クルマの修理・改造でセカンドキャリアを支援
イングランド南東部オックスフォードシャーの奥地にある小さな工場で、1台のスバルBRZの修復作業が行われている。
【画像】軍隊でのスキルを活かしてセカンドキャリア形成へ【修復作業中のスバルBRZを写真で見る】 全4枚
車体に大きな損傷を受けているが、フレームなどの構造にダメージはないため、修理すれば道路に戻すことができる。このスバルを直しているのは、肉体的にも精神的にも傷を負った英国の退役軍人たちだ。
これは、英国で「最も支援が届きにくい」とされる彼らが、自動車業界を通じて新たなキャリアを築けるよう支援する慈善団体、ミッション・モータースポーツ(Mission Motorsport)の活動だ。2012年の設立以来、2000人以上の負傷した退役軍人がこうしたプログラムを通じて仕事を見つけている。
団体のモットーは「レース、再訓練、回復」であり、活動に携わる人々にとって、これ以上ないほど適切な言葉だ。
このスバルBRZは、修理に必要な部品とともにeBay(イーベイ)から寄贈された。部品はすべて中古品で、eBayの認定リサイクル・スキームのもとで再生・検証されたものだ。
eBayの立場からすれば、こうした活動は同社の宣伝にもなるが、非常に寛大なことでもある。実際、ミッション・モータースポーツは寄付を募るのに苦労しており、このクラッシュしたBRZとその部品は、さまざまな意味での贈り物なのだ。
まず、この車両はオートマチック(AT)車で、プッシュ&プル式ハンドコントロールと助手席側の追加ブレーキが装着されているため、体の不自由な退役軍人でも運転することができる。
修理の後、eBayの協力を得て、公道走行可能なレーシングカーに改造される予定だ。最初のサーキット走行は、アングルシー・サーキットで開催されるチャリティの耐久レース「レース・オブ・リメンブランス」(11月7~10日)となる。ミッション・モータースポーツのモットーをそのまま体現したような活動だ。
フォークランド紛争に従軍した元海兵隊員で、このプロジェクトのクルーチーフを務めるトニー・コンプソンさんは、「このような機会が訪れるまでには時間がかかりました」と話す。「わたし達のクルマはすべて寄贈されたものですが、ほとんどがマニュアル車です。BRZは損傷もしているため、(修復作業も含めた)このプロジェクトは特に価値あるものになっています」
「わたしのような状態でも貢献できる」
コンプソンさんはこのプロジェクトに携わる8人の退役軍人の責任者である。メンバーには元空挺部隊員や戦車指揮官、電気機械技術兵団(REME)や後方支援部隊などの出身者もいる。
それぞれのスキルと経験がこの仕事に生かされている。ボディはさすがに彼らの手に余るので、できる限りのことをする。最終的な成形、充填、塗装などの作業は、地元のドラゴンテック社が無料で行う。
しかし、修復は容易ではない。BRZは2016年に登録され、走行距離わずか4万kmしかないのだが、少々ひどい状態だ。英国の保険会社の用語で「カテゴリーN」にあたる損傷具合で、いくら構造的に問題がないといってもダメージは大きい。
早い段階でつまずいたことの1つは、過去のある時点で、助手席側のカーテンエアバッグ周りのルーフライニングが、エアバッグが未使用であるかのように見せかけるために加工されていたことだ。一時的に足を引っ張られただけでなく、残りのすべてのエアバッグセンサーを取り付け、機能させるのにもかなり時間を使った。
エンジンと格闘しているのは、元空挺部隊員のスティーブ・ビンズさんだ。彼はフォークランド紛争にも従軍したが、帰還後1か月も経たないうちに事故に遭い、現在は車椅子を使用している。
最近、ミッション・モータースポーツ主催のイベントに参加したことがきっかけで、レースライセンスを取得し、今回のBRZ修復プロジェクトへと至った。「チームは長い間、このような包括的なマシンを必要としていました」と、フロントサブフレームを改修したビンズさんは言う。「恩恵を受ける退役軍人はたくさんいます」
ビンズさんの同僚のドム・ピアソンさんもその1人だ。元REMEの技術者だった彼も、2年前の事故で車椅子を使用するようになった。ミッション・モータースポーツのスタッフが彼を訪ね、新しい未来を見せたとき、彼は1年半にわたってリハビリ生活を送っていた。
「BRZはわたしに集中するものを与えてくれたし、わたしのような状態でも貢献できることを教えてくれました。今はただ、修理の仕事に戻りたいんです」とピアソンさんは言う。彼の言葉を借りれば、今はスバルの「油まみれの部品と電気」の世話をしているそうだ。
プロジェクト・マネージャーを務めるのはクリント・ゲルダードさん。軍の通信隊に所属していた彼は、その後警察官やアマゾンのシニア・オペレーション・マネージャーといった職を転々としたが、やがて「うまくいかなくなった」ため、慈善団体の門を叩いた。
軍人ならではのユーモアも忘れていないが、ゲルダートさんはBRZ修復プロジェクトにもっと大きな意味があることも認識している。後に続く人たちのためでもあるのだ。「このクルマはわたし達だけのものではありません。彼らに同じような兄弟愛を感じてもらえれば、それで役目を果たせたことになります」
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