トヨタは2021年3月末をもって、プレミオ・アリオンを生産終了する。全チャネルでの車種併売がスタートし、ラインナップの整理が進んでいる。
アリオン生産終了の一報を受け、筆者は一抹の寂しさを覚えた。今回は、元トヨタディーラー営業マンの筆者が、これまでアリオンが残してくれた財産と、生産終了後の影響について、アリオンとの想い出とともに考えていく。
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文/佐々木亘 写真/TOYOTA
【画像ギャラリー】2021年3月に約50年の歴史に幕を下ろすトヨタカリーナ、そしてアリオンをみる
「足のいいやつ」で一世を風靡した知られざるスポーティセダン
「足のいいやつ」のキャッチコピーで親しまれたカリーナ。日本初のDOHCターボエンジンを搭載した「GT-TR」などでも話題に
50歳以上の方にはアリオンというよりも、カリーナと言ったほうがしっくりくるだろう。「足のいいやつ」というキャッチフレーズでおなじみの、スポーティセダンだ。
2001年にカリーナは、バトンをアリオンへ渡す。スポーティセダンの系譜は受け継がれ、兄弟車のプレミオにはない、専用のエアロパーツやTRD sportivoのローダウンスプリングが用意されていた。(2016年マイナーチェンジ時に廃止)
アリオンの2019年登録台数は年間4997台、月平均は400台程度で、一般ユーザーの購入はめっきりと減り、法人中心の販売が主となる。現行ラインナップの中では、かなり控えめな存在となっていた。
筆者はトヨタ店にいて、平成20年代の後半以降、「アリオンを見に来た」という来店客には、ほとんど会ったことがない。試乗車や展示車がない販売店も多かった。そんなアリオンだが、私が最も多く販売したトヨタ車である。
知名度も人気も小さく見えるが、隠れた魅力の多いクルマだった。それを表立って主張しないところもまた、奥ゆかしいアリオンらしさと言えるかもしれない。
プリウスの代わりに? 現場で実感したアリオンの多彩な役割
現行型アリオン(販売期間:2007年~2021年3月/全長4590mm×全幅1695mm×全高1475mm)
アリオンは、主にトヨタ店で販売されており、取り回しの良い5ナンバーサイズセダンは、多くのユーザーに愛された。車種としては目立たないポジションにいることが多いのだが、さまざまなユーザーの受け皿となり、トヨタ店を支える縁の下の力持ちだったのだ。
ひとつ、アリオンにまつわるエピソードを紹介しよう。
今から約10年前、来店客の目当てはプリウスやアクアといったハイブリッドだった。プリウスもアクアも、黙って売れるクルマだったが、同クラスのガソリン車と比べ50万円ほど高い車両価格がネックとなり商談が進まないことがある。
実際、年間走行距離が少ないユーザーには、必ずしもハイブリッドが経済的に優れているとは限らない。本体価格50万円の差を埋めるまでに、燃料費の削減と税制優遇があっても、10年以上乗り続ける必要があることも珍しくなかった。
そこで私は、ユーザーがハイブリッドのメリットを受けづらいのであればと、プリウスを第一候補としていた商談の進展しない家族に、アリオンを勧めてみた。
初代アリオンより室内が広くなったため、ゆとりのある空間が実現できた。さらに木目調のインテリアで高級感のある雰囲気となっている
5ナンバー、ノンハイブリッドのアリオンだ。しかし、プリウスと比較すると良いところも多くある。室内は広く、木目調のパネルやメッキパーツなどを行儀よく並ぶ。
さらに、後席シートがリクライニングするなど、快適性も高い。そして価格はプリウスよりも30~50万円ほど安価だ。走行距離が少ないユーザーなら、プリウスを買うよりも満足度が高いクルマになるのではないかと、私は感じていた。
後席のリクライニング機能でゆったりとした空間を実現。シートアレンジも可能で、フルフラットにすることもできる(※一部グレードではできない)
この提案は的中し、その家族はアリオンを契約していった。その後も、プリウスからアリオンへ検討車種を変える提案は、多くのユーザーに受け入れてもらった。
また、アリオン購入者の多くが、納車後も、「あの時、アリオンを勧めてくれてよかった」と言ってくれる。
その後も、私はアリオンを多くのユーザーに紹介し、どんどんと売れていった。先輩営業マンからは、「またアリオンか? よく売れるな」と驚かれたことを思い出す。
アリオンには、目立ったネームバリューや特筆すべき特徴は少ないかもしれない。売り手側でさえアリオンの存在を忘れていただろう。しかし、一度存在を知り、実際に触れて乗ってみると、不思議としっくりくる。
プリウスなどの、主力販売車種で受け止めきれなかったユーザーを、余すところなく拾い上げ、満足させてしまう。これが「アリオン」の知られざる魅力である。
アリオンはトヨタのファンをつくる
初代カリーナから約50年の歴史で幕を下ろすアリオンは、「トヨタのファンを多く増やすクルマ」であり、貴重な存在であった
トヨタが目指した80点主義、つまり、ファンの最大公約数を大きくするクルマ作りが、アリオンからは強く感じられた。コンパクト、ラグジュアリー、コンフォート、リーズナブルと、アリオンの良さは多岐にわたる。
しかし、現在では、時代の変遷により、最大公約数が小さくなってきているのを感じざるをえない。引き際としては今がベストタイミングなのだろう。
アリオンは初めから80点主義のクルマではなかった。どちらかというと、少し尖って目立ったクルマだったように感じる。
尖ったクルマが、段々と形を変え、多くのユーザーにフィットする形になっていった。アリオンは目立つことを止め、内助の功に徹する。
結果、クラウンやランクルのような、車種のファンではなく、トヨタのファンを大きく増やすクルマになっていった。
自身が去った後も、しっかりとファンを残す。アリオンはそういうクルマだ。メーカーのファンを作ってくれるクルマは貴重な存在である。
今後トヨタとしては、現在のラインナップから、次世代のアリオンを作り出す動きが急務となるだろう。アリオンが連れてきたファンを手放さないように。
名車カリーナ、そしてアリオンは約50年の歴史に幕を下ろす。いぶし銀の活躍を見せた彼らは、去り際も静かだ。多くのトヨタファンを作ってくれたアリオンを、労いの拍手で送別してあげたい。
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みんなのコメント
すっかりトヨタでは少数派の落ち着いたセンスのユーザー向けというのも頷けます。
オーソドックスを極めると大いなる武器になり得る事を体現してくれました。
セダンボディながらリアワイパーを装備することも歴代主査に引き継がれた拘りポイントであったそうで。
プリウスが悪役を演じてしまう役どころが定着してしまった昨今。
アリオンとプレミオの落ち着いた存在感が一層印象に残ります。
警視庁の各署には必ずと言って良いくらい配備され任務を遂行しています。
時には緊急出動する場面にも遭遇するアリオン。その勇姿もまた魅力的であります。