クルマ好きにとっては常識でも、クルマをあまり知らない人にとっては目からウロコ並みの発見ということもある。また、ちょっとクルマから遠ざかっていたり、クルマ通と自負していても、実は知らなかった……という、いまさら聞けないクルマ話もあるのではないだろうか。
ということで、「いまさら聞けない平成クルマの新常識」と銘打った本企画を始めたいと思う。
今回は、これで決着!? AT車の信号待ちは「Dのまま」が正解!? それとも「Nに」が正解!?
自動車ジャーナリストの鈴木伸一さんが解説します。
文/鈴木伸一
写真/編集部
■信号待ちでは「Dレンジのまま」がいいと言われてきたが……
ATの自動変速機に組み込まれている変速ギヤは、常に噛み合っていて動力を中断することなく変速できる「プラネタリーギヤ」が使われている。
そして、この「プラネタリーギヤ」に動力の断続を行う「油圧クラッチ」、クラッチドラムを固定する働きをする「ブレーキ」、1方向にだけ回転する「ワンウェイクラッチ」を組み合わせ、これらを「油圧ピストン」で順次作動させることで変速が行われている。
このため、ATセレクターを動かすと、そのつど油圧回路が切り替えられ、「油圧クラッチ」が切れたり入ったりする。停車時にNレンジからDレンジに入れた時にエンジンの回転数が下がり、駆動力がつながってグッと前に動こうとする。
これが「油圧クラッチ」の断続に伴う挙動で、走行中の連続的な負荷より、停止時の断続的な負荷・衝撃のほうが機械への負荷が高くなる。
さらに、頻繁にレンジを切り替えるとクラッチ板が減りやすくなり、摩耗粉が油圧経路に回ればシフト不能になるなど、油圧制御機構のトラブルの原因になる……と、昭和に誕生したクルマのAT車はそう言われていた。
そのために、できる限りDレンジのまま走らせるのが理想で、信号待ちでNレンジにわざわざシフトするのはヤメたほうがいいと言われていたわけ。
ところが、パドルシフトなどのマニュアル操作機構が採用されだした平成の2桁モデルくらいからは充分な耐久性が確保されている。
このため、セレクターを頻繁に動かしたからといって問題になることはまずない。渋滞で長時間止ったままという状態ならNレンジがベターだが、よほど古いクルマでない限りNレンジに入れようが、Dレンジのままでいようが、ドライバーの好みで決めれば良い。
■近年のクルマのATとなると話が違ってくるのか?
ただし、10数年前に比べて種類が増え複雑化している近年のクルマのとATなると、また話は違ってくる。
アイドリング中もエンジンは燃料消費を続けているが、Dレンジでアイドリングしながらの停車となるとエンジンに負荷がかかるため燃費はさらに悪化する。
このようなアイドリング時の燃費向上を目的とした「ニュートラルアイドル制御」の導入が近年進んでいる。トルクコンバータを用いているCVTや多段ATを採用しているプレミアムカーが主体で、前者の場合はブレーキを踏んで停車すると自動的にCVT内部のクラッチを切断。
エンジンの駆動力を駆動系から切り離すことでトルクコンバーターで発生していた負荷を軽減する。後者はDレンジでの停車時、トランスミッションの発進クラッチをニュートラル状態に近づける(変速機内部のクラッチを半解放する)ことで、エンジン負荷の低減が図られている。
また、Dレンジで停車するとエンジンが自動停止する「アイドリングストップ車」は、Nレンジにシフトするとアイドリングストップ機構がキャンセルされ、エンジンが再始動するモデルが多い。このタイプで停車時Nレンジにすると燃費が悪化することになる。
タクシーに乗った時に、信号待ちでドライバーがNレンジにしているのを見たことがあるかもしれない。それは、車両停止時にシフトレバーをNまたはPにするとエンジンが自動停止するアイドリングストップ機構を働かせるためで、燃費向上にも役立つ。タクシー専用車のクラウンセダン、クラウンコンフォート、コンフォートのAT車に標準装備されているという。
■信号待ちでNレンジにする必要はない。Dレンジのままが正解!
このように、近年のクルマならわざわざNレンジにする必要はない。信号待ちの際はDレンジのままが基本。「信号停車時Dレンジに入れっぱなし」は設計時に想定されている使い方だからで、「ニュートラルアイドル制御」などは手動によるN→D操作より負荷の変動をさせることなくスムーズに発進できる制御もなされているからだ。
なお、2ペダルMTにおけるオートモード時、短時間の信号待ちなら、やはりDレンジのままで問題ない。が、擬似的にクリープを再現しているタイプはブレーキを離すと半クラッチ状態となるため、傾斜地などでアクセルペダルの調節で停止するのは御法度だ。
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