新しい「GRヤリス」に追加された、ATバージョンに小川フミオが試乗した。MTとの違いはいかに!?
素晴らしきシフトワーク
昨今、電動モデルも増えているけれど、やっぱりガソリンで走るホットハッチから離れられない……そんな人には、GRヤリスが最適だ。2024年4月に登場した「GAZOO Racing Direct Automatic Transmission」はとにかく楽しい。
GAZOO Racing Direct Automatic Transmission(以下・GR-DAT)は、「レースでMTと同等に戦えるATを目指し開発した」とうたう、8段オートマチック変速機搭載モデル。試乗したグレードは「RZハイパフォーマンス」だ。
シフト操作に気を取られずステアリング、アクセル、ブレーキの運転操作に集中できるのがATのメリット。世界トップレベルの変速スピードをめざしたとされるだけあって、実際すばやいシフトワークには感心させられる。
スタイリングは、トヨタ「ヤリス」をベースにしながら、ボディは3ドア。前で約55mm、後ろで約80mm拡大(モデルにより多少の差あり)したトラック(トレッド)により張り出したタイヤをカバーするオーバーフェンダーが目をひく。かつ、フロントにはエンジン冷却用のサブラジエターや、ブレーキ冷却用の大きな開口部と、こちらも迫力だ。
破損を前提とした分割交換可能なバンパー、下部に開口部を設けて走行中の空気抵抗を減じ走行安定性を高めた空力デザイン、ぶつけたくない鍛造アルミホイール、走行抵抗になる静電気を除電する機能をそなえたスポーツシート、ギヤをマニュアルで選べるパドルシフト……と、自慢のタネにしたくなる装備満載だ。
GRヤリスのいいところは、ナチュラルな運転感覚。1618cc直列3気筒ガソリンターボエンジンは、最高出力224kW/6500rpm、最大トルク400Nm/3250~4600rpmと、パワフルだが、しっかり自分で意識してアクセルペダルを踏み込んで加速していく感覚が好ましい。クルマに振りまわされている感はない。
ラリーのために開発されたモデルなので、ハンドリングのよさが身上だ。ステアリングホイールは軽すぎず重すぎず、絶妙な重さで、自分でしっかりクルマをコーナリングさせていくとき、いいクルマだなぁと思うはず。
パワフルなエンジンによる加速性による走りの快感でなく、しっかりエンジンをまわして(フラットトルクなので回転域にかかわらず力不足感はない)ふんばる足まわりと、剛性感がかなり高そうなシャシーによる操縦性の高さを楽しめる。
ハンドリングのよさは、速度に関係なく楽しめるスポーツカーならいざしらず、昨今、ここまで凝ったハッチバックはそうそうない。フランスのルノーによる「メガーヌR.S.」は最高出力221kW、最大トルク420Nm(6段AT車)で性能も高く、かなり競合的だが、ボディ全長は4410mmなのに対してGRヤリスは3995mmと、ぐっとコンパクトにまとまっている。
乗り出したときは、足まわりの設定が硬いかな? と、思ったものの、少したつと慣れる。そして、すぐにまったく気にならなくなる。東京都内の高速道路では事故渋滞に巻き込まれたが、クラッチペダルがないので、まったく苦にならなかった。つまり快適性が意外にも高いのは、印象的だった。
試乗車には8スピーカーのJBLプレミアムサウンドシステム(セットオプションの一部)やコネクテッドナビまで搭載され、ふだん使いでも楽しみたいという人に向けたモデルだった。実際に、通勤に使ってもまったく苦にならないだろう。
むしろGRヤリスに毎日乗っていたら楽しいだろうなぁ、と、思わせられた。モータースポーツ競技のことはさておき、さきに触れたとおり、ハンドリングのよさは、速度に関係なく楽しめる。そこが美点だ。そういえば、ポルシェ「911カレラ」もそういうクルマである。
今回のRZハイパフォーマンスDATモデルの価格は533万円(6段MT車は498万円)。スポーツカーでいうとトヨタ「86」の最上位モデル(357万4000円)よりはるかに高く、スープラ「SZ」(499万5000円)も凌ぐ。いっぽう、レクサスのスポーツカーだと「RC」(581万4000円~)に迫る。と、言っても、決して高価だとは思わない。それだけ優れたモデルだった。
文・小川フミオ 写真・小塚大樹 編集・稲垣邦康(GQ)
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