日本に上陸したメルセデス・マイバッハ初のピュアEV(電気自動車)、「EQS680SUV」に小川フミオが乗った。新しいラグジュアリーの世界とは。
贅沢なリヤシート
メルセデス・ベンツの“超”高級ライン、メルセデス・マイバッハ初のピュアEVのEQS680SUVが2024年8月1日に発売された。とんでもなく贅沢なリムジンだ。
試乗したモデルには「ファーストクラス・パッケージ」なるオプションが装備されていて、シャンパングラス収納部、脱着可能な大型クーリングボックス、センターコンソールの格納式テーブル、温度調整機能が備わったカップホルダー、それにセンターアームレストヒーターなどを含む。
航空機のファーストクラスと違うのは、ウインドウから見える景色ぐらいだろうか……空と雲でなく、市街地や自然の風景などを目で楽しみながら、好きなシャンパーニュをすすっていられる。後席のクッションがたっぷり効いたバックレストは、フルフラットではないけれど、150度ぐらいまで寝かせられるので、休養をとりながらの移動も可能だ。
「電動コンフォートドア」なる新機能を採用し、ディスプレイを操作することで前後ドアの開閉が可能だ。外部からドアを閉めるときには、ドアハンドルのボタンに軽く触れると、電動でドアが動き、“カチッ”とラッチが噛み合う。
ユニークなのは、後席乗員がドアを開けるときだ。最初の30cmぐらいは重く感じた。おそらく、パッと開けたときに後方からの交通や人に接触する危険性を減らすためだろうか。
ドライブトレインは、前後にモーターを搭載しての全輪駆動。118kWhと大容量の駆動用バッテリー搭載で、トータル出力は484kW(658ps)、最大トルクは955Nm。一充電走行距離は640km(WLTC)とされる。
トルクのカーブは上手に調整されていて、初期のEQモデルのようないきなりのけぞるような大パワー……ということはなく、実にスムーズ。ただし先述のとおり、強大なトルクなので、どこまでも加速が続く印象だ。
高速走行時などアクセルペダルを強く踏み込まないような状況では、前輪が駆動系から切り離され、完全な後輪駆動となる。それによって摩擦などのロスを提言し、燃費(というか電費)を稼ぐ設定だ。
充電ステーションの場所などは、MBUXに音声で確認することができるし、「Electric Intelligenceナビゲーション」を使えば、「マップデータから得た(道路の)勾配情報、充電ステーションの位置情報、車両の充電状況及び気温情報 などを総合的に判断し、どこで充電すべきかも含めた適切なルートを案内」してくれると、メーカーでは謳う。
ドライブモードの特徴として「マイバッハ」モードがあげられている。ひとことでいうと、後席乗員の快適性を重視した設定だ。従来のコンフォートモードの呼び名が変わった。ドライバーズシートにいるときは、スポーツもいいが、意外にエコモードがスムーズで気持ちよい。
快適な乗り心地異次元の感覚があるのは、3枚の高精細パネル(コックピットディスプレイ、有機ELメディアディスプレイ、有機ELフロントディスプレイ[助手席])がダッシュボード全体を1枚のガラスで覆う「MBUXハイパースクリーン」が拡がるダッシュボードと、車内全体に流れるように配置されたアンビエントライト(メーカーでは「ライトバンド(光の帯)」と呼ぶ)だ。
独自の世界観がフルに味わえるのは後席が最良のポジションなのだけれど、ドライバーはドライバーの楽しみがある。3050kgというヘビー級の車重をまったく意識させない軽快な操縦感覚を堪能可能だ。
荒れた路面では、275/40R22の大きなタイヤの存在感を感じる場面もあるが、基本的に乗員の姿勢はフラット。標準装備された、連続調整ダンパー「ADS+」を組み合わせたAIRMATICエアサスペンションがよく働いている印象だ。メルセデス・マイバッハ「Sクラス」と同様の快適な乗り心地が提供される。
もうひとつ、ユニークな特徴が車体の塗色だ。試乗したモデルは、「ベルベットブラウン」の車体に、「オニキスブラック」のトップという塗り分けだった。とくにトップは、フレークが入った凝った塗料で、光にあたると無数の星が映り込んでいるようにキラキラと輝いていた。
新型メルセデス・マイバッハEQS680SUVの価格は¥27,900,000。試乗車はオプション込みで¥34,523,000! もっとも、3000万円超にふさわしい重厚な1台だった。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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