■フランス大統領も絶句した「醜いアヒルの子」
古今東西「美しい」と讃えられたクルマは数あれど、ハッキリ「醜い」といわれたクルマは、決して多くはない。
しかし、醜いとまでいわれるのは万人には受け入れがたい個性の裏返しでもあり、数少ない醜いクルマたちは同時に、少数のコアなファンたちから熱狂的な支持を受ける。さらに長い時を経て「一周まわって」カッコいいとされてしまう事例もあるようだ。
今回は、ヨーロッパの名車の中から「醜い」といわれたクルマ3台をピックアップした。
●醜いアヒルの子:シトロエン「2CV」
第2次世界大戦が終結して3年後、1948年10月に開催されたパリ・サロンにて発表された戦後シトロエン初の新型車「2CV」は、自動車史上に冠たるベーシックカーの傑作といえるだろう。
強固なプラットフォーム上に載せられる、自動車の常識を覆すほどにシンプルなボディは、ドアやフェンダーの薄板化や、ルーフとトランクリッドをキャンバス張りとするなどの徹底的な簡素化により、大人4人が快適に移動できる居住性を確保しながら、車両重量にしてわずか495kgという驚くべき軽量を実現していた。
さらに革新的だったのは、前:リーディングアーム/後:トレーリングアーム式の4輪独立サスペンションである。この前後アームに継続するコイルスプリングは、サイドシル下に置かれた筒状の一体型ケースに収めたもの。しかも、アーム根元のフリクション式プレートと筒内でコイルに吊られた錘が上下する構造の慣性ダンパーの効力も相まって、「悪路でもカゴに入れた玉子を割らない」ソフトな乗り心地を実現していた。
そして、第二次大戦前に発表された「トラクシオン・アヴァン」の流れから、当然のごとくFFレイアウトとされたエンジンは、わずか375ccの空冷水平対向2気筒OHVを採用。パワーはたったの9psに過ぎなかったものの、軽量な車体のおかげで最高速にして65km/hという、高速道路「オートルート」もない時代には充分な動力性能に加え、リッターあたり約22kmの低燃費も両立していたのだ。
ところが、パリ・サロンにて初めて2CVを目のあたりにした観衆の第一印象は、決して芳しいものではなかったそうだ。
曰く「ブリキ小屋」ないしは「イワシの缶詰」などと嘲笑された上に、ワールドプレミアのアンベールを引き受けた当時のオリオール大統領も、当惑のあまり言葉を失ったという。こんなエピソードから、2CVはいつしか「醜いアヒルの子」と称されてゆくのだ。
でも、2CVにとって真の購買層と見込まれていた地方の農民たちは、このクルマの才能を早々に見抜いていた。そして「自動車」というよりは、鋤やクワなどの農具や鍋釜にも等しいフランス人の「民具」として認知され、まずは農村から大ヒットを博することになる。
しかも、当初はとまどいを隠せなかった都市在住の知識人や富裕層も次第にこの合理性を認めたばかりか、持ち前の個性とエスプリからファッション的な記号性、さらには、政治的なメッセージまで見出すようになっていった。
そして、その名声の届く範囲が世界に広がった2CVは、ポルトガル工場生産分を含めると1990年まで、つまり52年の長寿を誇る超ロングセラーとなる。
それは「醜いアヒルの子」が白鳥に成長せずとも、みごとに羽ばたいたことの証ともいえよう。
■MoMAに展示されたブサイクなクルマとは
1962年6月27日、アルファ ロメオのホームコースとも称されるモンツァ・サーキットにて発表された「ジュリアTIベルリーナ」。
発表された当初はアルファの運命を変える大ヒット作となった前任モデル「ジュリエッタ」の上級モデルとして併売されていた。それは「ジュリエッタの姉」を示すネーミングにも示唆されていたのだが、実像はやはり「ジュリエッタ・ベルリーナ」の後継車である。
●醜いジュリア:アルファロメオ初代「ジュリア」
組み合わされたエンジンは、ジュリエッタ用の直列4気筒DOHC1290ccを1570cc・92psまでスケールアップしたもの。ジュリア用としては新たに5速トランスミッション、4輪ディスクブレーキ(最初期モデルを除く)など、ジュリエッタ以上に贅沢な装備が盛り込まれた。
これは当時のファミリーサルーンの常識からすれば、充分以上に優秀といえる内容であり、持ち前の高性能を生かしてモータースポーツでも活躍した一方、イタリアではパトロールカーとしても大活躍した。
加えて、オリジナル版「ミニミニ大作戦(1969年・英)」や「フェラーリの鷹(1976年・伊)」など、当時のイタリアを舞台としたカーアクション映画では、いわゆる「負けキャラ」パトカーとして、貴重なバイプレイヤーの役割も果たしていた。
一連のジュリア・ベルリーナはボクシーなスタイリングから、とくにわが国では「醜いジュリア」なる、ひどいニックネームで呼ばれたりもしたものの、実は本格的なエアロダイナミクスが導入された世界最初のサルーンの1台であることは、史実として知られている。現在でこそ自動車デザインにおける必須条件となっている風洞実験がおこなわれたという事実も、1960年代初頭の量産セダン開発では、まだまだ珍しいことだったのだ。
しかし理詰めで創られたはずのルックスが、結果として強烈な個性を湛えていたことから、母国イタリアやヨーロッパのみならず、世界中でコアなファンを持つことになるのだから、クルマというのは分からないもの。
1974年には、ノーズ周辺を中心とするフェイスリフトによって、多少なりともボディデザインのアクを弱めた「ヌォーヴァ(新)ジュリア」に移行するが、現在のエンスージアストにとってはもの足りないのか、クラシックカーマーケットにおける相場価格は「醜いジュリア」に遠く及ばないのが現状なのだ。
ところで「醜いジュリア」という言葉は日本語としてはしばしば聞くものの、たとえば英語の「Ugly Giulia」や母国イタリア語の「Brutta Giulia」というニックネームで呼ばれる事例は聞いたことがない。
もしかしたら、初代ジュリアを醜いと思っているのは、我々日本のファンだけと考えてしまう一方で、この「醜いジュリア」をイタリア人の次に愛しているのが日本人であることもまた、間違いのない事実と確信しているのである。
●世界一醜いクルマ:フィアット2代目「ムルティプラ」
1998年にフィアットからデビューした「ムルティプラ」は、1956年に登場した「600ムルティプラ」の名前と精神を引きついたMPVミニバン。超個性的なルックスも、2世代に共通するものだった。
元祖ムルティプラは、2ドア4座席のフィアット「600」をベースに全高を約20cmかさ上げして、運転席・助手席をフロントアクスルの上に置く「フォワードコントロール」とするかたわらで、ルーフをフロントエンドまで延長して、シートレイアウトの3列/6座化を実現していた。
一方2代目ムルティプラは、3995mmの全長に1875mmの全幅を組み合わせて、そのワイドボディを生かした3人掛け2列シート配置により、大人6名が快適に移動できる空間を確保。結果として得られた広いグラスエリアによって室内は明るく、車内のそれぞれ独立したシートは大柄な人でもゆったり座ることができた。
全長をことさら短く抑えたのは、ヨーロッパのカーフェリー運航会社が、日本と同じく全長4mを境として大きく跳ね上がる料金体系としていたからといわれている。
また、前後とも横3人の乗員のショルダースペースを得るために、左右のサイドウィンドウは切り立った絶壁状としたことから、グラスエリアはまるで巨大な水槽を乗せたような独特のスタイルとなった。
しかし、2代目ムルティプラの強烈きわまる個性を決定的なものとしたのは、ノーズセクションのスタイリングであろう。ヘッドライトは通常のノーズ先端にロービームを配置。ウインドシールド下にハイビームを置くというユニークなレイアウト。これはボンネットを低めて前方の視界を良好なものとするための方策だったそうだが、結果としてほかのどのクルマとも似ていない、特有のスタイルを形成することになった。
デザインワークを主導した「フィアット・チェントロスティーレ(デザインセンター)」のロベルト・ジョリート氏は、おそらく確信犯的にこのデザインを推し進めたと思われる。果たしてムルティプラのデザインは酷評をもって迎えられ、イギリスのコラムニストからは「世界でもっとも醜いクルマ」「このクルマは実際に乗るべきものだ。なぜなら車内にいる限りは、醜い外観を目にしなくて済むから」という辛辣なジョークも語られていたという。
そして、英国BBCの人気TV番組「Top Gear」が開催していた「Top Gearカー・オブ・ザ・イヤー」2000年版では「もっとも醜いクルマ(Ugliest Car)賞」にも選出され、不細工なクルマとしての地位を確立したのだが、その一方で1999年にニューヨーク近代美術館(MoMA)が開催した企画展「Different Roads – Automobiles for the Next Century」に展示される。すなわちモダンアートとしての側面が認められるなど、まさに賛否両論だった。
2004年におこなわれたマイナーチェンジでは、フロント回りが大幅にリファインされ、独特の個性はやや薄められてしまったが、その中身は変わることなく2010年まで生産された。
しかしアルファ ロメオ・ジュリアの事例と同じく、いわゆる「エンスー」と呼ばれる人種の間で後期型ムルティプラの人気がさっぱりなのに対して、前期型ムルティプラはヤングタイマー・クラシックとして一定の評価を得ているのは、やはり個性を愛するファンが少なくないということであろう。
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みんなのコメント
昔、シトロエン2CVとルノー4とフィアットパンダで悩んでパンダを買いましたが、2CVを買っておけば良かったと思います。
先日、行きつけの車屋さんで2CVのフルオープンを見ました。
サイドパネルが残らないフルオープで、前から見れば2CVと分かりますが後ろから見たら全く分かりませんでした。