もくじ
ー ポルシェより先に911をハイブリッド化
ー どんな911にも搭載可能
ー モーター・ジェネレーターが150psと20.7kg-mを発生
ー ボクスターやケイマンにも搭載可能
ー Vonnenの911ハイブリッドに試乗
ー 少し賢すぎるシステム
新型ポルシェ911(992型) マイルドハイブリッド仕様の詳細
ポルシェより先に911をハイブリッド化
ポルシェ自身によるハイブリッド911は、現在ドイツ・シュトゥットガルトで鋭意開発中だ。しかし、それより先にカリフォルニア州シリコンバレーのVonnenという会社が、911のハイブリッド化を成功させた。
Vonnenのチャック・モアランドCEOは、このアイディアについて次のように語っている。「私たちは輪になって話し合っていました。なにか凄いことをやろうじゃないか。そこで既存のポルシェ911のプラットフォームをハイブリッド化するための方法を考え始めたのです」
それは3年前のことだった。まずは996型911をベースに使って、このコンセプトの実現の可能性を探ることにしたという。モアランドはさらに詳しい説明を続けた。
「ベースにしたのはカレラ2でした。われわれはこれに前輪を駆動するカレラ4のトランスアクスルを組み合わせました。前輪に駆動力を伝える機構の代わりにトンネルにモーターを取り付け、その動力をトランスアクスルに伝えて後輪を駆動させようとしたのです。上手くいきました」
どんな911にも搭載可能
上手くいくことが証明できたものの、さらなる問題が持ち上がった。この方式ではモーターに減速機としての機能において利点がないことが分かったのだ。そこで彼らはコンセプトを見直すことになった。モアランドは言う。
「OK。犠牲を恐れてはいけない。解決するにはどうすればいい? そこでわれわれはもう一度製図板に向かい、この方法を考え出したのです」
その成果が、Vonnenシャドウ・ドライブと呼ばれるハイブリッド・システムだ。このシステムは、どんな911にも搭載可能で、パフォーマンスを引き上げることができる。
その仕組みは、水平対向エンジンとギアボックスの間に電動モーター・ジェネレーター・ユニットを押し込むというもの。ポルシェが実際に992でやろうとしている方法とよく似ている。フライホイールの代わりに搭載された電動モーターは、スターター・モーターも不要にした。狭い空間に押し込められたこのユニットの幅は25mmほどで、ギアボックスもそれだけ前に移動させている。カレラ4やターボに搭載する場合は、フロントに駆動力を伝えるプロペラシャフトを25mm短くする必要がある。
モーター・ジェネレーターが150psと20.7kg-mを発生
このモーターに電力を供給するバッテリーは、荷室の床下に搭載。バッテリーの容量や種類について、Vonnenは今のところ口を閉ざしているものの、最高出力150psと最大トルク20.7kg-mを発生させるのに十分な容量であることは確かだ。クルマ全体の最高出力をどれだけブーストするかは、選択されたドライブ・モードによって異なる。このシステムにはモーター・ジェネレーター・ユニットの冷却回路とインバーターが追加されている。これは内燃エンジンの冷却系統とは独立しており、異なる温度で管理されている。システム全体の重量は約95kg。しかし、フライホイールとスターター・モーターが取り外されるため、実質的な重量増は77kgほどだ。
水平対向6気筒エンジンの電子制御ユニットはまったく変更されていない。Vonnenシャドウ・ドライブのコントロール・ユニットは、CANバスを通してスロットル・ポジションのデータを読み取り、必要に応じて電気によるブーストを加える。PDKのプログラムはクラッチのスリップ量を制御するために書き換えが必要だが、車両のそれ以外の部分はVonnenシャドウ・ドライブが搭載されていることを知らない。
ボクスターやケイマンにも搭載可能
このシステムは完全にオフにして電気によるアシストをゼロにすることもできる。ストリート・モード時には、スロットル開度が40~60%の間で12.4kg-mのトルクを発生してエンジンをアシストする。スポーツモードに切り替えると、65~95%のスロットル開度で11.0kg-mのトルクが加わる。オーバーブースト・モードでは、20.7kg-mをフルに発生することができる。
このシステムはまた、非常に適応性が高い。モアランドはおそらくどんな911でも、マニュアルでもPDKでも、標準仕様でもチューンされていても、自然吸気でもターボでも、搭載できると言う。1965年の最初期モデルから搭載可能だが、初期の911に取り付ける場合には入力をモニターするセンサーとマイクロスイッチの追加がいくつか必要だ。
さらにボクスターやケイマンにも搭載できる。試乗車は991の3.4ℓカレラPDK仕様に搭載されていたが、Vonnenは現在、GT3に搭載するためのさらなる開発に取り組んでいるという。費用は現在7万5000ドル(約840万円)ほど。高価だが、これは先駆的な技術であり、排出ガスに一切悪影響を及ぼすことなく、強力なパフォーマンスを加えることができる。このことはカリフォルニアでは、そして世界的にもますます、大きな意味を持つだろう。
Vonnenの911ハイブリッドに試乗
燃費改善や市街地を電気のみで走るためのハイブリッド技術については忘れよう。Vonnenシャドウ・ドライブは、パフォーマンスを向上させるためのハイブリッドだ。リア・ウインドウの下に置かれたインバーターを除けば、車内にその搭載を示すものは何もない。Vonnenによれば、このインバーターは顧客が望めば目に付かない位置に搭載することも可能だという。
ダッシュボードにはスマートフォンが装備されている。これも現在では特に珍しくもない。アプリではバッテリーやモーターの状態、ブースト量などを見ることができる。
システムのスイッチをオフにしても特に何も起こらない。標準の350psを発生する3.4ℓ水平対向6気筒エンジンに戻るだけだ。渋滞時にはアイドリング停止システムも機能する。
ストリート・モードに切り替えると、まずわずかな変化が起こる。それを感じるためにはクルマを走らせてスロットルを40%以上に踏み込む必要がある。そこでは確かにモーターのアシストが働き、高いギアでの柔軟性が高まる。つまり、頻繁にシフトダウンしなくても大丈夫になるということだ。モーター・ジェネレーターは低回転域に12.4kg-mのトルクを加えるので、混んだ交通環境における乗りやすさが増す。流れが速い道路では、さらに違いが顕著になるものの、電気によってブーストされるパフォーマンス向上はわずかしか感じられない。だが、それもスピード・メーターに目をやるまでの話だ。
少し賢すぎるシステム
パワーの出方が自然かつ漸進的なので、体感よりも速くて騙される。気が付くと思っていた以上の速度が出ている。しかも、ほとんど音がしない。微かな、それほど嫌ではない電気音が、水平対向エンジンのサウンドに混じって聞こえてくる。スポーツとオーバーブースト・モードに切り替えると、さらに素晴らしいパフォーマンスを発揮する。それはより明確に感じられるが、一般的なパフォーマンス・アップグレードに比べると、依然として体感的には控えめだ。
電気モーターはあくまでも補助的に機能する。シャドウ・ドライブという名称はその特性を言い表している。クルマ本来の魅力からかけ離れることなく性能を高める。回生ブレーキがはっきりと作動する感じはなく、好ましいエンジンブレーキが残されている。明らかに賢い、そして時には少し賢すぎるシステムだ。ストリート・モードの低回転域が、もっとも電気モーターによる恩恵を感じられる。
しかし、開発はさらに続いている。プログラムにも適用の仕方にも、変更の余地があることをVonnenは認めている。可能性については疑う余地がない。そしてこのシリコンバレーの会社が、ポルシェに刺激を与えたことは明らかだ。
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