがハンドメイドで、ビスポークで、職人技で作られることが気に入ったのだ。また、現場には“センス・オブ・アージェンシー”(迅速さを求める緊迫感)があるが、“エマージェンシー”(緊急性)までは感じられないというのも理由だった。「とにかく仕事の充実感が違います」と、トーマスは話した。

もちろん、キンドレッドはまだ緊急性を伴うような規模には達していない。同社はしかし、テスラやリヴィアンのようなEVメーカーが創業当初に、そしてその後もたびたび直面してきたあるひとつの問題にぶつかることもない。それは、デザインのあらゆる面を刷新しなければという要求である。これらの企業は、文字通り誰も見たことのないクルマを作ることを自らに課している。そのうえ、強度計算や衝突テストなど、現代の自動車製造に必須のプロセスも経なければならない。「我々はそれとは正反対です」とハワードは言う。「我々は職人気質で、汗水流して働くことに突き動かされています。私たちの目標は、既存の部品を用いてそれらを統合すること。そのことが、我々の研究開発の形を劇的に変えてもいます」

ハワードは、工場のあちこちにあるタブレット端末のひとつを手に取り、その意味を教えてくれた。端末には電子マニュアルが入っており、常に更新される写真や情報とともに、各車を完璧に解体・組み立てをするための手順がひとつひとつ説明されていた(一部のブロンコには5,000もの手順がある)。ハワードによれば、必ずしも熟練技術者でなくとも、高度な技術を持つ作業員であれば、タブレットを手にほぼひとりで車を組み立てることができるという。ある意味、この国で再びモノづくりを始める一歩として、ホワイトハウスが実施しようと試みていることに近いように思われた。つまり、素晴らしい製品を作る仕事に大学の学位は必要ないのである。また、キンドレッドの成功の鍵となったのは同社の規模と、年間数千台ではなく数百台という控えめな目標もあったかもしれない。「レガシー企業もスタートアップ企業も、EVの新モデルを1つ市場に出すために何十億ドルも投資します」と、ハワードは後日、私へのメールで語った。クラフツマンシップへの回帰は「迅速に改善する能力を解き放ってくれる」のだという。

キンドレッドが最初のブロンコを納車したのは23年11月のことだ。3人目の顧客であるフィラデルフィアの起業家、ダン・クラークは24年1月に自身のブロンコを受け取り、これまでに4,379kmを走っている。購入の主な動機はノスタルジアだった。高校時代の愛車が96年式のブロンコだったためだ。しかし、キンドレッドに乗って初めて車道を走行したとき、彼の郷愁は技術的な感嘆に取って代わられた。「製品に圧倒されました。最近ではなかなかそんなことはありません。世の中に出回っているクルマを見ているとね」

では、キンドレッドの乗り心地はどのようなものなのだろうか? 私はまず、58年式ワーゲンバスのレストモッド(22万5,000ドルより)から始めてみた。サーフィンを思わせるシーフォームグリーンに塗装され、改良されたリヤサスペンション、現代的なタイヤ、電気モーターが装備されている。このバスはジュリア・ロバーツを喜ばせたのと同じもので、私も乗ってみてその理由がわかった。乗り心地良く、小回りが利いて、純粋に楽しい。そして、このグルーヴィーなバスが静かに通り過ぎるのを目撃した人々からも、同じように笑みがこぼれた。「私はこれをスマイル・マシンと呼んでいます」と、ハワードは言う。「それに、ハイウェイを時速110kmで走っても問題ありません」

次に乗ったのがブロンコだが、私はこれは別物だと予想していた。古いブロンコに乗ったときの記憶では、速度を出すとかなり怖かったからだ。私はまず、72年のフレームをベースにしたキンドレッドのガソリンモデルに乗り込んだ。リッチな内装から手作りのようなメーターまで、全てがゴージャスで真新しく、ほとんどクチュールのようですらある。路上では460psを誇るフォード製の第3世代「コヨーテ」5.0 V8エンジンが唸りを上げ、その音は間違いなく私の記憶を呼び覚ました。しかし、いざスピードに乗せると、短いホイールベースと背の高い車体にもかかわらず、コーナリングのときでさえ驚くほどの安定感だった。

とはいえ、古いブロンコに新しいガソリンエンジンを搭載するレストモッドは、運転の楽しさこそ否定しないが、私たちが進むべき未来とは言えない。電動化こそが未来である。それに、私は自国のイノベーションに触れてみたかった。クールなEVが毎週のように発表されている中国との貿易戦争にホワイトハウスが固執している今、たとえ私にとって予算オーバーだったとしても。チームは私を68年式のボディシェルで作られたプロトタイプのEVモデルに乗せてくれた。その乗り心地は静かで気楽、典型的なEVである。ガソリンのブロンコとも似ているが、ずっと心地良い。直線道路で、私は信号に止められた。そのまま走り出したかったが、すぐ後ろには警官がいた。私は思った。「行ってしまうか」

信号が青になると、私は笑みを浮かべながら、あっという間に時速110kmを出していた。警官だと思った人物は民間の警備員だったようだが、それにもかかわらず私は猛スピードで走り去るのが気持ちよかった。キンドレッドが近い将来自動車業界に君臨することはないかもしれない。それは彼らの目的でもない。しかし、キンドレッドが掲げる未来は、私たちに環境への配慮と運転の楽しさの両立をもたらしてくれそうだ。

KINDRED MOTORWORKS趣味でヴィンテージカーの修理を行っていた起業家のロブ・ハワードによって、2019年に設立。米カリフォルニア州メア・アイランドを拠点に、フォード ブロンコやシボレー 3100などのクラシックカーを中心にレストモッド事業を行う。

From GQ.COM

By Rosecrans Baldwin
Translated and Adapted by Yuzuru Todayama

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みんなのコメント

1件
  • ヤング孫正義
    ブロンコも現代風にリメイクされているけど、やはり昔のオリジナルデザインには勝てないよね。EVなんて上物載せるだけなんだからどんどんこういう形のレストモッドを流行らせて欲しい。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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